逝去した元大統領にさえ敵意を表す国と日本がうまく付き合う方法

東京, 12月12日, /AJMEDIA/

去る10月末、韓国の盧泰愚元大統領が亡くなった。享年88歳。1987年の大統領選で当選し、88年のソウル五輪を成功に導いた彼は、冷戦が終わった90年代にソ連(90年)、中国(92年)との国交正常化を成し遂げ、朝鮮半島の緊張緩和に寄与したと評価される政治家だ。一方、80年に軍首脳の一人として軍部の政権掌握に深く関与したという批判が常につきまとった。全ての人間に功と罪があるように、彼にも五輪と外交的成果という「功」と、軍事政権の誕生に関わったという「罪」があった。(文 ジャーナリスト・崔 碩栄)
 ◆文大統領も葬儀欠席
 韓国政府は彼の葬式を「国家葬」として行った。国家葬は政府が費用を負担し、首相が葬儀委員長を務める。官庁には葬儀期間中、弔旗が掲揚される。かつて大統領を務めた人物に対する礼遇だ。
 しかし、その中身と韓国社会の反応は国家葬というには、あまりにもかけ離れていた。
 まず、文在寅大統領は葬儀に姿を見せなかった。欧州歴訪直前だったとはいえ、出発前に1日の時間があったにもかかわらず、弔問に行かなかった。
 2019年1月に元慰安婦の金福童氏が亡くなった時、文大統領自ら葬儀場に足を運び、故人の写真の前でひざまずいて頭を下げた姿とは、あまりにも対照的だ。
 文大統領の不可解な行動は、欧州歴訪中にも続いた。ローマで開かれたオーストラリアのモリソン首相との首脳会談で、お悔やみの言葉をかけられる場面があったが、それに対して、文大統領は「お礼」の一言も言わずに沈黙したのだ。これには豪州側も戸惑っただろう。
 韓国政府の非礼は、それにとどまらなかった。故人が韓中修交に貢献したことから、中国の習近平国家主席から韓国外務部に弔電が届いたが、これを外務部が遺族に伝えなかったのだ。
 遺族はその事実を駐韓中国大使の電話を受けて知り、政府に問い合わせると、政府は弔電を受けてから3日後に伝えたという。
 韓国政府は「外国から『遺族に必ず伝えてほしい』という要請がなければ、必ずしも伝える必要はない」と説明したが、これは遺族だけではなく、中国側にも大変失礼な対応だ。
 ◆メディアも露骨
 このような非礼は、韓国メディアも同様だった。盧元大統領の死を伝えるニュースでは「逝去」「他界」のような敬意を込めた表現の代わりに、一般人の訃報や事故記事で使う「死亡」という表現を使用。
 さらに「元大統領」という称号さえも惜しかったのか、テレビのテロップには「盧泰愚氏死亡」、そして呼び捨ての「盧泰愚永眠」という表現まで登場した。現政権もメディアも、敬意ではなく、敵意を露骨に表したのだ。
 現政権とメディアが非礼な反応を見せたのは、彼が軍人出身の大統領だったからだ。
 現政権の中枢は80年代の学生運動を主導した勢力、つまり過去に軍事政権を「敵」として戦ってきた人々だ。たとえ20年以上の時間が経ったとはいえ、過去に軍部の中心人物だった彼のことを依然として根に持っているのだ。
 それにしても、韓国政府とメディアが今回見せた行動については、やはり大人げないと指摘せざるを得ない。故人には罪があったかもしれないが、87年の民主的な選挙によって国民に選ばれた大統領だ。
 ◆日本に必要なのは
 87年当時の有権者は、後に大統領になった金泳三、金大中の両氏よりも彼を支持した。文政権は強引な政策を進めるとき、よく「民意」を名分としていたが、本当に民意を尊重するなら、自分たちの恨みを抑え、国民が選んだ大統領に対しても敬意を払うべきだった。
 実は、今回の盧元大統領の逝去に対する韓国社会の反応を見て、私の頭に最初に浮かんだのは日韓関係だった。
 自国の大統領の「功」を評価し、負の記憶は水に流すという「内輪の和解」ができない韓国が、35年間の朝鮮を統治した日本に対して客観的な評価を下すのはまだまだ先のことに思われたのだ。
 日韓の関係改善を促すことは結構なことだが、日本に必要なのは早急に結果を期待することではなく、まず韓国が「内輪の和解」ができることをじっくり見守る「余裕」ではないかと思う。
 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)
 【筆者紹介】
 崔 碩栄(チェ・ソギョン) 1972年生まれ、韓国ソウル出身。高校時代から日本語を勉強し、大学で日本学を専攻。1999年来日し、国立大学の大学院で教育学修士号を取得。大学院修了後は劇団四季、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなど日本の企業に勤務。その後、フリーライターとして執筆活動を続ける。著書に「韓国人が書いた 韓国が『反日国家』である本当の理由」「韓国人が書いた 韓国で行われている『反日教育』の実態」(ともに彩図社)、「『反日モンスター』はこうして作られた」(講談社+α新書)、「韓国『反日フェイク』の病理学」(小学館新書)など。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts