画像生成AI 学習データの透明化取り組む 開発者らが団体設立

東京, 6月22日, /AJMEDIA/

利用が急速に広がっている画像生成AIについて、著作権を侵害しない適切な活用を目指すための任意団体を、AI開発者や企業のAI活用の担当者、弁護士などの有志が設立し、AIの学習データの透明化などに取り組んでいく方針を発表しました。

設立されたのは「日本画像生成AIコンソーシアム」通称「JIGAC」で、国内のAI開発者や企業のAI活用の担当者、大学の研究者、弁護士などの有志およそ20人で立ち上げました。

20日、都内で開かれた会見では、代表に就任した画像の提供サービス会社の望月逸平さんが「著作物の保護とテクノロジーの進化を両立させ、日本のAI技術を世界と対等なレベルに押し上げることを目指します」と述べ、今後の取り組みについて説明しました。

具体的には、著作権を持つクリエーターがAIにデータの提供を許すかどうか意思表示することができる仕組みや、データの提供者が適切な対価を得られる枠組みなどを検討していくとしています。

そして、ブラックボックスとされているAIの学習データの透明性を高め、著作権を保護しながらAIの開発や利用がしやすい環境を整備し、必要に応じて国に提言を行っていくとしています。

望月代表は「権利侵害リスクがあるとユーザ側も利用しにくいので、透明性の担保は非常に重要だ。日本の法律のもと、業種を超えた連携で画像生成AIのエコシステムを構築し、モデルケースとして世界に発信していきたい」と話していました。

「作品データ勝手に利用された」クリエイターの懸念高まる
生成AIに関連して、業界団体がクリエーターを対象に行ったアンケート調査では、「作品のデータが勝手に利用された」などと権利侵害を訴える声が数多く寄せられ、懸念が高まっています。

アンケートは生成AIの利用拡大を受けて、俳優や音楽家などで作る日本芸能従事者協会が、先月8日から28日までの間、インターネット上で実施したもので、イラストレーターを中心に声優や漫画家など、2万6891人が回答しました。

それによりますと、「AIによる権利侵害などに不安がある」とした人は、およそ94%にのぼり、「自身の作品がAIに利用された事例」を聞いた自由記述では、2612件の回答が寄せられました。

具体的には、
▽自分の漫画がAIの学習データとして勝手に使われていた
▽作品がAIで改変され無断で公開されていた
▽イラストの作品がAIの学習に使われ、そっくりなものがネットで販売されていたといった声のほか、
▽モデルをしているが、自分の顔で写真のような画像が生成された
▽2次利用を禁止して公開した自分の声が、無断で販売された、などといったものもありました。

また、契約を結んでいる企業から「あなたが描くイラストはAIで一瞬で作れる」などと言われて契約を打ち切られたなど、AIの影響で仕事が失われたとするイラストレーターの切実な声も寄せられました。

アンケートでは、回答者のおよそ5分の1が「法律による規制」を求めているほか、生成AIを使用する際のガイドラインの作成と公表、AI生成物の商業利用の停止、データの権利者に正当な対価が支払われることなどを求める意見も寄せられました。

アンケートを行った日本芸能従事者協会の代表理事を務める俳優の森崎めぐみさんは「クリエーターの間で不満や懸念がとても高まっていることを感じている。厳しい立場に置かれている人たちの思いをしっかりと発信していきたい」と話していました。
イラスト系SNSは“無法地帯”
生成AIをめぐり、多くのクリエーターが権利侵害を懸念する中、イラストの投稿や販売が出来るサービスのサイトやSNSなどでは、タレントや芸能人などの画像や他人のイラストを使ったAI作品が、数多く無断で公開され、いわば“無法地帯”のようになっています。

こうした中、サービスの運営側がAIによる作品の投稿などを自主的に規制する動きも広がっています。

このうち、イラストに特化したSNSの「pixiv」では、実在する俳優などの画像を利用してAIで生成した画像や、アニメ作品のキャラクターに似たAI作品などが無断で公開されていて、肖像権や著作権の侵害を問題視する声がSNSなどで多くあがっています。

こうした状況を受けて、「pixiv」は先月31日、「AI技術の急速な発展によって発生している迷惑行為に対処するため」などとして、AIによる作品の投稿に関する利用規約とガイドラインを変更しました。

具体的には、
▽「pixiv」に投稿されている作品を勝手にAIの学習データに利用して生成した作品を投稿する行為や
▽第三者の作品と似た作品をAIで作成し、繰りかえし投稿する行為
▽こうした投稿を助長するツールなどを販売する行為を規約で禁止するとしました。

また、サイトのページを占有するほどのAI作品の大量投稿はガイドラインで禁止し、違反した場合は警告や非公開化、アカウントの停止といった処分を行うとしました。

一方、クリエーターから直接作品を購入できる「pixivリクエスト」などの関連サービスでは、AIによる作品の投稿を全面的に禁止しました。

また別の会社が運営するイラスト販売のサービスでも、先月以降、AIによる作品の投稿や販売を全面、または一部禁止する規約変更が行われるなど、自主規制の動きが広がっています。

「pixiv」はNHKの取材に対し「作品投稿プラットフォームの立場として回答することが難しい」としています。
AIモデルのグラビア写真集 販売終了迫られる事態に
出版大手の集英社は先月、AIを使って生成した実在しないモデルのグラビア写真集を発売しましたが、SNSを中心に賛否両論の意見が寄せられ、一週間あまりで販売終了を迫られる事態となりました。

販売を終了したのは、先月29日に発売された「週刊プレイボーイ」の編集部がAIを使って生成した実在しないグラビアアイドル、「さつきあい」の電子書籍の写真集「生まれたて。」です。

集英社は発売当初、「オトコの理想をギュギュッと詰め込んだ夢のような存在を、限りなくリアルに再現した」などとしてSNSなどで宣伝して、売り出していました。

発売後まもなく、SNSでは「AIのアイドルは不祥事を起こさないから安心できる」とか、「スケジュール調整やギャラが不要」など、新たなジャンルとして評価する声があがった一方、実在するモデルの女性に似ていると指摘する声や、グラビアアイドルの仕事が奪われると懸念する声など、否定的な意見もあがっていました。

こうした事態を受けて、集英社は今月7日、写真集を販売終了すると発表しました。

集英社は「グラビアにおける生成AIの可能性を探るために企画したものです」とした上で、販売を終了した理由について「発売後よりたくさんの意見を頂戴し、編集部内で改めて検証した結果、制作過程において、生成AIをとりまくさまざまな論点や問題点についての検討が十分ではなく、より慎重に考えるべきだったと判断した」などとしています。
文化庁 “著作権侵害なら刑事罰の対象にも”
生成AIをめぐる著作権侵害について、文化庁の著作権課は「開発・学習段階と生成・利用段階で分けて考える必要があり、生成・利用段階で類似性や依拠性が認められれば著作権の侵害にあたる」などとしています。

文化庁の著作権課によりますと、現在の著作権法では、AIが学習用のデータとして著作物を収集・複製し、学習用データセットを作成することは原則として認められていますが、「必要と認められる限度を超える場合」や、「著作権者の利益を不当に害する場合」を除くとしています。

そして、生成・利用段階では、私的な利用は問題ないとする一方、インターネットなどでの公開や、販売で対価を得る場合などは通常の著作権侵害と同様に扱うとしています。

AIによる生成物が既存の著作物とどのぐらい似ているかという「類似性」と、他者の作品を利用して創作したかどうかという「依拠性」の両方が認められた場合で、著作権者の許可を得ていなければ著作権の侵害にあたり、著作権者は画像の削除要請や損害賠償請求などが可能で、権利を侵害した場合、刑事罰の対象にもなり得るとしています。

文化庁の著作権課は、こうした考え方をホームページに掲載した上で、「著作権の侵害にあたるかどうかは、最終的には裁判所が個別の作品ごとに判断するが、文化庁としてAI生成物に関する考え方を整理し、周知を進めていく」としています。
専門家「大きな一歩」
人間と人工知能との関係を研究する国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「画像などの権利者に対して一定の配慮を目指すということは大きな1歩だ。著作物の権利関係が整理され、権利者の不安が解消されれば、結果的にはAIの学習データは増え、品質が上がるなど、権利者と利用者の双方にメリットが出てくるのではないかと思う。ただ、いまの仕組みでは生成AIの著作物が誰かの絵と似ているといっても偶然の産物なのか、そうでないのか、なかなか判断も難しい状況だ。具体的にどの画像を参考にしたのか、事業者側にもわからないこともある。著作物を包括的に管理して、権利者に何らかの利益配分をする仕組みが求められる」などと話していました。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts