“絶滅危惧種”二階氏に迫る危機

東京, 5月23日, /AJMEDIA/

 昨年10月の岸田文雄政権発足で自民党幹事長の座を追われ、党内反主流の「冷や飯組」となった二階俊博氏が、政治生命の危機をささやかれている。次期衆院選での政界引退が既定路線とみられる中、二階氏直系での選挙区継承が困難視されているからだ。二階氏の地元・和歌山県は、1票の格差是正のための「10増10減」で小選挙区が3から2に減る。しかも、同氏の新たな選挙区に自民党の世耕弘成参院幹事長がくら替え出馬を公言しており、「二階VS世耕」の戦いは世耕氏優勢との見方が強い。
 二階氏は安倍晋三、菅義偉両政権で自民党の最高実力者として君臨。ひと昔前の手だれの政局仕掛け人を想起させる言動などから「政界の絶滅危惧種」と呼ばれてきた。しかし、ここに来て「来るものは拒まず」と無派閥や元野党議員の積極的取り込みで、「政界駆け込み寺」とも呼ばれた二階派の内情が一変。退会者が相次ぎ、後継者も不透明で「解体寸前」(自民幹部)との見方が出始めている。このため参院選で与党が改選過半数を確保し、岸田政権での「国政選挙のない黄金の3年」が現実となれば、現在83歳の二階氏が次期衆院選で「選挙区と政治生命を同時に失う絶体絶命の危機」(同)に陥る可能性も少なくない。
 二階氏は2016年8月、当時の谷垣禎一幹事長の自転車転倒事故での負傷による辞任を受け、幹事長に就任。その後の安倍、菅両政権で政局運営の中枢として豪腕を振るってきた。特に安倍首相の総裁3選を主導する一方、その後の「ポスト安倍レース」では安倍4選に言及しながら、ライバルの石破茂元幹事長を「期待の星」と持ち上げるなど、変幻自在の「二階劇場」を展開。20年夏の安倍氏の退陣表明時には、電光石火で「菅後継」をまとめ上げた。
◇「権力」喪失は“自業自得”との声も
 こうした実績から二階氏は、安倍氏や菅氏、麻生太郎副総裁をしのぐ「最強のキングメーカー」として権勢を誇示。岸田政権発足後も党内反主流の旗頭として、党内ににらみを利かせてきた。しかし昨年10月の衆院選で圧勝した首相が、その後の政局運営でも、売り物の「聞く力」と新型コロナウイルスやウクライナ危機への対応で、国民的評価を獲得。今年4月に政権半年を迎えた時点で内閣支持率が就任後の最高水準となり、参院選勝利による長期安定政権が確実視される状況となったことで、二階氏の存在感が急速に低下した。
 そもそも二階氏の力の源泉は、幹事長として選挙での公認調整や資金配分、さらには党・内閣人事で駆使した絶大な権限だった。しかし「二階外し」を掲げて誕生した岸田政権では、その「権力」を喪失、派閥領袖(りょうしゅう)としての求心力も急低下したことで、二階派の退会者が相次ぐ事態を招いた。
 まず、昨年末に二階氏に退会を申し出たと主張した片山さつき参院議員(元地方創生担当相)に対し、二階氏は今年2月にあえて事実上の除名処分を決定。片山氏は安倍派に入会して参院選東京選挙区からの出馬を模索し、二階氏の逆鱗(げきりん)に触れたとされる。さらに、衛藤晟一元沖縄北方担当相(参院比例)も4月8日付で派閥を離脱したが、周辺には「二階さんはもう政治家として終わった」などと漏らしている。
 しかも、二階派の後継者と目される武田良太前総務相は菅氏と極めて親密で、「手兵を連れて派閥を割って菅グループに加わる」(自民幹部)との臆測も絶えない。もともと二階派は「寄せ集め集団」とやゆされてきただけに、党内他派閥からは二階氏の窮状に「自業自得」(同)との厳しい声も少なくない。【政治ジャーナリスト・泉 宏/「地方行政」5月16日号より】。

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