ロシアの侵略に見る「連携国と同盟国の違い」「独裁者の本質」

東京, 3月6日, /AJMEDIA/

 ロシアは、国連安全保障理事会常任理事国として、国際社会の平和と安全に責任を持つ立場にありながら、ロシア系住民が実効支配しているウクライナ東部以外に武力行使し、戦後の国際秩序を破壊したこれは東アジアにとっても人ごとではなく、「欧州にとどまるものではない」(林芳正外相)のだ。(文 金沢工業大学虎ノ門大学院教授、元海将・伊藤 俊幸)
 ◆有事の際に孤立
 ソ連時代最大の核保有国だったウクライナが「核兵器を放棄」する代わりに、ウクライナの安全保障は「米国・英国・ロシアが守る」と約束したブダペスト覚書(条約ではない)は、1994年に結ばれた。
 しかし、2014年のロシアによるクリミア併合が起きた際、米・英はロシアの行動を覚書違反と非難したものの、経済制裁を科すことだけにとどめた。
 今回も、米国と北大西洋条約機構(NATO)は、「連携国(パートナー国)」のウクライナに対して「武器や資金は支援するが軍は送らない」と明示した。戦う相手がロシアという核大国であることも、その理由にあるだろう。
 とするならば、これはそのまま、中台紛争にも当てはまる。米国の台湾関係法は、台湾防衛を義務付けておらず、米国にとって台湾は「連携国」にほかならない。条約を結んだ「同盟国」でないと、有事の際に孤立するのだ。
 ◆米世論は軍派遣に否定的
 昨年12月8日、バイデン米大統領は記者団に、本来あいまいにすべきウクライナ国内への米軍派遣について、「検討していない」と早々に断言してしまった。この背景には、バイデン氏の資質問題以上に、米国世論が米軍派遣を望んでいなかったことがある。
 米メディアなどの世論調査(2月18日~21日)によると、「ロシアとウクライナをめぐる情勢について米国はどの程度の役割を果たすべきか」という問いに対し、「比較的小さな役割」が52%、「役割を果たすべきでない」が20%という結果だった。
 つまり、72%の米国人がウクライナへの米軍派遣に賛成していないのだ。
 翻って、米国人にとって「極東(FarEast)」にほかならない台湾や尖閣諸島について、関心がある人は何人いるだろうか。米国には、自由で民主主義であるが故の弱点がある。
 ◆プーチン以上の独裁者
 今回のプーチンによる侵略は、ロシア国民の意思によるものではない(本稿では「プーチン」を敬称略とする)。
 交流サイト(SNS)やデモにより、ロシア国内でも「プーチン非難」が起きていることは読者もご承知の通りだ。国民の意思とは違うところでも、独裁者は国際秩序を無視して戦争できるという現実を突き付けた。
 今回、多くのロシア専門家が「ウクライナ東部への侵攻はあっても、首都キエフを含むウクライナ全土への攻撃はない」と予測したのは、これまでのプーチンの判断が合理的だったからだ。
 「非合理でもやるときはやる」。これが独裁者の本質であるとすれば、中国の習近平国家主席は、プーチン以上に力を持つ独裁者だ。
 残念ながら、合理的な判断ではあり得ないことも、独裁者によって十分起こり得る時代が再び到来してしまった。
 (時事通信社「コメントライナー」より)
 【筆者紹介】
 伊藤 俊幸(いとう・としゆき) 防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院修士課程(地域研究)修了。海上自衛隊で潜水艦はやしお艦長、在米大使館防衛駐在官、第2潜水隊司令、海上幕僚監部情報課長、情報本部情報官、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監などを歴任。2016年より現職。専門はリーダーシップ論、安全保障、国際関係、危機管理など。

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