「旧文通費」の“同じ穴のむじな”たち

東京, 7月18日, /AJMEDIA/

 政権の中間評価となる参院選は、大方の予測通りの与党勝利に終わった。岸田文雄首相は「黄金の3年」を手中にし、岸田1強時代がスタートする。四分五裂の野党の弱体化が与党勝利の最大要因とされるが、その野党による自民党への大きな攻撃材料となるはずだった調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開先送りも、選挙戦では埋没したままだった。国会議員1人当たり月100万円の「第2の給与」は、与野党を問わず「おいしいお小遣い」(閣僚経験者)だけに、攻撃側の野党も多くの議員は「助かった」(国民民主党若手)というのが本音。このため「ほとんどの議員が同じ穴のむじな」(自民長老)だったことが露呈し、政治不信を拡大させただけだった。
 昨秋の衆院選後に政治的な大問題となった旧文通費の見直しをめぐる与野党協議は、今年1月召集の通常国会で本格化。4月15日に「日割り支給」を導入し、名称を「調査研究広報滞在費」と改める国会法・歳費法の改正法が成立した。その際、最重要ポイントの使途公開や未使用分の国庫返納については、会期内に結論を得ることを確認していた。
 しかし、自民党がさらなる法改正への慎重姿勢を崩さず、5月末の衆院予算委員会で自民総裁としての対応を野党に詰問された首相は「いつまでと区切って議論することではない」と先送りの姿勢をにじませた。このため国民の批判は拡大したが、協議は停滞したままで、国会会期末前日の6月14日に自民党の高木毅国対委員長が、使途公開や未使用分の返還についての法改正を「今国会は先送りする」と表明。野党側は「国民に対する自民の背信行為」(立憲民主党の泉健太代表)と批判し、言い出しっぺの日本維新の会を筆頭に、参院選での争点とする方針を打ち出した。
◇「第2の給与」は貴重な選挙資金
 ただ、この問題を担当した6党協議会(自民・公明・立民・維新・国民・共産)は、「使途の制限」をめぐって禁止(ネガティブ)リストを検討する一方、「今国会中に結論を得る」としてきた「使途の公開」「未使用分の国庫返納」の本格論議には及び腰だった。「その場しのぎの改革でごまかすより、時間をかけてでも抜本改革となる『経費の実費精算制度』を導入すべきだ」(立民)との意見も多く、協議会不参加のれいわ新選組が「政治活動に使う」と改革に反対するなど、野党内の足並みが乱れていたからだ。ただ、旧文通費制度の見直しは「1947年の制度創設以来の国会の宿題」(衆院事務局)だったのも事実。昨年11月の維新新人議員の問題提起が今回の改革協議の端緒だが、「今、区切りを付けないで、いつ付けるのか」(同)との声も少なくなかった。
 問題は、旧文通費がほとんどの議員の既得権益という点だ。年1200万円を自由に使える特権を議員が簡単に手放すはずがない。しかも与党より資金難の野党議員にとって、旧文通費はある意味で「貴重な選挙資金」だ。だからこそ「野党だから改革に積極的とはならない」(自民)のが実態だった。ただ、渡し切り制度となったのは精算が「大変な手間」との理由だったが、現在はクレジットカード・電子マネーの使用や、クラウドでの経費精算システムの導入などで簡単に克服でき、既に民間ではそうした経費精算が常識だ。まさに「『永田町の常識は国民の非常識』の典型」(自民長老)であるのに、選挙戦での野党の自民攻撃のあざとさを有権者に見透かされたことが、自民の失点につながらなかった要因で、「責めは与野党の議員全員が負うべきだ」(同)との厳しい批判は免れない。【政治ジャーナリスト・泉 宏】
時事通信社「地方行政」7月11日号より 。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts