心の目で見る日本

東京, 9月15日, /AJMEDIA/

国会議員であるガニラ・パシャエワの本『ステップバイステップ日本』(バクー、CBS PP、2021年)が、今年出版された。 アゼルバイジャンと日本の関係の全体像を概説する本書の編集者はアクバル・ゴシャリ氏、ガーセル・イスマイイルザデアゼルバイジ ャン大使、翻訳者タラナ・トゥラン・ラヒムリ氏、日本におけるAZERTACの特別代表のヴガルアガエヴ氏である。

 日本は特殊である。日本について書くことは、日本の多元文化、古代と現代の融合の美しさを見て描写し、日本を見たことのない読者の想像力の中に日本のイメージを作り出すことは、非常に難しいことだ。
 アゼルバイジャン共和国国会の文化委員会議長であり、アゼルバイジャン・日本議員連盟のメンバーでもあるガニラ・パシャエワ教授は、著書「ステップバイステップ日本」の中で、この難題を見事に克服した。本書から日本の生活様式について明確に想像できる。この本の著者はこの国民の賢明な生き方、道徳基準、高い人間性から浮かび上がるイメージを結びつけて日本の風景を見ている。日本の精神的な豊かさ、価値観、何世紀も前から受け継がれる伝統的な習慣などがまるで実際に見ているかのようにリアルに伝わってくる。

 近年、アゼルバイジャンでは日本に関する作品や書籍が出版されているが、その数は十分ではなく、日本の生活の独自性を包括的に印象づけるものではないことに留意すべきである。一方で、日本の人名や地名はロシア語の翻訳を元にしているため、これらの本には歪曲が多い。ヤポニアという呼び方もロシア語からいくつかのロシア語圏の国に広がった。

 ヨーロッパからの初めての極東への旅行者であるマルコポーロは13世紀に中央アジアを経由して中国へ行った。中国の近くの国で日本はチパンゴと呼ばれていた(チパンゴ・チアパン・チャパン・ジャパンとなる)。本来は日本という国名が、極東の国以外ではヨーロッパやロシアの影響によりヤポニアやジャパンと呼ばれたのである。

 アゼルバイジャンを含む旧ソ連の国では日本に関する記事などがロシア語から翻訳されているためロシア語から影響を受けた言葉がそのまま使われたのである。ソビエト時代から、有名な富士山は「フズィ」、作者の松尾 芭蕉は「マツオ・バソ」、広島は「ヒロスィマ」として知られていた。そのような使われ方がたくさんある。それに対してパシャエヴァ氏の『ステップバイステップ日本』では、正しい発音を正確に記し、各名称を原文のまま書いて、さまざまな言語によって不正確に伝えられていた日本語の発音を正しく書き取ったのである。

 この本には、古からの伝統を守り、現在の自由や平和や豊かさを実現した日本人固有の倫理観や思想が描かれている。パシャエワ氏は、日本人が古来から伝わる思想や伝統を守り続けてきた理由を、歴史と国民性によると考えている。パシャエワ氏は本書で、日本人を世界の人々から、そして多くの共通の価値観を持っている極東の人々から区別し、日本人の特徴をまとめている。

 日本は江戸時代に国防のためヨーロッパと近隣諸国に門戸を開かない国であった。諸外国との関係は1868年の明治維新から始まる。それまでは諸外国との関係は制限されていた。そのようにして、長い歴史のある伝統や文化をそのままに維持できた。

 この本を読めば、過去から日本は民族的に、人生観、世界観や習慣があまり変わっていないことが再認識できる。科学技術が進歩し、日本人はこの分野では世界でトップレベルになったにもかかわらず、独自のシンプルな生活様式や100年来の習慣を守り続けている。

 パシャエヴァ氏は禅で「宇宙の中心が1つであるとしたら、それぞれの心は宇宙である。」と書かれてある考え方に基づき、日本の独自性や美しさ、だれにも強烈な印象を残す秘密は日本人の心にあると信じている。パシャエワ氏は、日本人が美学を感じ、人生を美しくできる民族であるとして、次のように述べている。「一般的な日本人の考え方は、いかなる場合でも隠されて見えない美しさを探すという特徴がある。 この考え方は、美しい心を持ち、美しさを感じる人にだけあるものだ。」(Pashayeva G. Step by step Japan、Baku、2021、p.101)。」

 作者は、日本人が世界で最も礼儀正しい人間だと考え、次のように述べている。「日本では、誰もお互いのことを気にしていない。電車や地下鉄では、他の人を見ないように、多くの人が目を閉じて眠っているようだ。日本語には汚い言葉や悪口が少ない。男性と女性の口論や争いが少なく、喧嘩をしてもせいぜいドアをバタンと強く閉める程度である。」 これを読めば、丁寧さを示す「お/ご」が日本語の文法にしかないことを思い出すだろう。 「お元気ですか?」という表現には、他の人の気持ちを聞きながら、尊敬が含まれている。これは日本語独自の丁寧さである。

 自然を敬う日本では、国を象徴する花である桜だけではなく、あらゆる種類の木が大切にされていて、木の証明書類もあるそうだ。神道では、木は人の命と関係があり、人が枝に傷を付けたり、きちんと手入れをしなかったりした場合、その人の健康が脅かされる可能性があると考えられている。それで植物も人間のように同じぐらい敬われている。パシャエワ氏は日本人の自然に関するその態度に感動している。

花の陰
あかの他人は
なかりけり

 これは、小林一茶の有名な句の一つで、「ステップバイステップ日本」の内容を象徴的に描いている。人間は自然に近づき、差別せずに平等に愛し、美しさを感じる。この短い句には、人間と自然の調和の重要性やその想いが込められている。うまく選択されたこの俳句は、読者に初めから終わりまで優しい気持ちを感じさせる。

本著には日本固有の伝統について詳しく描かれている。日本の地理的位置、日本の生活に影響を与える禅、国の動植物、さまざまなスポーツ、伝統の一つである茶道、独特な料理などについて詳しく説明されている。この本は、読み手の気持ちをほっとさせ、まるで映画を見ているように日本のイメージを伝えてくれる。

 本著は読者の手を取り、日本の各町、各道を案内し、大和朝廷、奈良の偉大な時代、平安、鎌倉、室町、江戸、明治維新を経て、現代の日本と出会わせてくれる。本著には、古代から現在までの日本の発展の軌跡が描かれている。

 読者は作者の「ある人は初めての出会いからある国や民族が好きになれるか」という質問の答えをこの本の中から見つける。日本を心から感じて、古代から残る京都の狭い道を歩きながら、自然に恵まれ禅の影響を受けた日本人の思想に想いを馳せ、パシャエヴァ氏はなぜ日本が好きなのか、その理由に気づく。雪に覆われた富士山の頂上から吹く朝の風のように降り注ぐこの無垢な美しさの謎は、古代の金閣寺や上賀茂や下鴨などのような古い歴史のある寺の壁に見つけることができる。日本の生活、文学、文化の伝統を重んじる傾向は本著に強調されている。現代的な大都市の東京、古の都である京都、人類史上最大の悲劇を受けた広島と長崎について思いを馳せ、著者は各所の特徴を描いている。その地方の美しさや、他の場所との違いについていろいろイメージを浮かばせ、これから訪れる観光客にも大事なことを伝えている。

 著書の「苦痛でわれわれに近い日本」、「現実に起きたことを忘れず、忘れさせない都市、広島」という章では、広島への原爆投下をホジャリ大虐殺の悲劇と比較して、全世界の辛い思い出になる悲劇であることを強調している。原爆投下の歴史についての重要な事実を述べて、ガニラ氏は広島と長崎の悲劇の恐ろしさ、政治的覇権の許されない罪悪や、それが壊滅的な結果をもたらしたことを伝えている。「広島と長崎に原爆を投下したパイロットは、どんなに恐ろしい罪を犯したのを気づいたら気が狂ったそうだ。周りの人に嫌な顔が見られないように 逃げて干し草の下に隠れていて、自分を呪ったそうだ。 しかし、ホジャリ大虐殺の加害者はまだそのような苦痛や悔みを持っていないそうだ…」(Pashayeva G. Step by step Japan、Baku、2021、p.104)。

 アゼルバイジャンと日本の関係の発展を巡る出来事も、この本に詳しく書かれている。 パシャエワ氏は、日本がアゼルバイジャンの独立を認めた初めての国の一つであったことも高く評価し、日本の1991年12月28日の宣言後外交関係が樹立し、わが国の指導者へイダル・アリエフ元大統領の日本への公式訪問やその訪問の二国関係の発展の重要性などについて触れ、関係の歴史について印象づけている。
 
 パシャエワ氏は2006年3月7日から10日にアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の公式訪問後、両国間関係のさらなる発展、包括的な協力関係が構築されたことを強調し、この訪問において二国関係が新しい段階に入るための重要なステップだったと主張している。

 パシャエヴァ氏もアゼルバイジャンと日本の列国議会同盟のメンバーとしてその関係を深めるため日本社会と交流し、アゼルバイジャンのことをそのまま伝えるような活動をしている。ホジャリについて、カラバフ戦争の事実を日本人に正確に伝えるのは非常に大事だと思う。もちろん日本にはその事実を伝える本や記事などもある。東京の元外交官で作家の佐藤優氏の『甦るロシア帝国」(文春文庫)では、カラバフ戦争が宗教戦争として描かれている。しかしそれは、ロシア人や共産主義のアゼルバイジャン人のロシア語でのインタビューに基づいて書かれたもので、カラバフ戦争の本質ではない。そのため、この問題を単純な宗教的差別の問題として認識している日本人も少なくない。ゆえに日本の政府関係者、社会団体長、メディアの代表者との会談で、パシャエワ氏がアゼルバイジャンの現実、特にカラバフ戦争とホジャリ大虐殺に関する情報を広めることは、非常に重要だと思う。 日本の全世界女性サミットでの国会議員のスピーチも重要である。

 「ステップバイステップ日本」という本は、国学や文化のさまざまな分野を研究するための豊富な情報源である。使われた日本詩人の俳句の流れは、本書の流れと合って、パシャエワ氏の詩人作家としての気持ちは実感され、読者に独特な感覚を与える。さらに、その詩の例の使い方において、パシャエワ氏は日本文学に興味を持ち、好きだということがわかる。この本には、松尾芭蕉、小林一茶、金子みすず、紀貫之、上島鬼哲郎、野座萬町などの古典日本詩人の作品の例がそれぞれの内容に合わせて使われている。

 また、アゼルバイジャンと日本の間の文化交流促進のために行われた事業についてもいろいろ述べている。例えば、バクー国立大学と日本大使館が主催していた日本文化祭における日本語学科の学生の特別な役割、両国の大学間の学生交流、日本人作者についての研究、日本作品のアゼルバイジャン語への翻訳、アブドゥラ・シャイグの『ティグ-ティグ・カナムの物語』、タラナ・トゥラン・ラヒムリ『乙女の塔の話』という作品の日本語への翻訳と演劇、タールでの日本人学生の演技、民謡の『Nazəndə sevgilim yadıma düşdü』、『サリギャリン』の日本語パフォーマンス、ガバラで発掘調査を実施することによるアゼルバイジャンの歴史への日本の科学者の貢献、アゼルバイジャンのイスマユル市と日本の伊東市との間の『友好都市の交換」に関する契約の重要性などについて話されている。
 
 伝統交流が大切にされる現在、日本について書いてあるこの本は寛容と文化主義のアゼルバイジャンで出版されるのが効果的であると評価できる。筆者は本の査読者の一人として、アゼルバイジャンと日本の関係について書いてあるこの本に関心を持ちながら読んだのである。『ステップバイステップ日本』という本は、両国の協力発展に貴重な作品だと言える。 日本への愛情を込めて書かれた本書を読んだ後、限りのない美しさを想像し、パシャエワ氏の「日本は美しい、災いが起こりませんように!」という言葉を思わずささやくようになる。

タラナ・トゥラン・ラヒムリ
言語学博士、准教授、
大統領年金受給者
翻訳者:マッマドヴァ・エッラダ
バクー国立大学
極東言語文学部の教師

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