首相がおびえる物価高と醜聞

東京, 7月4日, /AJMEDIA/

 22日に公示された第26回参院選は、7月10日の投開票まであと2週間(注)。選挙戦は既に最終盤に差し掛かり、各メディアや各党の情勢予測調査も出そろって、各党の消長などが浮き彫りになりつつある。公示前からの自民圧勝予測は変わらず、それによる1強体制構築を狙う岸田文雄首相は「終戦後最大の国家の危機には政権安定が不可欠」と繰り返す一方、野党陣営への過激な批判は避け、連日の街頭演説も安全運転に徹している。「このまま投開票を迎えれば、負ける要素はない」(自民選対)との読みからで、立憲民主など主要野党の「与党の勝利は日本の民主主義を危うくする」との主張も、空回り気味だ。
 今回参院選の改選は124議席だが、神奈川選挙区の欠員補充があるため、実際は125議席。議席配分は1人区32、2人区8、3人区・4人区各12、5人区(神奈川)5、6人区(東京)6、比例代表50で、改選過半数は63議席となる。これに対し各種情勢調査では、2人区はすべて自民と野党の「住み分け」が確実で、3人区以上は3カ所前後で自民2議席が有力。比例代表も第2党以下の伸び悩みで、自民が相対的優位とされる。勝敗のカギを握る1人区は、全国的な野党共闘が不発に終わったことで、自民が「最低でも24議席が確実」(選対)で、「現状なら前回、前々回を超える60議席前後」(同)との予測が支配的だ。
 加えて注目の投票率も、各種世論調査の数値からの推計で「5割以下の可能性大。場合によっては過去最低の44.52%の近くまで落ち込む」(選挙アナリスト)ことが想定されている。数字を分析すると、棄権は若い世代が中心で、しかも無党派層が多いことから、強固な組織を持つ与党の自民、公明両党が相対的に有利となり、公明もこれまで同様の14議席が確実視されている。
◇大炎上の「黒田発言」と「細田・吉川疑惑」
 このため、競馬に例えれば「最終コーナーを回ったところで、首相らが『そのまま!』と叫んでいる状態」(自民選対)だが、それでも首相にとっての大きな不安要因が残る。細田博之衆院議長のセクハラ、吉川赳衆院議員の未成年女性との“飲酒パパ活”のダブル疑惑と、黒田東彦日銀総裁の「家計は値上げ許容」発言への国民的批判の広がりだ。
 細田氏の疑惑はいわゆる「文春砲」で表面化。立民が提出した議長不信任決議案は否決され、細田氏自身も名誉毀損(きそん)で提訴したが、「文春の出方次第で時限爆弾になる」(自民幹部)。さらに岸田派の吉川氏は、自民党内からも議員辞職要求が出る中、首相の電話にも出ずに雲隠れを続ける。一方、物価高騰をめぐる黒田発言は大炎上し、撤回と謝罪に追い込まれた。ただ、発言内容は政府・日銀の「本音」だけに、国民の間では「物価高に苦しむ庶民の気持ちを全く理解していない」との批判が急拡大。黒田氏は欧米の金利引き上げにも対応せず、急激な円安を事実上放置する構えで、有権者の最終判断に影響を及ぼす可能性が高まる。
 そもそも、これまでも「参院選は中間評価で、政権のおごりや緩みが露呈すれば、一気に情勢が変わる」(自民長老)ことがあった。24年前の参院選では、当時の橋本龍太郎首相(故人)の公示後の「恒久減税」をめぐる曖昧な発言に国民が猛反発。今回同様の自民圧勝予測が惨敗に終わり、橋本氏は即時退陣に追い込まれた。新型コロナウイルスの新規感染者数が再拡大の兆しを見せ始め、各種世論調査での高支持率に陰りが見えるだけに、選挙期間中の外遊ざんまいで余裕を見せる首相も、本音は「投開票日まで“悪夢再来”におびえる状況」(自民長老)とみる向きもある。(6月22日記)【政治ジャーナリスト・泉 宏】
注:本稿は時事通信社「地方行政」6月27日号掲載。

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