海へ処理水、近づく放出 漁業者反対、置き去りに―東電福島第1原発

東京, 3月5日, /AJMEDIA/

東京電力福島第1原発事故から12年となる今年、第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水を海へ流す政府の方針が春から夏にかけて実行段階に入る。政府と東電が2015年に福島県漁業協同組合連合会に伝えた「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」という約束は、置き去りにされつつある。
「われわれはここで漁業を続けなければならない。反対の旗は降ろさない」。県漁連の野崎哲会長(68)は2月中旬のインタビューでこう語った。
 政府は21年4月に海洋放出する方針を決定した。廃炉を進める上で、原発敷地内に1000基以上ある処理水の保管タンクを減らす必要があることが理由で、今年1月には放出開始を「春から夏ごろ」と公表した。野崎氏は福島で暮らす生活者として「廃炉を進めないといけない」とも述べ、漁業と廃炉を「切り離せたらどんなに楽か」と苦しい胸の内を明かした。
 浜通りの相馬双葉漁業協同組合の今野智光組合長(64)は「放出には基本(的に)反対だが、一日も早く廃炉を進めてほしい」と考えている。組合員の多くは沿岸漁業者。沖合や遠洋での漁業とは違う。廃炉まで数十年続く放出の影響に「最後まで付き合わなくてはいけない」。とはいえ、「反対、反対と言っても廃炉が進まない」と話す。
 政府は処理水のトリチウムについて、規制基準を下回る濃度に薄めて海に流すため安全性は確保されると説明しているが、消費者には十分に届いていない。漁業者は風評被害への懸念を拭えない。
 福島県沖は黒潮と親潮が交わる豊かな漁場。質の高い魚は「常磐もの」と呼ばれるが、福島県の漁業者は原発事故後、操業自粛を余儀なくされた。安全性が確認された海域と魚種に絞った試験操業が21年3月にようやく終了した段階で、処理水の放出は本格操業への移行に水を差しかねない。
 2月下旬に福島県いわき市であった西村康稔経済産業相との意見交換会。漁業者が「われわれが理解を示していないのに春から夏にかけて放出というのはなぜか」とただしたが、西村氏は「理解」を求めて説明し続ける姿勢を示すにとどまった。岸田文雄首相は今月3日の参院予算委員会で、春から夏の見込みに「変更はない」と語った。

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