(社説)カラバフ紛争 和平への機運を逃すな

東京, 6月22日, /AJMEDIA/

 旧ソ連の南の端で、30年以上続く戦争がある。アルメニアとアゼルバイジャンの二つの国が帰属や統治を巡って争うカラバフ紛争だ。多数の犠牲者を出した対立が、和平に向けて大きく前進している。

 両国の首脳間では大筋で合意に近づいていると取りざたされる。この機会を逃してはならない。周囲の国々や国際社会は、目先の利害にとらわれず、両国の対話を支えてほしい。

 アゼルバイジャン領でありながらアルメニア系住民が多いカラバフでは、ソ連時代の1980年代から衝突が続き、90年代の第1次紛争ではアルメニアが勝利して周辺を含めた地域を支配した。

 2020年の第2次紛争では逆にアゼルバイジャンが領土の多くを奪還した。過去何度も繰り返された虐殺への懸念も強まった。欧州のシンクタンクは今年、世界で注目すべき紛争として、ウクライナに次いでこの地域での対立を挙げた。

 しかし、アルメニアの首相が5月、カラバフでのアゼルバイジャンの主権を認める発言をするなど、和平協議が急展開した。アルメニアの同盟国ロシアがウクライナ侵攻に気を取られて影響力を大きく失い、現実対応を迫られたとみられる。アゼルバイジャンの同盟国トルコとアルメニアとの関係改善も進み、地域の安定に向けてまたとない機会となった。

 懸念材料は、妥協を拒む当事者両国の国民感情だ。両国の政府や知識人がかつて、世論の対立をあおったからでもある。それぞれの政府は、和平の重要性を自国民に説明し、理解を得るよう努めてほしい。

 現場で相変わらず続いている武力衝突も心配だ。両軍とも挑発を慎み、何より互いに距離を置き、偶発的なぶつかり合いを避けるべきである。

 この紛争には、欧州各国や米国、ロシアのほか、地域大国のトルコやイランも深くかかわっている。可能な限り協力し、和平の機運をもり立ててほしい。他の地域の対立をこの場に持ち込んではならない。もしこの和平に成功すれば、ロシア周辺に数多くある紛争を解決するモデルともなるだろう。

 現在は紛争で寸断されているが、この地域はアジアと欧州とを結ぶ物流の大動脈となる可能性を秘めており、地域協力が進めば繁栄が期待できる。アゼルバイジャンは石油や天然ガスの豊富な資源を持ち、アルメニアは米欧に広がる移民ネットワークを通じた影響力を誇る。

 ぜひ、それらの特性を相乗効果で生かし、地域全体の発展に結びつけてほしい。日本も、その支援に一役買いたい。(朝日新聞)

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