成長実現へ方策は 日本経済に試練―識者に聞く

東京, 9月25日, /AJMEDIA/

 日本経済は実質GDP(国内総生産)がコロナ禍前の水準まで回復したものの、円安や物価高など新たな試練に直面する。故安倍晋三元首相の経済政策のブレーンを務めた本田悦朗元内閣官房参与と、今年6月に発足した「令和臨調」の財政・社会保障に関する専門部会の共同座長を務める平野信行氏(三菱UFJ銀行特別顧問)に成長を実現するための方策を聞いた。
 ◇成長確保へ財政出動が重要=本田悦朗・元内閣参与
 ―「アベノミクス」について総括を。
 アベノミクスの目標は、デフレマインドを払拭(ふっしょく)し、持続的な経済成長を実現することだ。第2次安倍政権発足直後の2013年度には消費者物価指数を前年比でプラスにできたが、2%の物価安定目標には到達できていない。大胆な金融緩和と財政出動で強い需要を生み出し、物価目標達成が見通せるようになれば、規制改革による競争促進や成長の基盤となる政府投資の実効性が高まる。それが目指した姿だ。
 ―成長戦略が不十分だったとの見方がある。
 規制改革で競争を促進し、技術革新を起こそうとしたが、需要が思うように付いてこなかった。原因は2度の消費税増税で、特に14年の3%もの大幅引き上げの悪影響は大きかった。超円高の是正や株価上昇、企業の利益拡大、雇用改善など効果は出ているが、物価や賃金上昇の点で道半ばだ。
 ―コロナ禍の収束も見据え、必要な対応は。
 金融は限界まで緩和している一方で、企業部門はなお貯蓄超過という異常な状態で、財政出動が決定的に重要だ。10月に政府がまとめる総合経済対策では、「人への投資」やデジタル、グリーンなど公共性の高い分野の基礎研究に財政出動することで、民間投資が誘発されるよう期待する。「真水」(直接の財政支出)で、20兆円規模とされる需要不足を超える財政出動が重要だ。
 ―財政の持続性も重要では。
 財政の持続性を確保するためにこそ経済成長が必要で、そのために財政出動が不可欠だ。国債の利払いを経済成長が上回っている限り、プライマリーバランス(基礎的財政収支)が赤字でも財政は改善する。経済成長によって、債務残高の相対的な規模を落としていくのが王道だ。
 ―防衛費の増額も課題だ。
 東アジアの安全保障環境を見ると、最低でも国内総生産(GDP)比2%の防衛費が、国家の意志として必要だ。国の基本方針なのだから、当初予算で計上し、国民に十分説明すべきだ。財源がないので国を守れないということはあってはならないのだから、赤字国債を出せばよい。
 ◇労働市場改革で成長強化を=令和臨調の平野信行共同座長
 ―国内総生産(GDP)はコロナ前の水準まで回復した。
 コロナ禍からの経済回復が徐々に進んできたのは事実だ。ただ、他の先進国に比べ、回復ペースは遅い。物価も上昇しているとはいえ、諸外国に比べてはるかに緩やかだ。なぜなのかが重要だ。一言で言えば、日本経済はバブル崩壊後の30年間低成長が続いたが、まだその傾向に大きな変化が認められないということだろう。日本経済の低体温体質は改善されていない。
 ―回復の遅さはコロナ前からの問題だと。
 日本経済が抱えている大きな問題は、「守り」に入っていることだ。10年も異次元緩和や巨額の財政資金を投入して何が起きたかというと、残念ながら産業構造の変化ではなく、成長力が低いセクターでの労働力の滞留だ。長期にわたる低成長の原因には投資不足もある。今後の成長分野への投資を政府が主導するとともに、民間もリスクを取って新たな挑戦をしていく必要がある。
 ―「アベノミクス」は構造改革が不十分だったか。
 さまざまな規制改革を進めたが、根本の産業構造の変革にためらいがあった。経済が成長するとは、古いものが捨てられ、新しいものに代わることだが、それが不十分だった。大胆な金融緩和は当初、過度な円高の是正など大きな成果を挙げたが、(低金利の長期化は)既存の経済産業構造に優しく、産業の新陳代謝を妨げた面がある。
 ―どのような政策が必要か。
 労働市場の流動化はやらなければいけない。低成長分野から成長分野へヒト、モノ、カネの移動が重要だ。労働移動を可能にするには人に力がないとできないため、「人への投資」、とりわけ教育が重要だ。セーフティーネットも必要だが、単純に失業手当を給付するのではなく、個人の能力を最大限に引き出すための「学び直し」とセットにする積極的労働市場政策も考えられる。
 ―厳しい財政下で防衛費増額など課題は多い。
 国防を考えるにも財政の健全性を維持しておかなければいけない。そのためにはしっかりとした根拠があって、効果を測定できる政策と財政を採用すべきだ。

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