EUの農業政策に不満 農家の抗議活動 各地で相次ぐ

東京, 03月24日 /AJMEDIA/

ヨーロッパでは、ウクライナ産の農産物に対する支援などEU=ヨーロッパ連合の農業政策に不満を持つ農家の抗議活動が各地で相次ぎ、EUが対応を迫られる事態となっていて、専門家からは、今後のウクライナ支援にも影響しかねないという指摘が出ています。

ヨーロッパではここ数年、農薬の使用や家畜の飼育などをめぐるEUの規制への対応や、ロシアの軍事侵攻による燃料費の高騰などで農家の負担が増えているほか、EUがおととしからウクライナ産の農産物について関税を停止する措置に踏み切ったことで、比較的安価な農産物がヨーロッパの市場に流入していると指摘されています。

こうした中、フランスでは政府が環境対策として農業用ディーゼル燃料に対する減税措置の打ち切りを発表したのをきっかけに、ことし1月から抗議の動きが広がり、首都パリに向かう高速道路などが一時、封鎖されました。

抗議活動はドイツやスペインなどヨーロッパ各地で相次ぎ、ベルギーの首都ブリュッセルでも先月、EU本部周辺で大規模なデモが行われたほか、今月21日と22日に開かれたEUの首脳会議にあわせてポーランドやチェコの農家が各地の高速道路などを封鎖する抗議活動に踏み切りました。

対応に追われるEUは、ウクライナからの輸入が特に増えている砂糖や卵、鶏肉について、輸入が一定の量を超えれば関税を再び課すなど農家の懸念に配慮した措置を導入する方針です。

ただ、ヨーロッパの農家などで作る主要な農業団体は20日、「小麦などが含まれておらず、農家の懸念に応えていない」とする共同声明を出し、あくまで抗議を継続する構えを示しています。

専門家からは、EUにとって重要な産業である農業での反発は今後のウクライナ支援にも影響しかねないという指摘が上がっていて、ことし6月に行われるEUの議会、ヨーロッパ議会の選挙でも焦点の1つになるとみられます。

フランスの養鶏農家 “私たちは非常に高い代償 払っている”
フランス北部で養鶏を営むオリビエ・セネシャルさんは、1万2000羽の鶏を育て、毎日およそ1万個の卵をパリなどに出荷していますが、この2年ほど苦しい経営が続いています。

養鶏場では、EUの規制の強化に伴い、3年前、およそ5万ユーロ、日本円で800万円余りかけ、自動で温度などを調整できる空調設備を導入しました。

養鶏場の使用電力が増える一方で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、電気代は、5割ほど上昇したということです。

さらに軍事侵攻が招いた世界的な穀物価格の高騰を受け、鶏の餌代も3割ほど値上がりしたことや、卵の輸送費も高くなった結果、セネシャルさんの収入は半減したとしています。

収入が減り、人を雇う余裕もないため、1年中休みなく働いていて、今後の生活に大きな不安を抱えています。

セネシャルさんはEUがウクライナの卵の関税を停止して輸入していることについてみずからの商品が不利になり、不公平な措置だと感じています。

セネシャルさんは「ウクライナへの支援自体に反対しているわけではありませんが、私たちは非常に高い代償を払っており、私たちの農場や農業の構造が危険にさらされています」と話し、EU内の農家を守るよう求めていました。

また「私には息子がおり、家業を継ぎたいといえばうれしいことですが、いまは自分の子どもに継ぐことを勧めない農家も増えています」と話し、農業の先行きを懸念していました。

専門家 “ウクライナ農産物 EU農業市場への影響 少なくない”
農業をめぐる国際政治に詳しいフランス国際関係戦略研究所のセバスティアン・アビス研究員は「ヨーロッパの市場に輸入されるウクライナの農産物の量は決して多くはないが、増加傾向にある。さらにはるかに低価格で輸入されるため、より高価なヨーロッパの農産物と競合することになる」と述べ、ウクライナの農産物がヨーロッパの農業市場に与える影響は少なくないと分析します。

そして「ヨーロッパの農家はウクライナの農産物に対し経済効果や不公正な競争の影響を考えずにヨーロッパの市場を無期限に開放しておくのかと疑問に持っている。この疑問に答えなければならない」と指摘し、比較的安価なウクライナの農産物が流入し続ける状況に域内の農家が危機感を抱いているという見方を示しました。

そのうえでウクライナ支援がもたらす影響はことし6月に行われるヨーロッパ議会選挙でも焦点になるとして「いまヨーロッパでは、ウクライナへの支援を無条件に続けるべきか、それとも自国の利益を守るように行うべきか、多くの議論が交わされている。ヨーロッパの団結を望まない議員が議会の多数を占めれば、ウクライナにとっても良くない結果を招く危険がある」と述べ、EUの重要な産業である農業などでの不満を受け皿にウクライナ支援に懐疑的な政党が躍進すれば、ウクライナへの支援が滞りかねないとしています。

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