欧州、原発回帰鮮明に エネルギー安保優先―ウクライナ情勢が影

東京, 3月7日, /AJMEDIA/

欧州諸国で原子炉の新設や稼働延長の動きが相次ぎ、原発回帰が鮮明になっている。ここ数年、脱炭素化の流れの中で「クリーンで安定的な電源」と原発を再評価する機運が高まっていたところに、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障が優先課題に浮上。政策の見直しが加速した。だが、急な方針転換に産業界が対応するのは難しく、専門家は「すぐに原発が増えることはない」と指摘する。
昨年末に脱原発を完了するはずだったドイツ。安価で安定した天然ガス調達先として依存していたロシアからの供給がウクライナ侵攻後に止まった影響で、完了を今年4月まで先送りした。エネルギー価格上昇による広範な物価高で景気が冷え込む中、1月には閣僚の一人が稼働延長の議論を求めるなど、「脱・脱原発」(有力誌シュピーゲル)論がくすぶる。
 2025年の脱原発を目指していたベルギーは昨年3月、7基ある原発のうち2基の稼働を35年まで延長すると発表。デクロー首相はウクライナ情勢を念頭に「地政学的な動乱の中、化石燃料依存からの脱却を後押しできる」と説明した。
 オランダは35年までに2基を新設する方針。昨年秋に8年ぶりの政権交代があったスウェーデンでは、中道右派連立政権が原発新設に向け法改正に動きだした。
 一方、老朽原発が多い英国は昨年、30年までに最大8基を新設する計画を打ち出した。フランスも35年の一部稼働を目指し6基新設する。発電量の6~7割を占める「堅固な原子力」(マクロン大統領)を電源に活用し、次世代エネルギーと期待される水素の製造で世界をリードしたい考えだ。
 気候変動対策に力を入れる欧州連合(EU)は、脱炭素に貢献するエネルギーとして条件付きで原子力発電を認定。今年1月に新規則が発効し、原発事業者にとって大きな壁である資金調達が容易になった。
 ただ、原子力政策に詳しいカーネギー国際平和財団のマーク・ヒッブス氏は、こうした動きを欧州の「原発ルネサンス」と呼ぶことには懐疑的だ。欧州の原発産業の中心であるフランスの事業者は他国の事業を手掛ける余力はないとみられ、「(欧州全体では)投資が進まない可能性がある」と語る。また、ロシア軍がウクライナ南部のザポロジエ原発を占拠したことで、有事への備えの難しさが浮き彫りとなった。欧州の原発回帰には課題も多い。

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