「社会実験」10年、黒田日銀に幕 大規模緩和の限界露呈―円高歯止め、株高を演出

東京, 4月9日, /AJMEDIA/

日銀の黒田東彦総裁は8日、2期10年の任期を終え退任する。就任直後の2013年4月、国債を大量購入する「異次元」の金融緩和を断行し、日本経済を苦しめた円高に歯止めをかけて株高を演出。景気の下支え役を果たしてきたが、2%の物価目標の持続的な実現は最後までかなわなかった。「壮大な社会実験」とされた空前の大規模緩和の限界も浮き彫りとなった形だ。
「賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていたことが影響した」。黒田総裁は7日の退任記者会見で、物価目標未達の理由を問われ、無念さをにじませた。
 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の第一の矢として放たれた異次元緩和では、国債の買い入れや資金供給量を倍増。「黒田バズーカ」の異名を取り、黒田総裁は当時、2%の物価目標を「2年程度」で実現することに自信を見せていた。
 その後、マイナス金利政策や長短金利操作など異例の緩和策も次々に導入。それでも物価は上がらず、大規模緩和は長期化した。今年3月末の日銀の国債保有残高は581兆7206億円と年度末として過去最高を更新。国債発行全体の約半分を占めるなど膨張を続けている。
 黒田総裁は「経済の改善は労働需給のタイト化をもたらし、女性や高齢者を中心に400万人の雇用増加が見られた」と大規模緩和の効果を説明。さらに、「物価や賃金は上がらない」という人々の見方についても「明らかに変容しつつある」と述べ、物価目標の実現が近づいていると強気の姿勢を見せた。
 ただ、3%を超える足元の消費者物価上昇率は、原材料高や円安による輸入価格の上昇などの要因が大きい。金融緩和で需要が強まった影響は限定的で、日銀も今年度半ば以降、物価は再び目標の2%を下回ると予想している。
 クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは「大規模緩和のみでデフレから脱却できるという黒田総裁の思い込みが、日銀の金融政策への過度な負荷につながった」と指摘する。
 欧米で金融不安がくすぶり、世界経済の減速懸念も強まる中、経済学者の植田和男氏が9日付で日銀総裁のバトンを引き継ぐ。日銀が大量の国債購入で金利を抑え込んだ結果、財政規律の緩みにつながった側面があり、「事実上の財政ファイナンス(赤字の穴埋め)」との批判がある。
 次期総裁には副作用が目立ち始めた大規模緩和の円滑な正常化が最大の課題となるが、長期金利の急騰(債券価格の急落)を招けば金融機関が保有する国債の評価損が拡大し、国内で金融システムへの懸念が生じる恐れもある。黒田氏は新総裁に難しい課題を託し、舞台から降りることになった。

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