知恵と民政生かした安保政策を 遠藤誠治・成蹊大教授―台湾有事・識者インタビュー

東京, 8月14日, /AJMEDIA/

 ―現在の国際情勢は。
 先進国を含め富の格差が一層拡大し、安定した民主主義が営みにくい環境が生まれた。中国やインドの台頭といった国家間の「パワートランジション(力の移行)」も起こる中でロシアの侵略戦争に直面し、構造的な不安定性が倍加しており、危機的な状況が長期化する可能性がある。
 ―ウクライナ侵攻の背景をどう見るか。
 転機は2000年代初めごろで、ロシアを含む欧州秩序を構想しきれなかったのが大きな失敗だ。米国の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約離脱などに対し、ロシアは思いとどまるよう発信していた。西側は経済的利益を与えておけばロシアは言うことを聞くと誤算した面もあっただろう。
 ―中国の台湾政策が強硬だ。
 中国は高度経済成長が終わりを迎え、共産党支配の正統性をナショナリズムで補ったため、「強く誇りある中国」を見せないといけない状況に陥っている。ペロシ米下院議長の訪台は中国の強硬姿勢に理由を与えた。外交的に賢明ではなかった。
 ―「台湾有事」への対応は。
 現実として日本に台湾を守る力や義務がないことははっきりさせるべきだ。現状維持で中台ともに辛抱を続け、軍事的手段に出れば築き上げてきた全てが崩壊することを中国に政治的に言い続けることがまず大事だ。
 ウクライナ危機で同国民を周辺国が受け入れたように、台湾有事になれば日本は避難民救出に全力を挙げるべきだ。米軍は沖縄や佐世保、岩国基地をフル活用し日本に補給を求めてくるだろう。安全保障法制に基づけばそれを断れず、日本は戦争当事国に追い込まれる。補給に当たる自衛隊艦艇や国内の米軍基地が攻撃された場合、政治的には非常に困難だが反撃は米軍に委ねた方がいい。それが日本国民と台湾文民を守るポジションではないか。
 ―防衛費増額議論については。
 護衛艦「いずも」の事実上の空母化が示すように、議論がないまま日本は敵基地攻撃能力を保有しつつある。透明性を欠いたまま相互不信を深めていく選択が賢明なのか、真剣に考えなければいけない。予見可能性の高い安定した日本の基盤になっているのは現行憲法で、世の中が不安定だからこそ大事にすべきだ。サイバー攻撃へのもろさは指摘されており、インフラなどの安定性を守る安保能力向上は必要だ。
 気候変動やエネルギー転換といった新たなリスクへの解決に努力し、モデルを提供する国になることが日本を攻撃する他国のコストを高める。人口減少・高齢化が進む中、少ない若者を軍事に割かずに紛争を抑制し、知恵と民政の力を防衛に役立てる政策を探るべきではないか。
 ◇遠藤誠治氏略歴
 遠藤 誠治氏(えんどう せいじ)東大院法学政治学研究科修士課程修了後、同大助手を経て成蹊大教授。59歳。著書に「シリーズ 日本の安全保障」(編者、岩波書店)など。

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