市川染五郎、歌舞伎座で堂々の初主演 悲劇の武将描く「信康」

東京, 6月19日, /AJMEDIA/

 歌舞伎俳優の市川染五郎が、東京・歌舞伎座「六月大歌舞伎」第二部「信康」で悲劇の武将、徳川信康を好演している。弱冠17歳で任された大舞台での初めての主役。開幕前には「自分にお客さまを集められるだけの力があるか」と語っていたが、祖父の松本白鸚をはじめ先輩俳優らが脇を固める中で、堂々とした若殿ぶりで抜てきに応えた。
 徳川家康の嫡男として生まれ、9歳で織田信長の長女徳姫と祝言を挙げた信康が、戦で優れた資質を発揮するも謀反を疑われ、信長の意をくんだ家康の命により21歳で切腹する姿を描いた作品。1974年に初演され、96年の再演では市川海老蔵(当時は新之助)が演じている。
 信康の悲劇は映画「反逆児」や他の歌舞伎作品でも描かれているが、今回演出を担当した齋藤雅文とは「新しい信康を作ろう」と話し合った。「戦の能力に長けていて、理知的であるがゆえに、信長が、いつか自分の脅威になると感じて殺させる。それを信康は徳川家のために受け入れることを選択する。決して哀れな、みじめな人ではなく、最後まで自分の強さを貫いた人だと感じていただければ」と染五郎。
 すらりとした長身、憂いのある切れ長の目元。今回新調された鮮やかな水色の衣装で花道からさっそうと登場するところから、若殿らしい気品とオーラが発散する。松平康忠(中村鴈治郎)や平岩親吉(中村錦之助)ら家臣に支えられながらたくましく成長し、家康と対峙(たいじ)する構図が、現実の染五郎の歌舞伎俳優としての立ち位置と重なって見えた。
 せりふの間や言い方、場面の空間を意識しながら話すことなど細かい演技指導を齋藤から受け、5月には岡崎城(愛知県岡崎市)や二俣城跡(浜松市)などゆかりの地も一緒に訪ねた。「現地に行かないと分からないことを感じることができた。齋藤さんは、信康が当時見た空間を舞台上で演じる時も意識して、お客さまにイメージしていただけるようにすることを教えてくださいました」
 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で木曽義仲の嫡男・義高を演じて注目されたのも記憶に新しい染五郎。義高もまた、若くして非業の死を遂げた。悲運を背負った若者を演じて、今まさに時分の花を咲かせている。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts