芥川賞に九段理江さん 直木賞に河崎秋子さんと万城目学さん

東京, 01月18 /AJMEDIA/

第170回芥川賞と直木賞の選考会が17日、東京で開かれ、芥川賞に九段理江さんの「東京都同情塔」が、また、直木賞には河崎秋子さんの「ともぐい」と、万城目学さんの「八月の御所グラウンド」の2作が選ばれました。

芥川賞
九段理江さんは…
芥川賞の受賞が決まった九段理江さんは埼玉県出身の33歳。

大学卒業後、研究室の助手などを務め、2021年、「悪い音楽」で文芸誌の新人賞を受賞し、小説家としてデビューしました。

芥川賞はおととし、166回の「Schoolgirl」に続き2回目の候補での受賞となりました。

受賞作の「東京都同情塔」は、「犯罪者は同情されるべき人々」という考え方から、犯罪者が快適に暮らすための収容施設となる高層タワーが、新宿の公園に建てられるという未来の日本が舞台です。

タワーをデザインした建築家の女性が、過度に寛容を求める社会や生成AIが浸透した社会の言葉のあり方に違和感を覚え、悩みながらも力強く生きていく姿が描かれています。

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直木賞には2人の作品
河崎秋子さんは…
河崎秋子さんは北海道出身の44歳。

大学を卒業後、酪農を営む実家で働きながら執筆活動を始め、三浦綾子文学賞を受賞したデビュー作の「颶風の王」など複数の作品で文学賞を受賞しています。

2019年からは作家としての活動に専念し、直木賞は、おととしの「絞め殺しの樹」以来、2回目の候補での受賞となりました。

受賞作の「ともぐい」は、日露戦争の足音が聞こえる明治時代後期の北海道東部を舞台に、人里離れた山の中でひとり野生の動物を撃って暮らす猟師の物語です。

どう猛なクマと、執念深く追い続ける猟師との命を奪うか奪われるかの激しいせめぎ合いが臨場感あふれる描写で表現されているほか、時代が移り変わる中、人間的な暮らしと獣たちの生きざまの間で揺れ動く猟師の生涯が骨太に描かれています。
万城目学さんは…
万城目学さんは大阪市出身の47歳。

京都大学を卒業後、化学繊維メーカーに勤めながら小説を書き始め、2006年に京都の大学生を主人公にした「鴨川ホルモー」でデビューしました。

その後、テレビドラマにもなった「鹿男あをによし」や、映画化された「プリンセス・トヨトミ」などの作品で人気を集め、直木賞は6回目の候補で受賞となりました。

受賞作の「八月の御所グラウンド」は、京都を舞台にしたスポーツにまつわる2つの物語です。

冬の都大路を駆け抜ける全国高校駅伝で先輩に代わって急きょ出場することになった方向音痴の女子高校生が、走っている最中に遭遇した不思議なできごとを描いた「十二月の都大路上下ル」と、8月に京都で人知れず開かれている草野球の大会に出場することになった男子大学生とある人物との出会いを描いた表題作の2編で、どちらも京都で起こる不思議な出会いと青春の物語をやさしい筆致で描いています。

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芥川賞の選考委員 吉田修一さん「欠点探すのが難しい」
芥川賞の選考委員で作家の吉田修一さんはリモートで会見に応じ、九段理江さんの「東京都同情塔」を芥川賞に選んだことについて、「1回目の投票で過半数のかなり高い評価を得てほぼ決まりました。最終的に小砂川チトさんの『猿の戴冠式』も含めてもう一度投票しましたが、九段さんの受賞となりました」と話していました。

そのうえで、評価のポイントについて「選考委員の皆さんが口をそろえて話していたのはとても完成度が高く欠点を探すのが難しい作品ということでした。架空の東京を舞台にした小説ですが、登場人物の思想の一貫性など、いろんなものがリアリティーを与えてうまく機能しているのではないかと評価されていました。芥川賞ではありますが、エンターテインメント性の高い作品ではないかという意見があって、舞台設定や登場人物の動かし方など、多くの読者に届くというか、読者がおもしろがって読めるような作品になっていて、これまでの、最近の芥川賞の中でもけうな作品だという話も出ていました」と指摘していました。

直木賞の選考委員 林真理子さん「非常にレベル高い選考会」
直木賞の選考委員で作家の林真理子さんはリモートで会見に応じ、河崎秋子さんと万城目学さんの作品が選ばれた過程について「河崎さんの受賞が先に決まり、残り2作、万城目さんと嶋津さんで決選投票を行った結果、万城目さんに決まりました。非常にレベルが高い選考会となり、時間がかかりました」と説明しました。

そのうえで、河崎さんの「ともぐい」について「圧倒的な文章力で計算が行き届き、自然描写がすばらしい。自然と近代との対立、オスとメスとの対立というさまざまな対立が表現されていて、文章の迫力にとにかく圧倒されました」と評価しました。

また、万城目さんの「八月の御所グラウンド」については「エンターテインメントの一種の理想型で特別なことを書いているとか、奇をてらっている訳ではなく、普通のことを書いて感動がある小説を書くということは非常にすごいことだという意見が出されました。日常の中に非日常がふわっと入り込んでくる絶妙さとバランスの良さがすばらしく、ベテランの強みを見せる絶妙な文章だと高く評価されました」と話しました。

このほか、2つの作品が直木賞に選ばれている近年の傾向について問われると「いい作品がなかったから2作で埋めようという形ではなく、レベルが高い作品を落とすことをやめようという意味で2作を選んでいます。選考委員では、どちらも落とすことができないのであれば2作を受賞させるという考え方を貫いています」と説明しました。

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