“使える”二酸化炭素

東京, 4月29日, /AJMEDIA

脱炭素社会の実現に向けて、いまや世界各国でいかに二酸化炭素の排出を減らすかが大きな課題になっています。
“やっかいもの”扱いされる二酸化炭素ですが、微生物のエサや資源になることをご存じですか?
いかに「出さないか」ではなく、いかに「利用するか」。逆転の発想の技術開発、その最前線に迫ります。

二酸化炭素を食べる?
こちらの微生物。

名前を水素細菌といいます。

サイズは、2マイクロメートル、0.002ミリほどの大きさで、土の中であればどこにでも存在しています。

最大の特徴は二酸化炭素をエサにするという点です。

その吸収力も抜群です。

サトウキビが光合成によって吸収する二酸化炭素の量と比較すると、水素細菌は65倍もの二酸化炭素を取り込めるという試算もあります。

この分野で最先端の研究を行っている神戸大学です。

研究の第一人者として知られる近藤昭彦副学長は可能性の高さをこう指摘します。

神戸大学 近藤副学長
「水素細菌はいろいろなものを食べる雑食性を持っているんです。
だからいい。近年、技術が高度化してきたことで、二酸化炭素を食べるスピードを圧倒的に速くすることができるんじゃないかということになってきました。
原理的には何でも作れるので、ポテンシャルは非常に大きい」
研究は大きく進まず
水素細菌は1960年代にNASA=アメリカ航空宇宙局がたんぱく質を宇宙でつくることができないか研究に取り組むなど、昔からその可能性は知られていました。
しかし、二酸化炭素を効率的に吸収させる技術が十分に確立されていなかったことなどから、研究開発が大きく進むことはありませんでした。

また、今のように世界的に脱炭素の機運が高まっていなかったことも影響しているといわれています。
バイオ技術の進化が可能性広げる
それが今、深刻な地球温暖化と待ったなしの対策が求められる時代に。

そしてなんといってもバイオテクノロジーの技術向上が追い風になりました。

微生物の遺伝子を操作するなど技術の進化によって水素細菌自体を改良して二酸化炭素を吸収しやすくし、そこからプラスチックなどをつくることが可能になりつつあるのです。

しかも、その一連の工程を機械によって自動化することで大幅に効率がアップし、産業レベルでこの微生物を使える可能性が高まっています。
実験繰り返し効率化へ
どのように水素細菌に二酸化炭素を食べてもらい、それを有効活用するのか。

その仕組みです。

神戸大学の研究室を訪ねると、フラスコでの培養が行われていました。

塩水のなかに水素細菌を入れ、そこに水素と酸素、二酸化炭素を8:1:1の割合で注入します。

注入する速度などの条件を変えながら、どの条件のもとで培養すればより効率的に物質を生産できるか実験を繰り返しています。

こうした技術開発が、今後メーカーがプラスチックやたんぱく質を生産する際に役立つことが期待されています。
二兎追えるイノベーション
近藤副学長は、「経済成長と社会課題の解決の二兎を追えるイノベーション」だとして、国をあげてこの分野を育てていくべきだと指摘しています。

神戸大学 近藤副学長
「バイオテクノロジーで新たな産業を生むことができるのです。
微生物を使ってプラスチックなどいろいろなものをつくれば、新しい価値を生み出しながら社会課題を解決できる。
例えば、薬を作ることもできるなどいろいろなところに展開可能な基盤となり、新たな産業を育てていくことができる」

すでにアメリカや中国では、この分野で大規模な投資が行われ開発競争が激しくなっています。

中国では、政府がバイオテクノロジーの研究開発に10兆円を超える資金支援を行っているほか、民間投資も活発になっています。

アメリカでも、この分野に兆単位の金額の投資が行われ、スタートアップ企業、「エア・プロテイン」は、水素細菌でたんぱく質を生産し、それを代替肉として食べられる技術を開発しています。
日本政府も支援に乗り出す

各国に追いつこうと、政府も重い腰を上げました。

ことし3月、水素細菌など微生物の研究開発に積極的な資金支援を行う方針を表明。

大学などの研究機関と民間企業との連携を推し進めようとしています。

4月には、萩生田経済産業大臣、岸田総理大臣が相次いで神戸大学の研究施設を視察し、バイオに力を注ぐ姿勢を鮮明にしました。

小さな小さな微生物が持つ大きな可能性。

その開発を効率的に進め、実際のモノの生産につなげられるよう政府も後押ししようとしています。
二酸化炭素を混ぜてコンクリートに
一方、“やっかいもの”の二酸化炭素を吸収させてコンクリートをつくる取り組みも始まっています。

北海道苫小牧市に本社がある「會澤高圧コンクリート」は、カナダの企業と契約を結び、コンクリートの製造過程で二酸化炭素を混ぜる技術を導入。

日本で初めて低炭素コンクリートの実用化に成功しました。

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