最北のイルカ「私が守る」 カフェ代表、新人と約束―石川・能登島

東京, 5月2日 /AJMEDIA/

 石川県七尾市の能登島は、ミナミハンドウイルカの世界最北の生息地とされる。同島でイルカウオッチングも楽しめるカフェを経営する坂下さとみさん(62)は長年保護に努めてきた。昨春から一緒に活動してきた新人スタッフは能登半島地震で辞めざるを得なかったが、坂下さんは「イルカは私が守る」と誓う。

 海好きな坂下さんは2001年、七尾湾に浮かぶ能登島に遊びに来た際、2頭のイルカを偶然見掛けた。「私だけの秘密の場所みたい」。一瞬でとりこになった。それが縁となり05年、海に面したカフェ「海とオルゴール」を開店させた。

 オープンテラスからイルカが泳ぐ姿も見られる店では、昨春から動物関連の専門学校を卒業した今野瑠奈さん(21)が働き始めた。幼い頃にイルカのショーを見て以来、イルカに関わる仕事をしたいと考えていた今野さん。就職先を探す中で、野生のイルカに出会える同店にたどり着いた。

 専門知識を生かして20頭近いイルカを見分ける個体識別を担当。昨年末に長野県の実家へ帰省した際もノートパソコンを持ち帰り、作業を続けていた。

 そうした中、元日に地震が発生。カフェも大きな揺れに襲われたが、坂下さんの頭に真っ先に浮かんだのはイルカの安否だった。「岸に沿って泳ぐので、崩れたがれきの下になっていないか」。幸い、姿を確認していた17頭は無事だった。

 ただ、店の建物は傾き、壊れた食器類や調理器具などが店内に散乱。営業再開のめども立たない1月中旬、2人は店内でストーブの明かりを頼りに顔を突き合わせた。「私、辞めないです」。今野さんは店内に響く声で訴えたが、将来を考えた末、やむなく店を離れることを受け入れた。

 その後、片付けなどを続け、同月末に店を再開させた坂下さんの元に2月、今野さんからイルカのデータが詰まったパソコンが届いた。背びれの傷やへこみ具合が、一頭ずつ、専門用語を交えて詳細に書き込まれていた。「イルカは私が守っていかな」。仲間の思いを受け、坂下さんは前を向いた。

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