東京, 6月25日 /AJMEDIA/
サムスンは、同社で最も重要な製品に人工知能(AI)を組み込むプロジェクトの一環として、大規模言語モデル(LLM)をベースとした新しいデジタルヘルスコーチング機能をテストしている。GoogleやAppleが独自のヘルストラッカーやデジタルアシスタントを進化させる中で、サムスンのそうした動きはライバルをかわすための取り組みとみなすこともできる。
この件に詳しい情報筋(計画が非公開であるため匿名を希望した)によると、本取り組みは、LLMを使用して、ユーザーのヘルスデータを解釈し、分析情報を提供するものだという。サムスンのある幹部は2024年、デジタルウェルネスコーチや、LLMを使ってヘルスデータを理解することへの一般的な関心について公の場で語ったものの、このテクノロジーを利用した新製品や新機能について、まだ詳しいことは明かされていない。
本件について、サムスンからコメントは得られなかった。このプロジェクトの現状、そして、一般発売される製品にどのような形で搭載されるのか、そもそも搭載される可能性はあるのか、といったことは不明である。
全世界での出荷台数ベースで世界最大のスマートフォンメーカーであるサムスンは、同社幹部が言うところの「次世代モバイルコンピューティング」への移行を推進する取り組みの一環として、「Galaxy」のスマートフォンやノートPC、スマートウォッチにAI機能を追加してきた。サムスンのプロジェクトは、GoogleやAppleによる同様の取り組みとともに、ヘルストラッキングがAIによるアップグレードに適した次の開拓分野であることを示唆している。業界全体がAIに注目するのと時を同じくして、サムスンも装着者の指から健康指標を受動的に測定できるヘルストラッカーの「Galaxy Ring」を2024年初めに披露している。
米CNETが1月に行ったインタビューで、ヘルスデータに特化したチャットボットやバーチャルアシスタントの開発は考えていないのか尋ねたところ、サムスン電子のバイスプレジデントで、モバイルエクスペリエンス事業のデジタルヘルスチームを率いるHon Pak氏、はその可能性を否定しなかった。
同氏は、健康関連データの状況を見て理解するのを支援し、解決策に導くためのデジタルシステムの「コンセプト」が「必要になるだろう」と語ったが、具体的な計画は明かさなかった。
「どのようなフォームファクターにするかはまだ決めていない。それは人によって違うかもしれない。音声だけでいいという人もいれば、テレビに映像を映したい人もいる」(同氏)
Pak氏は2月に行った米CNBCとのインタビューでも、サムスンの未来には「デジタルアシスタントコーチ」があると語っている。
サムスンは次回の「Unpacked」イベントで、ヘルスとウェアラブルに対するビジョンについて、さらに詳しい情報を発表する見通しだ。ブログ「Sam Mobile」と韓国の新聞である朝鮮日報によると、次のUnpackedは現地時間7月10日に開催予定だという。サムスンは通常、夏のUnpackedイベントで新しいスマートウォッチと折りたたみ式スマートフォンを発表する。2024年もその慣例が踏襲された場合、「Galaxy Watch」の新バージョンとともに、Galaxy Ringも正式に発表されるとみられている。
サムスンのヘルスコーチプロジェクト
サムスンの動向に詳しい情報筋によると、サムスンがヘルスアシスタントプロジェクトで目指しているのは、LLMを使用して洞察を引き出すことによって、ユーザーのヘルスデータに関するより深い分析情報を提供することだという。例えば、エクササイズの後によく眠れるかどうかなど、ユーザーの睡眠パターンを観察することも、それに含まれるかもしれない。
サムスンが現在取り組んでいるかもしれないプロジェクトを示唆するさまざまなヒントが、Hazel Zhang氏のウェブサイトに掲載された。Zhang氏のLinkedInページによると、同氏は以前、サムスンのインタラクションデザイナーとして働いていたそうだ。同氏のウェブサイトには、「Thrive」と呼ばれる会話型のヘルスおよびウェルネスコーチの提案もあるが、これは、サムスンが作家で起業家のArianna Huffington氏とのコラボレーションの一環として、2018年に発表したアプリの「THRIVE」とは別物であるようだ。
古い方のアプリは、人々がスマートフォンから離れられるようにすることを目的としていた。Zhang氏のウェブサイトで説明されていたプロジェクトには、ユーザーのヘルスデータに関する質問に答える機能が関係している。
米CNETからZhang氏に連絡を取ったところ、同氏のウェブサイトでプロジェクトの詳細が掲載されていたページがパスワードで保護されてしまった。本稿執筆時点では、当該のページは一般に公開されていた。
Zhang氏のウェブサイトにあった情報(なお、米CNETでアーカイブ済みである)は、見たところ何カ月か前の提案のようで、このプロジェクトが続いているとしても、サムスンの計画を反映していない可能性がある。本件についてのコメントをZhang氏に求めたが、回答は得られなかった。
ウェブサイトの画像では、AIアシスタントがユーザーのさまざまな質問(例えば、「昨日の睡眠はどうだった?」)に答えたり、十分な睡眠がとれなかったユーザーに、AIアシスタントの方から体調を尋ねたりしていた。ほかにも、AIアシスタントが、ユーザーの習慣に基づいて、睡眠を妨げている可能性のある要因(例えば、就寝前にSNSを利用している)を提示している画像があった。
Zhang氏のウェブサイトで触れられていたヘルス関連の分析情報の例はほかにもあり、就寝前にSNSを閲覧するとストレスレベルが高くなる可能性があるとの指摘や、部屋が涼しいと睡眠パターンがより落ち着いているという観察結果などが挙げられていた。
Zhang氏のウェブサイト、そして、サムスンの動向に詳しい情報筋の1人によると、サムスンはプロジェクトの一環として、特に高齢者を対象としたユースケースもテストしているという。
2人の情報筋とZhang氏のウェブサイトによると、サムスンは2023年から2024年初頭にかけてLLMを活用したヘルスプロジェクトに取り組んでいたという。このプロジェクトはまだ初期段階のようであり、たとえ進展したとしても、2024年にはリリースされない可能性が高いそうだ。
しかし、米CNETがつかんだ情報では、サムスンはすでに発表済みで、2024年中にリリースされる予定の別のヘルスツール「Energy Score」でLLMを使用する可能性がありそうだ。Energy Scoreは平均睡眠時間や睡眠時間の規則性、前日の活動量、心拍数の変動などの指標を分析して、ユーザーの現在の体調を判断する。この機能に関するサムスンのプレスリリースでは、オンデバイスAIと「Samsung Health」アプリを組み合わせることに触れているが、LLMの使用についての具体的な言及はない。
プレスリリースには、「サムスンはこれまでで最もカスタマイズができ、確実な健康体験の実現を目指しています」と書かれている。
こうした情報は、Pak氏が少し前に行った米CNETとCNBCとのインタビューで示唆したアプローチとも一致している。1月に行った米CNETとのインタビューで、同氏はサムスンが介護者を支援する方法を見つけることに関心を持っていることについて語った。また、ヘルスチャットボットの可能性について尋ねられたとき、サムスンはさまざまな選択肢をテストしており、別の「ヒューマンコンピューターインターフェース」について、提携することもあるかもしれない、と同氏は述べた。
「デジタルアシスタントがアバターからチャットボットに大きく様変わりしたように、デジタルチャットボットと比較するとビジュアルデザインが大きくガラっと変わるかもしれない」(同氏)
CNBCとのインタビューで、Pak氏は、医療記録やモバイルデバイスの使用状況など、さまざまな種類のデータを処理して「より深い分析情報を提供する」うえでのLLMの有用性について語った。
AIはヘルストラッカーでより大きな役割を果たしている
サムスンのアプローチは、2023年に発表されたGoogleの「Fitbit Labs」プログラムに似ているように思える。Fitbitユーザーは、ランニング後の疲労感がいつもより大きいのはなぜかというような質問をして、Fitbitに過去のランニングとの違いを探させることができるようになる。Googleは3月、パーソナルヘルス向けに設計されたLLMを開発していることを発表した。このLLMは、同社のAIモデル「Gemini」をベースとしており、Fitbitなどのデータを分析するという。