「定員割れ」が続出……岐路に立つ市民マラソン

東京, 04月16日 /AJMEDIA/

2007年に始まった東京マラソンの成功をきっかけに、全国各地でフルマラソンの大会が開催されるようになりました。国内の市民ランナーは約900万人と言われています。

ところが、市民マラソンの大会は今、岐路に立っています。

昨年度、全国の都道府県が主催または共催する市民マラソンをNHKが調べたところ、約4割の大会で定員割れになっていたことがわかりました。

なぜ、定員割れが相次いでいるのでしょうか。その原因に迫ります。
(高知放送局記者 竹村知真/福井放送局記者 大畠舜)

フルマラソンの大会 大きな経済効果も
「かける思い、サクラサク。」を大会スローガンに、3月31日「ふくい桜マラソン」が福井県で行われました。

大会の2週間ほど前に北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業したことや、隣県の大会と時期が重ならないよう3月末の開催にしたこともあり、参加者は1万3000人以上。エントリーの段階で、県外からの参加者は6割以上を占めました。
当日、コース上では土地の魅力を知ってもらおうと、福井名物のソースカツ丼や越前そばが提供され、ランナーたちの人気を集めていました。
大阪から参加した女性
「エイド(補給食)も全部食べました。このあとも、福井のおいしいもの食べて帰ろうかなと思います」
神奈川から参加した女性
「福井は人も温かいし、食べ物もおいしいし、景色もきれいで大好きなところになりました。来年も絶対来ます」
福井県は全国で唯一、フルマラソンの大会がない“空白地”でしたが、これで47都道府県すべてに大会がそろいました。

福井県の試算では、この大会による観光や宿泊などの経済効果は約15億円。市民マラソンは、重要な地域振興策の1つになっています。
相次ぐ定員割れ 厳しさ増す地方大会
ところが、とりわけ地方都市の市民マラソンの大会で、定員割れが相次いでいます。
いずれも去年11月の「東北・みやぎ復興マラソン」はエントリーが定員の77%、長野県の「松本マラソン」は定員の55%にとどまりました。

さらに「ひろしま国際平和マラソン」は、参加者の減少などを理由に2019年の大会を最後に再開できないまま、約40年の歴史に幕を下ろしました。
高知龍馬マラソンも苦戦しています。

太平洋の雄大な景色を一望できるコースが魅力で、ことし2月の大会が10回の記念大会でした。しかし、1万2000人の定員に対し、エントリーは9300人余りにとどまり、2年連続の定員割れとなりました。

こうした都道府県が主催または共催する市民マラソンだけを見ても、昨年度の25大会のうち9大会で定員割れしていました。
市町村が開催する大会でも、エントリーが定員の半数にとどまるなど、大きく割り込むところが出ています。
定員割れの要因は
定員割れの要因は何でしょうか。ランナーたちが口にしたのが、参加費の高騰です。
女性ランナー
「参加費がちょっと高いから参加するのをやめたっていう友達は多いです。参加費が高いから、出るならものすごく練習して出ないともったいないと言っていた友達もいます」
男性ランナー
「若干、1万3000円は高いかなと思いますね、やっぱり1万円までかなと」
男性ランナー
「タイムを狙っている人にとってはあまり関係ないかもしれませんが、『ちょっと挑戦してみよう』という人にとっては、しんどい思いをして、参加費もあがるときついものがあると思います」
高知龍馬マラソンと大都市の東京マラソン、大阪マラソンの参加費を5年前と比較すると、1万円程度だった参加費は1.5倍程度に値上げされました。
さらに参加者によっては、開催地までの旅費や宿泊費もかかります。
運営側「参加費はぎりぎりのライン」
なぜ、参加費が上がっているのでしょうか。背景にあるのが、人件費や燃料費の高騰です。

高知龍馬マラソンでは、フィニッシュ地点から高知駅などへのピストン輸送に、70台の大型バスを運行しました。
また、コースに配置された550人の警備員や救護所など、経費を削減できないものが多くあると主催者は説明します。
定員割れによって、ことしの高知龍馬マラソンは見込み額で約1500万円の赤字に陥りました。

そこで主催者の1つ、高知県は去年12月、赤字分を補てんする補正予算を組む異例の事態となったのです。
高知県 浜田省司知事
「コロナ禍が明けたと言っても、すぐには体作りがついていかないというランナーも多かったことが、こういう結果につながっているのではないかと受け止めている。ほかの市民マラソンの状況や、今回の大会に参加していただくランナーの皆さんの声をできる限り聞いて、もう少し分析した上で、来年以降の龍馬マラソンの開催のあり方について検討していきたい」
県などで作る実行委員会は、来年の大会から定員を2000人減らし、経費削減を図る計画です。
高知県スポーツツーリズム課 谷内康洋課長
「定員割れは残念に思っています。定員を見込んで収支計画を立てているので、定員を大幅に下回った場合は収支不足になってしまいます。一方で、救護所の数を増やしたり、参加者に満足いただけるようにサービスを充実させたりすることを加味すると、参加費は今の金額が正直ぎりぎりのラインです。今後は、例えばランナーの皆様にお配りするパンフレットをこれまでの紙から電子化し、経費を削減するといったことをやっていきたいです」
大会継続には“創意工夫を”
全国で相次ぐ定員割れ。

スポーツジャーナリストで、市民マラソンの運営にも関わっている増田明美さんは、ランナーの安全を守るためにも、参加費の高騰はある程度はやむをえないとしています。
増田明美さん
「なぜ、1万円を超えて高くなったかの説明はもっとしたほうがいいと思います。安全に安心に走るっていうのが一番大事なことなので、それをちゃんと確保する、それを保証するとなった時にはお金がかかります」
一方、全国で大会が林立する中で継続していくには、「選ばれる大会」にする創意工夫が必要だと指摘します。
増田明美さん
「大切なのは“差別化”だと思います。東京マラソンの“ミニ版”のような都市型マラソンばかりが増えると、ランナーは飽きてしまうと思います。その土地を走りながら味わえて、エイドや皆さんの応援、太鼓が響くといったオリジナリティーを高めて、ここに来てもらおうというような魅力ある大会にするための工夫が大事だと思います。マラソンは、私は“旅”だと思っています。フルマラソンの大会が47都道府県にできた今、いろいろなところに行って観光名所を走ることで、人生を豊かにすることができると思います」
どういう大会を目指すか 改めて考える時期に
全国各地で市民マラソンの大会が林立し、「高知龍馬マラソン」が行われた今年2月18日は、「京都マラソン」や「おきなわマラソン」、「熊本城マラソン」など大きな大会がひしめき合いました。

そうした意味で「ふくい桜マラソン」は、大会の少ない3月末の日程を選択し、上々のスタートを切ったと言えます。
今回取材した「高知龍馬マラソン」では、給水所に特産の「ゆずジュース」を置いたり、完走した全ランナーに「カツオ」を振る舞ったりと、地域色を出した大会になるよう工夫も見られました。こうした点をさらに強化し、対外的な発信を強化するのも1つの手だと感じました。

市民マラソンは、大会の前後に2泊する人もいるなど経済効果も大きく、さらに参加者の健康にもつながります。経費削減とともにどう地域一体となって盛り上げていくか、改めて考える時期に来ています。

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