岩手・宮城沿岸自治体、「新想定」で浸水対策見直し 相次ぐ財政負担「どこまで」―震災12年

東京, 3月4日, /AJMEDIA/

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手、宮城両県沿岸部では、日本・千島海溝沿いの巨大地震による新たな浸水想定などの公表を受け、避難タワーの整備や防災拠点となる庁舎の改修など対策の練り直しを急ぐ。ただ、震災後に津波対策で移転した庁舎で、さらなる対策を迫られるケースも発生。市町村からは相次ぐ財政負担に「どこまで対応すればいいのか」との声も漏れる。
国は2022年9月、両海溝沿いの地震対策を支援する特別措置法に基づき、国が避難施設の整備などの費用を重点的に支援する「特別強化地域」として108市町村を指定。これを受け、指定地域の一つとなった宮城県東松島市は、津波避難タワーの設置を決めた。同県が22年に公表した新たな想定で、同市内16カ所の津波避難場所が全て浸水する可能性を指摘されたためだ。
 市は23年度当初予算案に基本設計費や地質調査費などの関連経費約1000万円を計上。渥美巌市長は2月中旬の記者会見で「垂直避難できるものが必要だ。何とか命を助ける対策をしなければ」と強調した。
 ◇移転したばかり
 東日本大震災で旧庁舎が全壊した同県女川町は18年、旧庁舎から150メートル内陸で住民がアクセスしやすい高台に新庁舎を建てた。総工費は約43億円。ところが、県の想定で最悪の場合、新庁舎周辺でも4メートル弱の浸水が見込まれた。町は、災害が想定されるときには1階部分にある町民生活課や健康福祉課などを隣の高台に移すことを検討しており、担当者は「リアス式海岸沿いのため、浸水想定が高くなりがちになってしまう」と対応の難しさを指摘する。
 岩手県宮古市でも、18年に完成した新庁舎が最大で庁舎1階天井に当たる2.9メートルまで水に漬かる恐れがあるとされた。市は「新庁舎は建てたばかりだ」(担当者)とし、1階の非常用発電設備などを2階以上に移設する工事で対応する。
 震災前から新庁舎建設を検討してきた同県釜石市。新庁舎候補地が最大5メートル程度浸水すると想定されたため、1階部分はフリースペースとし、機材や重要書類の配置は最小限にとどめる方針とした。市はこれまでも安全対策やかさ上げなどの変更を重ねており、幹部は「非常に時間と労力がかかっている」と嘆く。
 ◇重い財政負担
 最大4400人が死亡する可能性―。厳しい想定を受けた同県久慈市は今年1月、検討委員会を立ち上げ、津波避難計画や庁舎建て替え、避難場所の整備などの課題について今後検討することを確認した。ただ「国からさらなる財政支援がなければ対策は進まない」との意見も。遠藤譲一市長は会合後の記者会見で「やるべきことが山のようにある」と吐露した。
 同県の達増拓也知事は新想定への対応について「東日本大震災からの復興に取り組む沿岸市町村にとっては財政的にさらなる負担となる」と強調。県は23年度、防災意識の普及啓発や自主防災組織の育成といったソフト事業で独自の補助制度を新設し、市町村を後押しする方針だ。

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