勝者なき戦争、新たな知恵を ソクーロフ監督語る―映画「独裁者たちのとき」・ロシア

東京, 4月29日, /AJMEDIA/

ロシア映画界の巨匠で、プーチン大統領に批判的なアレクサンドル・ソクーロフ監督(71)が時事通信社の単独取材に応じた。イッセー尾形さん主演で昭和天皇を描いた映画「太陽」(2005年)で知られ、第2次大戦時の指導者の映像を織り交ぜた最新作「独裁者たちのとき」が22日から日本で公開されている。インタビューでは、長期化するウクライナ侵攻に「勝者はいない」と強く警告し、平和の回復への新たな知恵が必要だと訴えた。主なやりとりは次の通り。
歴史を教訓、自制促す 戦争指導者とは「何者か」―巨匠ソクーロフ氏

 ―ウクライナとの戦争を予見していた。
 不可避だと06年に公言した。始まらないよう(政治家に)できることはあったが、無為無策だった。私は状況を見て、昨年3月初旬に始まると思っていたが、実際は2月だった。
 ―そこでの新作だ。
 開戦を予想して映画を作ったわけではない。しかし、この戦争には勝者はいないと、そう確信している。欧州や全世界が攻撃してきた場合、ロシアは困難に直面するだろうが、ロシアは壊すことが不可能なほど巨大で、人々も屈強だ。
 ―この先どうなるのか。
 映画で伝えたのと同じ問題が浮かび上がる。戦争へと(物事を)動かす人間とは、何者なのか。なぜ指導者をこれほど多くが支持するのか。ドストエフスキーは「罪と罰」で初めて犯罪者を主人公にした。「何者なのか」という問いに興味がある。
 ―ロシア国民はどう反応しているか。
 軍事作戦は、国内に社会、経済、人道問題が山積する中で行われている。(異を唱える少数派もいるが)大部分が戦争を支持している。
 ―戦争後の和解は。
 第2次大戦でドイツはソ連に悪夢のような攻撃を加えた。しかし、数十年後、和解に向けた変化が始まった。さらに20年を経て、多くのことが忘れ去られた。
 ―隣国との将来は。
 ウクライナの人々が傷を記憶するのは、戦争に参加した世代が生きている間だ。世代交代で、世界観や気分の変化が始まる。時間の流れと共に関係は良い方向に変わる。隣人同士はそういう運命だ。ただ、今回の場合、ドイツとの関係よりもはるかに長い時間がかかる可能性がある。
 ―なぜこれほど激しく戦っているのか。
 ロシア、ウクライナ両国民が非常に似ていて、互いをよく知っているからだ。同様の教育を受け、同じ本を読んだ。軍人は同じ(旧ソ連製)兵器で戦っている。
 ―プーチン氏は同じ民族だと言った。
 すべてを複雑にしているのは、この戦争に勝利はあり得ず、ウクライナもロシアも勝てないということだ。(両国民は)親戚だが、兄弟ではない。われわれは一つの民族と言われるが、私は常に反対してきた。
 ―和平は可能か。
 今、全員に必要なのは知恵、妥協、外交、新しい人間だ。政治的な発想よりも人道的な発想を優先することだけが、新たな平和的共存を生み出すのに寄与する。
 
 ◇アレクサンドル・ソクーロフ氏
 アレクサンドル・ソクーロフ氏 1951年イルクーツク州生まれ。全ソ国立映画大で学び、現サンクトペテルブルクの撮影所レンフィルム入り。80年代のペレストロイカ(改革)後に注目された。代表作の権力者4部作のうち「モレク神」(99年)でヒトラー、「牡牛座」(2001年)でレーニン、「太陽」(05年)で昭和天皇を描いた。最後の「ファウスト」(11年)はベネチア国際映画祭で金獅子賞。知日派で11年に旭日小綬章を受章。昨年の東京国際映画祭に「独裁者たちのとき」を出品した。

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