「子ども・子育て支援金」であなたの負担はどうなる?

東京, 03月29日 /AJMEDIA/

加入者1人あたり平均月350円~600円。
子どもなど扶養されている人を除いた「被保険者」で試算すると最も高い場合は950円。
少子化対策の一環として、政府が公的医療保険を通じて集める「子ども・子育て支援金制度」。

医療保険の種類ごとの「支援金額」の試算が初めて公表された。

一方、政府は支援金による「実質的な負担はゼロ」と説明する。

与野党双方から「わかりにくい説明だ」という声が上がっているが、本当に新たな負担にはならないのだろうか。
(三藤紫乃、高橋太一、鹿野耕平)
公表された試算は
まずは政府が公表した試算の詳細を見てみたい。

「子ども・子育て支援金制度」は2026年度から始まり、初年度は6000億円、2027年度は8000億円、2028年度以降は1兆円が徴収される予定だ。

きょう公表された試算では、この3年間の医療保険制度全体の加入者1人あたりの平均月額が示され、2026年度は250円、2027年度は350円、2028年度は450円となった。

医療保険の種類ごとの2028年度時点での「支援金額」は以下のとおりだ。

あなたの「支援金額」は?
(会社員など)
◆大企業に勤める人などが加入する健康保険組合で、扶養されている人も含めた加入者1人あたりの支援金額は平均で月500円。
◆主に中小企業に勤める人などが加入する「協会けんぽ」で450円。
◆公務員などが加入する「共済組合」はすべての保険のなかで最も高い600円。

こうした保険では、子どもなど、扶養されている加入者は「支援金」を支払わないため、保険料を支払っている「被保険者」1人あたりで見ると700円から950円となる。

また、収入に応じて金額は変わる。

労使折半が前提で同じ額を事業主も支払うことになる。

(国民健康保険)
自営業者や非正規労働者などが加入する国民健康保険では、1人あたりの平均で400円だ。
実際の額は、世帯ごとに所得や人数に応じて決められるが、高校生以下の子どもについては人数に含めないほか、低所得の世帯への軽減措置も講じられる。世帯あたりの平均的な額は600円としている。

(後期高齢者医療制度)
75歳以上の高齢者にも、全体の8.3%の負担を求めるとしていて、1人あたり平均で350円。

ただ、実際の額は所得や自治体の財政状況によって異なる。

政府の説明は?
「支援金制度」は、2028年度までに実施する少子化対策の「加速化プラン」に必要だとされる年間3兆6000億円のうち、1兆円の財源を調達するための新たな仕組みだ。

創設が初めて打ち出されたのは去年6月の「こども未来戦略方針」。
その後、政府は公的医療保険制度を活用することを決めた。

理由について、もっとも幅広い世代の人が保険料を支払っていること、少子化や人口減少に歯止めをかけることができれば、社会保障に関わる制度全体の持続可能性も高まること、企業も負担することを挙げる。

つまり社会全体で子どもや子育てを支えようということだ。

ただ、政府は「支援金による実質負担はゼロ」と説明する。

「こども未来戦略方針」では「国民に『実質的な追加負担』を求めることなく、少子化対策を進める」と記され、今の国会でも、岸田総理大臣や加藤こども政策担当大臣は、「歳出改革と賃上げで社会保障負担率の抑制の効果を生じさせ、その範囲内で制度を構築していくことにより、全体として実質的に負担は生じない」と繰り返し答弁している。

一方で、加藤大臣は医療保険の加入者1人あたりの「拠出額」は、2026年度は300円弱、2027年度は400円弱、2028年度は500円弱になると国会で答弁してきた。

メリットも
また2月には「支援金制度」の創設によって、子どもが18歳までに受けられる給付が1人あたり平均でおよそ146万円増えるという見通しも初めて示された。

今の児童手当とあわせると1人あたり平均でおよそ352万円が給付されることになるという。

負担だけではなく、メリットも示すことで、少子化対策と財源確保の必要性を強調するのが狙いだ。

「実質負担ゼロ」って本当?
実際の負担はどうなのか。

2月の衆議院予算委員会ではこんなやりとりがあった。

日本維新の会 青柳仁士氏
「毎月支払う保険料が上がるのは国民にとっての『実質的な負担』ではないのか」

岸田総理大臣
「収入や加入する保険の種類でデコボコが生じるが、全体として(社会保障)負担率は増えない」

保険料に上乗せする形で「支援金」を支払うのであれば、一人ひとりの負担額は増える可能性もある。

しかし、政府は一人ひとりの保険料の負担ではなく、個人や企業など国民全体の所得=国民所得に占める社会保険料の負担の割合、「社会保障負担率」を「実質的負担」の指標としている。

ただ、その説明は複雑だ。

「社会保障負担率」は、平成元年度(1989年度)は10.2%だったが、新年度(2024年度)は18.4%になる見通しだ。

少子高齢化で今後も保険料負担は増えていくとみられるが、政府は、
1「分子」となる保険料の負担増を、医療・介護の歳出改革でできるだけ抑える
2「分母」となる国民所得を賃上げを進めて増やす
この方法で「社会保障負担率」の上昇をできるだけ抑え、抑えられた範囲内で「支援金」を拠出してもらうため「支援金」によっては「負担率」は上がらないというのだ。

窓口負担増などは“負担ではない”
また、社会保障の歳出改革では、医療や介護サービスの窓口負担が増えたり、サービスが削られたりする可能性があるが、政府は保険料は増えず、社会保障負担率の増加にはつながらないことから、「実質的な負担」には含まないとしている。

さらに、医療や介護の分野で働く人の賃上げなどを行うため、2023年度と2024年度で3400億円の保険料の負担増が見込まれるが、社会全体の賃上げに伴う保険料の増収で賄えるとして、これも「実質的な負担」を計算する際の保険料負担増には含めないと政府は整理した。

なぜ「負担増」を避けるのか
なぜ政府はここまで「負担増」ということばを避けるのか。

政府関係者はこう解説する。

「『支援金制度』が打ち出された去年6月に政権が気にしていたのは『身を切る改革』を掲げた『日本維新の会』の統一地方選挙などでの躍進。防衛増税への逆風もあって、負担増は言い出せなくなった」

しかし、財源がなければ、少子化と人口減少を食い止めることはできないとして、生み出されたのが「実質負担ゼロ」の説明だったというのだ。

でも、わかりにくい
こうした政府の説明には、与党からも「わかりにくい」という声が出ている。

公明党 高木政務調査会長
「わかりにくい説明で、国民理解がなかなか進まない要因の1つではないか。もっと真正面から支援金制度の意義や必要性を説明するべきだ」

野党からは「複雑な説明や計算式を作って国民にわからないようにして、財源だけを集めようという魂胆が透けて見える」といった批判が出ている。

説明はうそではないが・・・
官僚からも、次のような声が聞かれる。

「マクロでバーチャルな説明なので、わかりにくいと言われればそのとおりだ」

「うそをついたり、ごまかしたりしているわけではないが、この説明で進まざるを得なくなったのが残念。自業自得といえばそれまでだが」

次のように語る官僚すらいる。

「支援金は負担増と言わざるを得ない。将来世代のために正面から負担をお願いするべきだった」

国会で本格議論へ
これまでの国会をふりかえると「支援金制度」のあり方と政府の説明のあり方に議論が集中し、肝心の少子化対策の内容の議論が深まっているとは言えない。

「子ども・子育て支援法」などの改正案は4月に国会で審議入りする予定だ。

少子化と人口減少が加速する中、待ったなしの対策はどうあるべきなのか、裏付けとなる財源はどうあるべきなのか。

国民生活に大きな影響を与える内容だけに、分かりやすい形で情報が提示され、議論が尽くされることを願っている。
(3月29日 ニュース7で放送予定)

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