背景に油断、検証徹底を 基準明示、攻撃者の視点も重要―高橋元警視総監に聞く・安倍氏銃撃

東京, 8月7日, /AJMEDIA/

 安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され、死亡した事件は8日で発生から1カ月となる。社会を揺るがした事件を二度と繰り返さないための課題は何か。警備の指揮経験が豊富な高橋清孝元警視総監は「事実を徹底的に検証し、国民にきちんと説明することが必要だ」と語る。
 高橋氏は「警察法上、警備実施の責任は奈良県警にある」とした上で、安倍元首相の背後の警備の手薄さ、全方向から見渡せる遊説場所の選定などに問題があったと指摘する。警護対象者の脅威の評価などを担う警察庁に対しても「ほかの元首相と同じ警護レベルの指定で良かったのか」と疑問を呈する。
 警護警備の複数の問題が絡まって起きたとされる事件の背景には「油断があった」と高橋氏。近年、要人警護をめぐる大きな事件はなく、本格的な検証や見直しをする機会はなかった。「何も起きなかったことを『良し』とし、その積み重ねが大きな失敗へとつながった」と語る。
 今回の奈良市での遊説は、前日に決まった。高橋氏は「警護警備は急に言われても対応すべきだ、というこれまでの考え方が本当に良かったのか」と話す。得票につながる選挙活動に力を入れる政党側と、警護対象者の安全確保を任務とする都道府県警による調整には、常にバランスが求められる。「警察庁が安全対策上のガイドラインのような一定の基準を示した方が現場も調整をしやすい」という。
 地方での選挙遊説の際、経験が豊富な警視庁の警護員(SP)に権限を与えるなどし、「攻撃者の立場になって現場を事前に点検する担当者を配置する必要もある」とも話した。
 事件は、組織の指揮を受けずに単独で行動する「ローンウルフ(一匹おおかみ)型」の犯罪だったとみられている。犯行の予兆をつかみにくいのが特徴で、「警察だけで対応しきれない部分もある」。警察当局は民間と連携し、爆発物の原料となり得る化学物質の販売業者や宿泊施設に対し、本人確認徹底などの協力を求めているが、「こうした対策を今後も地道に進めていくしかない」と語る。
 
 ◇高橋元総監の経歴
 高橋 清孝氏(たかはし・きよたか)東大法卒。1980年に警察庁入庁後、北海道警本部長、警視庁警備部長、警察庁警備局長などを経て2015年8月~16年9月に警視総監。大規模災害時などに関係省庁の総合調整をする内閣危機管理監も務めた。65歳。

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