ウクライナの善戦を支える「ドローン」がロシア軍を次々と撃破する理由とは

東京, 3月25日, /AJMEDIA/

 ロシア・ウクライナ戦争では、軍用・民生用のドローンが活躍し、大きな戦果を出している。トルコ製やウクライナ国産の武装ドローンがロシア軍を次々と撃破しているほか、民生用ドローンが偵察や砲兵観測を担い、果ては宣伝戦まで行っている。

開戦前には低評価だった
 いまウクライナ軍によるロシア軍の兵站破壊でひときわ活躍している武装ドローンTB2。

 この機体は「トルコドリーム」の象徴だ。2005年、MIT修士課程の学生で自動車部品の下請け工場の2代目でしかなかったバイラクタル青年は、トルコ政府に対してドローン技術がゲームチェンジャーだと力説し、多額の投資を引き出すことに成功した。

 そのトルコ政府が全面バックアップするバイカル社が生み出したベストセラー兵器が、2014年に初飛行した武装ドローンTB2だ。TB2は、地上の管制車両から操縦して最大27時間も飛行でき、武装は4発の対地ミサイルや精密誘導爆弾を持つ機体だ。長さは6.5m、翼幅12mとドローンの中では中型に属する。

 この機体は性能もさることながら、トルコ外交の道具として販売や供与され、各地の戦場で高額なロシア製兵器を撃破している。特にアゼルバイジャンとアルメニアの2020年のナゴルノ・カラバフ紛争ではTB2が活躍し、21世紀の電撃戦の担い手となった。一説には陸自1個戦車師団ものアルメニア軍を撃滅し、戦場では飛翔音を聞いただけで逃げ出す兵士まで出たという。

緊急供与により、30~40機程度を展開
 バイカル社はトルコのドローン産業の牽引役となり、バイラクタル青年もこの功によってか、エルドアン大統領の娘と2016年に結婚している。

 ウクライナ軍はTB2の12機購入を2019年に決定していたが、ウクライナ自身が東部での親露派勢力との戦いでTB2が戦果をあげたことや各国でのTB2の活躍を受けて、ライセンス生産も含めて計66機の調達を決定するまでになった。その全機が到着してはいないものの、バイカル社が開戦直前から開戦後に緊急供与を行ったことにより30~40機程度は展開していると思われる。

 実は、開戦前はドローンの下馬評は必ずしも高いものではなかった。

 例えば米シンクタンクFPRIのリサーチディレクターのアーロン・ステインは、「ドローンは地上砲火の影響を受けやすいことが証明されているので、ロシアの安全保障エリートの間では東ヨーロッパでのトルコのドローンの拡散についてほとんど懸念がない。ニアピア紛争ではTB2のようなドローンは生き残れない」と豪語していた。

 日本でも「TB2はロシア軍の前にカモになる」「ロシア正規軍相手には通用しない」「強力な野戦防空の前に無力」などと、ドローンへの無知や実戦の複雑さを無視した根拠で語られていた。

 Forbesのコラムニストであり、ドローンの軍事的価値を高く評価するデビッド・ハンブリングですら「ウクライナはトルコ製の武装ドローンTB2を導入したが、ロシアはドローン対策を進めている上に大量の戦闘機を保有している。その為、ウクライナとロシアはダビデとゴリアテではなく、ゴリアテも投石器を装備している状態だ」と述べていた。

 筆者自身は、ドローンは正規戦でも通用すると繰り返し主張してきたが、それでもこのあたりが妥当なラインだろうと考えていた。つまりドローンは活躍するにしても、あくまでもTB2が中心だと考えていた。

下馬評を覆し、ウクライナ軍の戦略・作戦レベルでの優越の助けとなった
 しかし蓋を開けてみれば、トルコ製武装ドローンだけでなく、ウクライナ製の武装ドローンまでもが戦果を挙げているとされる。おまけにヤマダ電機で売っているような民生ドローンもロシア軍の上空を自由自在に飛んで敵を発見し、攻撃を誘導している。

 ここでTB2の戦果を紹介しよう。高名な軍事情報サイトOryxが公開された動画から集計した数字は次の通りになる。装甲戦闘車両4両、火砲5門、多連装ロケット砲1両、地対空ミサイルシステム10基、指揮所2か所、通信施設1か所、ヘリコプター9機、燃料輸送列車2両、トラックやタンクローリーなど車両24両(いずれも3月23日現在の累計)。

 これはウクライナ軍が公開した、もしくはリークされた映像からの累計であり、実際のTB2による戦果はこれを上回る可能性が高い。一説には6億ドル以上の損害を与えたというのだから、TB2のコスト優位性は確かなものだ。

ドローンが脆弱な兵站を切断
 逆に確実に撃破されたウクライナ軍のTB2は現在1機しかなく、大量撃破したと主張するロシア軍ですら本体である管制車両の撃破は主張していない。

 ここで注目すべきなのは、武装ドローンTB2がロシア軍の防空網に穴を開けながら、トラックやタンクローリー、燃料輸送列車などの兵站線を集中的に攻撃している傾向がみてとれることだ。

 つまり、ドローンが防空網の隙間から地対空ミサイルや電子戦システムを撃破し、その穴をさらに大きくすることで有人戦闘機が飛行し、ドローンがさらに活躍できるようにしている。また、ドローンだからこそ後方の戦線に悠々と侵入し、脆弱な兵站を切断している。イギリスのベン・ウォーレス国防大臣は「ウクライナは無人機を使った非常に巧妙な戦術を実行し、ロシア軍の侵攻を遅らせている」と指摘している。

 これらの戦術は、アゼルバイジャン軍が同じTB2によってアルメニア軍を撃破したナゴルノ・カラバフ紛争でも同様に採用されていたことも信ぴょう性を高める。

現代戦は戦闘の様相を紹介し、優勢をアピールする形が主流に
 また中国のDJI社製を始めとする民生ドローンの活躍も無視できない。ウクライナ国内外から大量に寄付された民生ドローンを使って歩兵部隊や市民がロシア軍を偵察し、砲撃を誘導する砲兵観測までしている。火炎瓶などの爆発物の投下も行っている。

 これらの戦術は中東やウクライナの武装組織が過去に行ってきたが、正規軍同士の戦いで用いられるのは初だろう。

 民生ドローンはロシア軍の市街地への攻撃やその結果も撮影しており、武装ドローンによるロシア軍の撃破映像と合わせてSNSを通じて世界中に公開され、国内にあっては士気を高め、また国際世論に訴えかけてウクライナへの支援を引き出している。現代戦はこうした“映像の力”、特に戦闘の様相を紹介して優勢をアピールする形が主流になりつつある。

 まさにドローンは戦略及び作戦レベルにおけるウクライナの優勢をもたらした「ゲームチェンジャー」なのだ。もしドローンがなければ、ロシア軍の航空優勢掌握をここまで防げなかっただろう。ロシア軍最大の弱点である兵站の細さに致命的な打撃を与えることもできなかった。

 なによりも地上戦ではドローンの有無は決定的な情報格差を生む。ロシア軍を伏撃するウクライナ軍の映像が多数公開されているが、ロシア軍の動きを完璧につかんでいるからこそ可能な技だ。

ドローンが活躍している3つの理由
 では、なぜドローンは戦局に影響を与えるほどに活躍しているのか。

 第1にドローンは捕捉・識別・撃破のいずれも困難だからだ。ドローンは低速かつ小型であるため、在来兵器を対象とするレーダーでは捕捉しにくい。歴戦の打者がチェンジアップを打てないようなものだ。しかも低空で飛行するためにレーダーとドローンの間に山や都市があれば捕捉できない。

 特にTB2は斜め下からのレーダー反射が最低限になるようにデザインされており、地対空ミサイルに対する一定のステルス性もある。TB2の推定RCS(レーダー反射断面積)はもっとも少ない数値で0.3だが、自衛隊も保有しているF15有人戦闘機のそれは25であることを考えれば、その低さが分かる。

 ドローンの音も姿も、ちょっと上空になっただけで紛れてしまい、それが戦闘中ならば上空を警戒する余裕もない。またTB2の公開された動画からは、その多くが夜間に70~200mの超低空で忍び寄っていることが推測され、これも捕捉されにくい一因だろう。

実戦における野戦防空能力の限界
 しかも仮に捕捉ができたとしても、それがどこのドローンかを識別することも難しい。さらには、識別できたとしても撃破することは難しい。ロシア軍はTB2を撃墜したと繰り返し報じているが、信頼できる証拠は少ない。

 また民生ドローンはさらに小型低速なので捕捉は難しく、仮にミサイルで狙えたとしても発射した時点で大赤字だ。

 第2に実戦における野戦防空能力には限界があるからだ。今回、TB2を捕捉することも可能だとの前評判だった最新の高価な地対空ミサイルが次々と撃破されている。その映像の多くは、陣地転換中などで稼働していないところを狙い撃ちにされている。

 これはリビアでもナゴルノ・カラバフ紛争でもTB2の常套戦術だったが、地上や空中から地対空ミサイルを監視して、次の展開場所への移動時、あるいは整備、休憩、燃料補給などのためにレーダーを停止した瞬間にドローンが忍び寄って撃破するのだ。ドローンは疲れもせず、撃墜されても安いうえに無人なので問題はない。

ウクライナ軍とトルコ軍の軍事的芸術
 しかも実戦では戦況に応じて部隊が分散するために、必然的にすべてのエリアをカバーすることはできない。機甲部隊であればしょっちゅう移動するが、野戦防空システムは移動中には使えないか、使えるタイプでも性能は低下する。だからといって、複数のシステムを動かしながら進撃する方法を採用すれば極端に移動速度は低下する。そもそも電子戦装備も地対空ミサイルも非常に高価であるため、全部隊が24時間稼働させられる数をそろえることは困難だ。

 この構造的な隙を巧みに見つけ出し、そこに侵入しているというわけだ。ウクライナ軍とそれを教育したトルコ軍の軍事的芸術だ。

 第3に、すでにドローンによる電子戦への対抗技術が確立しているからだ。先のナゴルノ・カラバフ紛争では、アルメニア軍はロシア製Avtobaza電子戦システムでTB2を乗っ取ろうとした。このシステムは、かつてイランが米軍の偵察ドローンの捕獲に成功したものと同じタイプだが、TB2側は即座に察知・反撃し、Avtobazaは撃破された。

 また米軍の武装ドローンのMQ-9リーパーは、昨年春に敵の電子戦に新装備で対抗する実験に成功している。これはドローンを大国間戦争でも十分に活躍できるようにする目的で行われたが、仕組みとしてはAIが電波信号のパターンを読んでそれに対してカウンタリングしていくというものだ。電子戦で乗っ取りができるなら、当然ながらそれを探知し、対抗するシステムはいくらでも作れる。そもそもすべての周波数で電波妨害することはできないし、できたとしても自らも盲目な状態になるだけなので限界があるということだ。

ドローンの活躍はどのような意味を持つのか
 それでは、このようなドローンの活躍はどのような意味を持つのか。

 今回の戦争は、ドローンの使用を前提とした(相互にドローンを実装し、その対策を進めてきた)軍同士が激突した初めての戦争だ。特にロシア軍は2018年に全軍に対ドローン戦術の訓練を開始するよう命じ、米軍を超える野戦防空網を持つとされてきた。にもかかわらず、ウクライナ側は軍用ドローンだけでなく、民生ドローンまで自由自在に跳梁跋扈させ、ロシア軍に多大な出血を強要している。

 つまり、ドローンは、戦車や戦闘機や潜水艦と同じく今後の戦争に欠くべからざる兵器システムだということが証明された。

 もう一つは、今回の戦争においてドローンは低空域を中心に活躍しているが、ドローンが飛翔する高度1000m以下の「空地中間領域(InDAG:The intermediate domain of the Air and Ground)」が新たな戦闘ドメインになったということだ。

 この地上と空中の中間にある「中途半端な空間」は、これまで恒常的に軍事利用されてこなかった。そのため、この戦闘空間の存在を前提にしていない兵器群が次々と撃破されているのだ。

ドローン対策の遅れた自衛隊は、新時代の戦闘に耐えられない
 最後に、今回の戦争は多くの戦訓を日本に提供するが、ドローンもまた例外ではない。ドローンがあれば勝利できるわけではないが、もはやドローンなくして勝利はない。ドローンを軽んじ、いまだに武装ドローンも自爆ドローンも保有せず、研究も対策もない自衛隊は新時代の戦闘には耐えられない。このままではドローン大国の中国に必敗するだろう。

 少なくともロシア軍よりもドローン対策が遅れ、ミサイル弾薬も少なく、訓練も研究もなく、はるかに兵站の脆弱な自衛隊が、中国軍のようなドローン前提軍と対峙すれば、生身の自衛官やそれが搭乗する兵器、そして兵站がドローンに一方的に殲滅される悲惨な結果になりかねない。

 認知領域における戦いでも、中国軍は映像メディアとしてのドローンの使い方に秀でており、有事の際には自衛隊を撃破する映像等を投稿して“善戦”と“正当性”を印象付けようとし、それはかなりの効果を発揮してしまうだろう。

 期せずして、今年は国家安全保障戦略と防衛大綱の改定が予定されており、これは自衛隊を脱皮させる最後のチャンスだ。これを逃せば5年後まで本格的なドローンの導入・技術産業戦略・ドクトリンの策定は遅れ、ますます自衛隊は時代遅れの武装集団に堕していく。

 もう残された時間はない。

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