揺らぐ自由化の理念 電力大手で相次ぐ不正閲覧―経産省、厳正処分へ

東京, 2月4日, /AJMEDIA/

 電力大手が送配電子会社の持つ顧客情報を不正に閲覧する事案が相次ぎ発覚した。入手した情報を営業活動に利用した事例もあり、公正な競争によるサービス向上を目指す電力自由化の理念を揺るがしかねない。経済産業省は、行政処分や制度見直しで厳正に対処する。
 不正閲覧は2022年12月、関西電力で発覚した。22年4~12月に社員ら1013人が送配電子会社のシステムにアクセスし、競合する新電力の顧客情報4万806件を不正に閲覧。営業活動に利用した事例もあった。
 経産省の電力・ガス取引監視等委員会が大手各社に緊急点検を指示したところ、不正閲覧は東北、中部、中国、四国、九州の5電力にも拡大。多くは顧客対応のためと釈明するが、コンプライアンス(法令順守)意識の低さを露呈した。監視委は3日、顧客情報が営業活動に利用されたかどうかを調べるため、情報提供を募る窓口を開設した。
 電力事業は発電、小売り、送配電の3部門で構成される。顧客サービスの向上や経営効率化、企業の事業機会の創出を目的に、電力業界では16年に小売りが全面自由化。20年には、新電力も利用する送配電事業の中立性を確保するため、大手電力の発電と送配電を分離する「発送電分離」を実施。親会社が送配電子会社の情報を営業活動に利用することを禁じた。
 22年には全販売電力量に占める新電力のシェアは2割まで拡大。しかし、今回の事態が示すように、電力システム改革は道半ばで、新電力関係者は「私たちの顧客情報も見られただろう」と不信感を募らせる。
 関電には経産省が業務改善命令を出す見通しで、同省幹部は、関電社員が違法性を認識しながら営業活動に情報を利用していたとして、「特に悪質なケースだ」と憤る。西村康稔経産相は「送配電会社の中立性の確保に必要な対応を検討していきたい」と表明した。
 現行の発送電分離は、電力大手が送配電部門を100%子会社とする「法的分離」にとどまる。監視委の専門会合では、親会社との資本関係を解消する「所有権分離」も検討すべきだとの声が出始めた。武田邦宣座長(大阪大院教授)は「制度面の対応について検討していく」と述べ、情報遮断の厳格化を進める考えを示した。
 22年12月には関西、中部、中国、九州の4電力が顧客獲得競争を制限するカルテルを結んでいたことも明らかになった。燃料費高騰を背景に東京電力など7社は家庭向け規制料金を4月以降に値上げする方針だが、電力業界への信頼は失墜しており、利用者から厳しい視線が注がれている。

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