岸田首相、保守派反発を懸念 佐渡金山、「失地回復」に全力―世界遺産推薦書

東京, 7月29日, /AJMEDIA/

 新潟県の「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録に向けた審査が推薦書の「不備」で遅れる見通しとなったのを受け、岸田文雄首相は推薦書の再提出を急ぐなど、「失地回復」に全力を挙げる方針だ。登録は故安倍晋三元首相が推し進めてきた経緯があり、対応を誤れば、自民党保守派の反発が自身に向かいかねないとの懸念があるようだ。
 「誠に遺憾だが、やむを得ない。登録実現に向けて全力で取り組んでもらいたい」。首相は28日、末松信介文部科学相から推薦書再提出について首相官邸で報告を受けると、こう指示した。
 関係者によると、文科省などが2月1日に提出した推薦書について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「十分でない」と判断した。金山内の「導水路」が寸断されている部分に関する「説明が欠落している」のが理由だ。
 これに対し、文科省などは「記載は十分だ」と主張。推薦書をそのまま審査に回すよう文科相名の書簡を送ったり、義本博司文科事務次官が今月27日にパリで協議したりして再考を促したが、ユネスコが折れなかった。
 ユネスコが各国に突き返す推薦書は毎年2割ほどに上るというが、日本は初めて。推薦の閣議了解が2月1日の申請期限当日となり、予備審査を受けられなかったことが影響した可能性がある。
 閣議了解が遅れたのは、首相がぎりぎりまで判断を遅らせたからだった。党保守派から推薦を強く求められる一方、外務省は推薦すれば「金山は強制労働の現場」と批判する韓国との関係が一段とこじれかねないと懸念。米国からも不興を買う恐れがあった。
 首相の背中を押したのが安倍氏だった。安倍氏は1月20日の安倍派総会で「(韓国と)論戦を避ける形で登録を申請しないのは間違っている」と公言。水面下でも首相に決断を促した。金山登録への動きを緩めれば、保守派から「安倍氏の遺志に反する」と批判されることを、首相は危惧しているとみられる。政府関係者は「韓国に配慮して手を緩めることはない」と語った。
 今のところ党内の批判の矛先は文科省に向かっている。新潟選出で、金山登録を目指す議員連盟事務局長の細田健一衆院議員は記者団に「本当に驚がくしている」と表明。文科省がユネスコからの指摘を地元自治体にも伝えていなかったことに触れ「非常に大きな問題がある」と批判した。
 自民党は29日に関係部会を開き、文科省から経緯を聴取する。世界遺産委員会委員長のロシアがウクライナに侵攻し、世界遺産委の開催が見通せなくなっていることもあり、金山登録の目標時期を28日の記者会見で問われた磯崎仁彦官房副長官は「非常に流動的だ」と語った。

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