成長力の底上げ急務 分配原資に不可欠―「新しい資本主義」提言

東京, 11月09日, /AJMEDIA/

政府の「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田文雄首相)は8日決定した緊急提言で、分厚い中間層の復活へ賃上げした企業への税制優遇の拡充など所得再分配の強化を打ち出した。ただ、賃金伸び悩みの主因は、長らく続く日本経済の低成長だ。分配の原資確保には、革新的な技術やサービスを生み出し、企業の競争力を高める成長戦略の加速が急務と言える。
 日本生産性本部によると、2019年の日本の労働生産性(1人の就業者が生む付加価値額)は経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中26位で、米国の6割弱に低迷。緊急提言では生産性を向上させる成長戦略として、科学技術立国の推進、企業のイノベーション支援、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障―を4本柱に据えた。
 ただ、具体策にはデジタル化や脱炭素化投資の拡大など菅政権が着手した項目も多く、新味に乏しい。地方でデジタル技術を普及させ都市部との格差を埋めるデジタル田園都市国家構想には「産業やインフラ、人口が集中する大都市は成長のエンジン。地方に人や資源を移転させれば、国全体では平均的に貧しくなる恐れもある」(明治安田総合研究所の小玉祐一氏)との見方がある。
 経済安全保障を名目に半導体などの戦略物資の国産化を急げば、安価な輸入品が割高な国内品に置き換えられ経済活動に下押し圧力がかかる可能性がある。
 分配戦略では賃上げ支援の税制優遇が柱だが、恩恵を受けるのは黒字企業のみ。6割が赤字経営の中小企業には「補助金の要件として賃上げを考慮する」というが、実効性に課題を残す。
 看護や介護、保育など公的サービス従事者の待遇改善も進める。ただ、診療報酬や介護報酬の引き上げは一段の財政悪化や利用者の負担増につながりかねない。ニッセイ基礎研究所の清水仁志氏は「国民負担の増加で実質的な可処分所得の押し下げになる」と指摘する。

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