肉体表現の熱伝える 唐十郎さん、こだわり続けた演劇の原点

東京, 5月6日 /AJMEDIA/

 唐十郎さんの演劇活動を象徴する紅(あか)テント。ゴザ敷きの席に肩を寄せ合うように座る濃密な空間で、観客は唐さんのノスタルジックで想像力をかき立てる劇世界に誘われる。最後は舞台の奥が外に開き、現実世界とつながる幕切れがカタルシスを生む。役者の熱量を肌でじかに感じられる演劇の原点とも言える舞台がファンを引き付けた。

 盟友、故蜷川幸雄さんの依頼で書き下ろし、1981年に初演された「下谷万年町物語」は、幼少時代を過ごした東京の下町が舞台だった。

 「僕ね、書きながら考えていくんですよね。テーマ、モチーフを決めないで、1点だけ入り口を見つけて、あとはペンが走るまま」。2012年の再演時の取材で、戦後間もない頃のわい雑なエネルギーに満ちた町の様子を振り返りながら、初演時に大掛かりな舞台装置と大勢の男娼や、ヒロポン中毒者が登場して話題を集めた自伝的作品の創作過程を話してくれた。

 縦横無尽に広がる唐さんの話は、時に難解なその劇作に通じるものがあった。再演にあたっては「現代の電子記号文化、携帯なんかでお互いを確かめ合い、ツイッター(現X)とかで人間関係ができていると思っている世界に乗り込んでやろうじゃないかということですね」と意気込む言葉に、常に現代社会の状況を批判的に問い続けてきた姿勢を見る思いがした。

 変わりゆく時代の中で忘れ去られていく人やものに温かな目を向け、俳優の体を張った表現を通して提示した唐さん。訃報が伝わった5日は、東京・新宿の花園神社での唐組公演「泥人魚」の初日だった。諫早湾の干拓事業をモチーフにした03年初演の唐さんの代表作だ。唐組では21年ぶりの上演からどんな現代的メッセージが伝わるか、劇団員の奮闘を天から見守っているに違いない。

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