防衛増税、実施時期先送り 岸田首相、政権運営に火種残す

東京, 12月16日, /AJMEDIA/

 岸田文雄首相が掲げる防衛力強化に向けた自民党の増税論議は、最終決着を先送りする形でひとまず収まった。首相の指示に沿って税目や税率を明示する一方、慎重派の理解を得るため増税時期を曖昧にし、痛み分けを図った。ただ、近い将来、対立が再燃するのは確実。党内には議論の進め方を巡る首相への不満も渦巻く。
 「防衛増税の無期限延期と解釈できる」。15日の自民党税制調査会で執行部サイドから妥協案が示されると、増税慎重派の宮沢博行副幹事長はこう矛を収めた。前日までとは空気が一変し、「殺気立った怒号が飛び交う状況ではなかった」(柴山昌彦元文部科学相)という。会合は2時間程度で宮沢洋一会長に対応を一任して終了した。
 妥協案は増税対象として、法人税、所得税、たばこ税の3税を列挙。法人税は「4~4.5%の付加税」、所得税は「1%の付加税」、たばこ税は「1本3円相当」と明記する一方、増税時期は「2024年以降の適切な時期」と記すにとどめ、実施期限は明確にしなかった。
 首相は8日の政府・与党会合で「財源確保の内容を年末に一体的に決定する」とし、税目、税率、増税時期の検討を指示していた。妥協案がその目標に達していないのは明らかだ。首相の増税方針には増税慎重派から「内閣不信任に値する」との物騒な声すら出ており、実施時期の先送りは「双方の顔が立つ」(自民党幹部)落としどころを探った結果だった。
 与党税制改正大綱や安全保障3文書の決定を16日に控え、15日の一任取り付けは岸田政権にとって至上命令だった。全体会合に先立つ15日の幹部会合には松野博一官房長官が駆け付けて協力を求めるという異例の場面も見られた。
 ただ、火種は残った。妥協案は対立の先送りにすぎず、1年後の24年度予算案編成の際にぶり返すのは必至。所得税の付加税の負担感をなくすため、復興特別所得税を1%引き下げる枠組みには、増税容認派からも懸念が漏れる。東日本大震災の復興費の転用との印象を拭えないためだ。
 増税論議の混乱は首相の運び方がまずかったのも一因。防衛力強化の内容を示さないまま1兆円強の増税方針を打ち出したのは、防衛費増額を国内総生産(GDP)比2%という「規模ありき」で決めたためで、国防族からも「順序が逆」との声が上がる。閣僚経験者は「岸田政権には計画性がない」と批判した。議論の先送りは、首相の求心力低下を加速させる可能性もある。

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