ドローン業界の2022年を振り返る–Zipline日本上陸やACSL海外進出、改正航空法の概要も解説

東京, 12月31日, /AJMEDIA/

 2022年のドローン業界は、1月にKDDIが新会社「KDDIスマートドローン」を設立してドローン事業を継承、4月に豊田通商が「そらいいな」を設立して米スタートアップZiplineの機体とシステムを活用した医薬品ドローン配送事業を開始した。また11月には国産ドローンメーカーのACSLが、インド企業より1.4億円の大型案件を受注するなど、上場企業のドローンに関する動きが活発な1年だった。

 制度面でも、6月に機体登録やリモートID機能掲載が義務化され、12月には改正航空法が施行されて、「機体認証」「操縦者技能証明」「運航ルール」という新たな制度もスタートし、いよいよレベル4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)が解禁された。2023年以降のドローン業界の発展に期待を込めて、今年もドローンライターの筆者が2022年を振り返る。

2022年、ドローン企業の動きを振り返る
 2022年は年明け早々、ビッグニュースが報じられた。1月27日、KDDIが100%子会社「KDDIスマートドローン」を設立したのだ。翌2月のオンライン説明会では、日本航空との協業や、上空でのモバイル通信利用と運航管理システム利用などがセットになった「4G LTE パッケージ」を発表した。

 KDDIスマートドローンは、4月1日からKDDIのドローン事業を継承して、多角的に事業を展開中だが、筆者が最も印象に残っているのは、ドローン専用通信モジュール「Corewing 01」を開発した点だ。ドローン物流を手がけるエアロネクストとの対談でも詳しく聞いたが、ドローンはとても狭い筐体(きょうたい)で、多くの制御機器を格納するうえにさまざまなノイズが発生するため、通信品質が悪化してしまうという課題があるという。この解決策としてCorewing 01を開発したところにKDDIの本気を感じた。

 また、KDDIスマートドローンの代表取締役社長に就任した博野雅文氏は、もともと技術畑出身。大学院では無線の研究、入社後も基地局やネットワークの開発、端末の開発を手がけ、モバイル全般の企画や戦略策定にも携わってきた人物だ。技術に精通したリーダーが、就任当時から「いまは競争よりも共創だ」と発信する姿に、個人的には非常に好感を抱いた。

 自律飛行型ドローンSkydioとの協業、セイノーHDとエアロネクストらが推進する新スマート物流「SkyHub」との連携、KDDIが業務提携するスペースXの衛星ブロードバンド「Starlink」の活用など、2023年以降の飛躍に向けて多方面で素地を整えた1年だったのではと期待が高まっている。

 2022年4月、豊田通商が子会社「そらいいな」を設立して、あのZiplineと協業する形で、長崎県五島市で医薬品のドローン配送サービスを開始したことも嬉しいニュースだった。Ziplineは、固定翼ドローンを開発する米国のスタートアップで、アフリカのルワンダでは全国への血液輸送のインフラとして、すでに定着している実力派。今回は、Ziplineが他社に技術提供した初めての事例になったことや、アフリカ以外の第3国として日本が選ばれたことも、注目したポイントだった。

 聞けば、豊田通商は2018年に事業会社として初めてZiplineに出資し、両社は約5年かけて信頼関係を構築してきた。また、日本を代表するトップ企業である豊田ブランドへの安心感も、そらいいなへの技術提供に結びついたという。実は、そらいいな代表の松山ミッシェル実香氏は、2018年にZiplineを初訪問した張本人で、プライベートでは出産も経ながら、同社との新たな事業創造を手がけてきたということも取材で知った。せっかく新産業を創造するのだから、女性をはじめ多様な視点を当初から織り交ぜてほしいとかねてより感じていた筆者は、松山氏の活躍にも心が弾んだ。

 一方で、五島にドローン活用への社会需要性がすでにあったことは、五島市が離島振興の文脈で進めてきたスマートアイランド構想の成果ともいえる。そこには、2018年に地域おこし協力隊として五島に赴任し、市役所に在籍して数々の実証実験を手がけてきた、現在はそらや 代表取締役の濱本翔氏や、ANAドローンチームをはじめとする、五島のプロジェクトに関わった多くの事業者の尽力があったと認識している。社会を変えるのは、やはり人の想いだ。

 思えばきっと、2018年は1つの大きな転換点だった。千葉大発スタートアップのACSLが、ドローン専業企業として初めて東証マザーズに上場を果たしたのも2018年だった。2021年の振り返り記事では、スタートアップであるACSLが国家プロジェクトをリードして、小型空撮機「SOTEN(蒼天)」を製品化したことを伝えたが、2022年の同社の動きで筆者が最も注目したのは、海外展開の加速だ。

 2022年11月、ACSLは米国においてSOTENのデモンストレーションを実施して、高い評価を得たというリリースを出した。公共施設のインフラ点検用ドローンの販売などを手がけるGeneral Pacificをはじめとするいくつかの事業者を訪問したという。前段として、9月にラスベガスで開催された「COMMERCIAL UAV EXPO」に出展し、セキュリティの高さが経済安全保障のニーズに対応しているという点で、米国企業からの高い興味関心を得たようだ。

 また同月、ACSLはインド企業から1.4億円の大型案件を受注したというリリースも発表。インドも脱中国メーカーを図る政策方針を打ち出しており、ACSLは2021年9月に現地合弁会社のACSL Indiaを設立、インド国内でドローンを生産して型式認証を取得し販売する道筋を模索していた。

 筆者は、ACSLという海外展開を加速“できる”スタートアップが、日本のドローン業界に存在することを頼もしく感じる。代表取締役社長の鷲谷聡之氏のキャリアや現地でプレゼンもできる英語能力、CTOのクリス・ラービ氏率いるエンジニアチームの日英飛び交う開発環境など、グローバルにオファーできるカルチャーがある。

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