千葉 銚子「千葉科学大学」公立大学への移行手続きを見合わせ

東京, 01月31 /AJMEDIA/

千葉県銚子市の「千葉科学大学」が、公立大学への移行を要望していることについて、銚子市は、大学運営のあり方について協議が整っていないなどとして、移行に向けた手続きを見合わせたことを明らかにしました。

千葉科学大学は、岡山県に本部がある学校法人「加計学園」が、市からの誘致を受けて2004年に設置しました。

しかし、長く定員割れの状態が続き、学園側は去年10月に「大学を存続させるため」として公立大学への移行を求める要望書を市に提出しました。

銚子市は、有識者などが検討を行う委員会の設置を定めた条例を制定し、今月中にも委員会を開催するとしていましたが、越川信一市長は30日の記者会見で、委員会の開催を見合わせたことを明らかにしました。

理由について、越川市長は「検討を行う前に市と学校法人が大学の運営にどのように関わっていくのか認識を整えておく必要があるが、運営のあり方の基本的な部分について協議が整っていない」と述べました。

そのうえで「学園側は2025年度からの移行を求めているが、移行ありきではなく、慎重に議論を進めていきたい」として、今後も協議を続けて委員会が開催できるか、見極める考えを示しました。

千葉科学大学 誘致の経緯について
千葉科学大学は、銚子市が学校法人「加計学園」を誘致して2004年に設置された私立大学です。

大学の設置は、若者が大学への進学をきっかけに流出する課題を抱えた地元の悲願でした。

そうした中、2002年の市長選挙に、「加計学園」が運営する大学で客員教授を務めていた元官僚が立候補し、大学の誘致を公約に掲げて当選しました。

すると、選挙の8か月後には、学生や教員などで人口を増加させ、地域の教育や文化の向上につなげるなどとして、市と学園側の間で協定が結ばれ、市がキャンパスの建設費の一部を負担し、土地を無償で貸し付けることなどが盛り込まれました。

大学には当時、全国で初めてとなる危機管理の専門家を養成する「危機管理学部」が設けられ、地域活性化の原動力になるものと期待されました。

今回、当時大学の誘致に関わった関係者が、匿名を条件に取材に応じ「人口減少が進み地域の経済が疲弊する中、大学の誘致は抜本的な対策になると考え、製造業や工場に代わる新たな産業の誘致として推進した」と振り返りました。

一方、市が誘致にあたって、多額の財政負担をしたことについては、「大学が長く存続すれば、税金の増収によって負担分は30年程度で取り戻せる計算になっている。大学が地域の活性化に貢献したことは間違いないと思っている」と話していました。

銚子市 誘致にあたり多額の公費を投入
千葉科学大学の誘致にあたって、銚子市は多額の公費を投入しました。

市は2003年、キャンパスなどの建設費の一部として92億1500万円を負担し、およそ10ヘクタールの市有地を無償で貸し付けるとした協定を学園側と結びました。

しかし翌年、市議会で財政負担の大きさが指摘され、市が、学園側に減額を要請した結果、最終的に市の負担は77億5000万円となりました。

市は、このうちおよそ70億円分を地方債を発行して賄いましたが、利息を含めて毎年4億円に上る返済を、20年後となる再来年度まで続けることにしています。

一方、減額が受け入れられなかったおよそ8億円については、市が当時の一般財源から支出する代わりに、学園側が「銚子市の教育・文化の向上に貢献する施設の建設を前向きに検討する」としましたが、いまだに施設は建設されていないということです。

ほかにも、2014年に市の要望を受けて新たに看護学部が設置された時、千葉県から学園側に、施設整備にかかる経費の補助として、4億円余りが支出されています。

銚子市は、借金の返済がどの程度負担になっているかを示す「実質公債費比率」が千葉県内の市町村で最も高く、厳しい財政状況となっています。

多額の公費が投入されてきたことについて、越川信一市長は「市が大きな財政負担をしたので、地域との連携を強化して誘致した効果を高めてもらいたい。できれば学校法人が経営努力をしてそのまま続けてもらいたい」と述べています。

地域への経済効果は想定の3分の1程度
千葉科学大学の誘致にあたり、市は地域経済に大きなメリットがあるとしてきました。

まず、学生や教員などが移り住むことで人口が2600人ほど増加すると試算。

消費の増加などによる地域への経済効果は、毎年およそ69億円に上ると想定されていました。

しかし、実際の学生数は2009年から定員を下回り続け人口の増加も2017年時点の推計では、1880人にとどまっています。

地域への経済効果は、年間で22億8230万円で、想定の3分の1程度だったとされています。

市は2017年を最後に、大学の設置に伴う経済効果の推計を公表していません。

銚子市の越川信一市長は「当初市が示した経済や財政への効果の試算は本当に正しい数字だったのか、反省があるし、検証しなければいけない。移行に向けた検討では議論の中心とするべきだ」と述べました。

公立大学への移行 自治体に重い財政負担生じる可能性も
少子化により、各地の私立大学では経営が厳しくなるところが相次いでいます。

日本私立学校振興・共済事業団の調査によりますと、去年5月現在、全国におよそ600ある私立大学のうち、半数を超える320の大学が定員割れしています。

こうした中、公立大学への移行を希望するところが増え、去年は北海道の旭川大学、おととしには、山口県の徳山大学が、それぞれ公立大学に移行するなど2009年以降で12の大学に上ります。

公立大学への移行は、志願者を増やした大学がある一方、将来的に、自治体に重い財政負担が生じる可能性もあります。

大学の経営に詳しい東京大学大学院の両角亜希子教授は「公立大学に移行することで国から地方交付税が入り、財政状況が改善することがあるが、施設の建て替えなどが自治体の負担になるのは財政的なデメリットになる。国公立と私立という枠組みを超えて、将来の大学のあり方を国、地方自治体も含めて議論していく必要がある」と話していました。

銚子市の人たちの反応は
銚子市内に住む60代の会社員は、「大学はもともと市が強引に誘致したようなもので、多額の公費を投入してきたうえで公立大学に移行するのには疑問がある。市の財政自体がかなり厳しいのに、公立大学の経営まで引き受けられるのかと思います」と話していました。

市内の事業所に勤める20代の会社員は、「銚子市を若い力で盛り上げるためには、公立大学への移行はしかたないと思います。すでに公費をつぎ込んで誘致し、さらに公立大学になってつぎ込むとなると難しいところだが、大学を残すためには必要だと思います」と話していました。

千葉科学大学の看護学部に通う4年生は、「看護師を目指して山形県から進学してきました。私の下の代も定員割れしていますが、学生にとって大学を選ぶ際には学費が大きなポイントです。千葉科学大学は私立で学費も高いので、公立大学となって学費が安くなれば、通いたいと思う学生も増えるのではないでしょうか」と話していました。

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