東京, 3月13日, /AJMEDIA/
日本人宇宙飛行士の大西卓哉さんが乗った宇宙船は日本時間の13日午前、国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられる予定でしたが、地上側の機器の一部に不具合が見つかったため、打ち上げは延期になりました。
宇宙飛行士の大西卓哉さんが乗った民間の宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げは当初、日本時間の13日午前9時前に予定され、最終的な準備が進められていましたが、打ち上げまであと40分余りとなったところで延期されました。
NASAによりますと、地上側で機体を支える機器の一部に不具合が見つかったということで、NASAは宇宙船やロケットを担当するアメリカの企業「スペースX」とともに詳しい調査を進めています。
これを受けて、大西さんら4人の宇宙飛行士はいったん宇宙船から降り、待機場所の建物まで戻りました。
NASAは次の打ち上げの機会は、早くても日本時間の15日以降になるとしています。
今回の打ち上げで大西さんは、アメリカ人とロシア人の宇宙飛行士とともに国際宇宙ステーションに向かい、およそ半年間の滞在中、船長に就任する予定で、安全確保や任務達成に向けた重要な役割を担うことになっています。
将来の月面探査を見据えた実証実験を実施
大西卓哉さんは、宇宙での長期滞在の期間中、将来の月面探査を見据えた実証実験などを行います。
JAXA=宇宙航空研究開発機構が開発した二酸化炭素除去システムの実証実験では、ことしの6月ごろ国際宇宙ステーションに届く実験装置を大西さんが組み立て、日本の実験棟「きぼう」に取り付ける予定です。
この装置は国際宇宙ステーション内の空気を取り込み、二酸化炭素だけを特殊な吸収剤に吸着させて、再びステーション内に戻す仕組みで、1日稼働させることで宇宙飛行士1人分の二酸化炭素を除去できます。
特殊な吸収剤は、JAXAと京都府木津川市に本部がある地球環境産業技術研究機構が共同開発したもので、ことし1月には、大西さんが研究施設を訪れ、吸収剤の特徴などについて担当者から説明を受けました。
この吸収剤は複数の小さな穴をあけた「多孔質」と呼ばれる素材で出来ていて、素材にしみこませた化合物が二酸化炭素を吸着します。
さらに、吸収剤をおよそ50度に加熱することで二酸化炭素を取り出して宇宙空間に排出することができます。
国際宇宙ステーションでは現在、アメリカやロシアが開発した二酸化炭素除去システムが使われていますが、吸収剤をおよそ250度まで加熱する必要があることから、より低い温度で使える日本の吸収剤は安全で省電力化にもつながる技術として注目されています。
今回の実証実験では、装置をおよそ3か月間稼働させて宇宙での動作を確認するほか、最も効率よく二酸化炭素を除去する条件を調べる予定です。
また、将来的には、月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」や、JAXAがトヨタ自動車などと開発する有人月面探査車にも利用される計画だということです。
装置の開発を担当したJAXAの伊妻ディラン駿研究開発員は「今後、宇宙探査活動がどんどん活発になり日本が独自の月面基地を持つとなった時に、自分の国で生命維持技術を持っておく必要があり、今回の実証はそこに向けた第一歩だ。開発チームが地上で見守っているので、大西さんは自信を持って装置を取り付けてほしい」と話していました。
大西卓哉さんとは
大西卓哉さんは東京出身の49歳。
神奈川県にある中高一貫校を卒業したあと、東京大学工学部の航空宇宙工学科に進み、学生時代は人力の飛行機で空を飛ぶことを目指す「鳥人間コンテスト」に参加しました。
大学を卒業後の1998年に全日空に入社してボーイング767型機の副操縦士として活躍しましたが、宇宙飛行士になりたいという夢をかなえるため、2008年に募集が始まった宇宙飛行士選抜試験に挑戦。
およそ1000人の応募者の中から選ばれ、2年にわたる訓練を経て2011年に宇宙飛行士に認定されました。
2016年には、初めての宇宙飛行に臨み、国際宇宙ステーションに110日余り滞在して科学実験などを行ったほか、2020年からは宇宙飛行士を地上側で支えるJAXAのフライトディレクタとして、日本の実験棟「きぼう」の運用なども行ってきました。
今回は自身、2度目となる国際宇宙ステーションの長期滞在ミッションで、滞在期間中に日本人宇宙飛行士としては3人目となる船長に就任することも予定されています。
去年のNHKのインタビューでは「今回の長期滞在中に船外活動の経験を積みたい」と抱負を語っていました。
「クルードラゴン」とは
「クルードラゴン」はアメリカの民間企業、「スペースX」の宇宙船です。
全長8メートル余り、直径4メートルで、飛行士が乗り込む「カプセル」と機器や貨物が搭載されている「トランク」で構成されています。
カプセルには最大で7人乗ることができますが、通常は4人の飛行士が搭乗します。
打ち上げやドッキングは基本的に自動で行われ、搭乗者は3つのタッチパネルで状況をモニターします。
「エンデュランス」と名付けられている今回のカプセルは、過去に若田光一さんや古川聡さんも搭乗した機体で、その後、再使用するための整備が行われ、今回が4回目の打ち上げになります。
「ファルコン9」とは
「クルードラゴン」を打ち上げるのは、アメリカの民間企業、「スペースX」が開発した、「ファルコン9」ロケットです。
全長70メートル、直径3.7メートルの2段式のロケットで、燃料には灯油の一種であるケロシンを使い、液体酸素とともに燃焼させます。
打ち上げ後に切り離した1段目を着地点に誘導して回収し再使用できるのが特徴で、繰り返し使用することで打ち上げ1回あたりの費用を削減しています。
「ファルコン9」は2010年以降、これまでに400回以上打ち上げられていて、このうち、宇宙飛行士や民間人を乗せた有人宇宙船の打ち上げにはすべて成功しています。
無人の輸送船や人工衛星を載せたロケットの失敗は過去に3回あり、去年(2024)7月には、ロケットの2段目から液体酸素が漏れる異常が起きて、およそ8年ぶりに失敗しています。
3人の宇宙飛行士が一緒に搭乗
今回打ち上げられる「クルードラゴン」には、大西卓哉さんのほかに、2人のアメリカ人宇宙飛行士と、1人のロシア人宇宙飛行士が搭乗します。
アメリカ人の1人はアン・マクレイン飛行士。
2013年に宇宙飛行士に選抜され、2018年から翌年にかけて国際宇宙ステーションに滞在し、船外活動も経験しています。
もう1人はニコル・エアーズ飛行士。
2021年に宇宙飛行士に選抜され、今回が初めての宇宙飛行となります。
ロシア人のキリル・ペスコフ飛行士は、2018年に宇宙飛行士に選抜され、今回が初めての宇宙飛行となります。