東京, 4月17日, /AJMEDIA
2022年もプロ野球のシーズンがスタート。早くも球史に残るような偉業が達成されるなど大きな盛り上がりを見せている。そんな中で1つのスタジアムに大きな変化が起きているのをご存知だろうか。それは阪神タイガースが本拠地とする阪神甲子園球場だ。
阪神甲子園球場は1924年(大正13年)に開場した歴史のある球場。1956年(昭和31年)にナイター照明が導入され、同年よりプロ野球の試合で使用されている。ナイター照明は、オレンジがかった白熱電球により明るく青白い光を発する水銀灯を加えた「カクテル光線」が主流。これも阪神甲子園球場が初めて生み出し、多くのスポーツ施設に導入された。
1974年に光源は演色性を重視したメタルハイライド灯と高圧ナトリウム灯に変更されたが、その後長くその照明が使われてきた。その阪神甲子園球場の照明塔が2022年3月、LEDに交換されたのだ。
756台のLED照明で伝統の「カクテル光線」を再現
阪神電気鉄道は甲子園球場の全照明をパナソニックが開発した最新鋭のLED照明に交換した。2050K(ケルビン)の橙色のLED照明208台と、5070Kの白色LED照明548台の計756台を組み合わせて設置することで、これまで同様の白とオレンジ色が混ざったカクテル光線による照明を再現するとともに、プレーに応じた文字や図柄の描画による演出機能を採用し、エンターテイメント性を高めている。
実は甲子園球場では2007年に内野席の大幅な改修や、銀傘の架替えが実施され、6基の照明塔も建て替えが行われている。しかし、その時は LED化は見送られているのだ。
「当時の技術水準では大出力のLED照明が実現できず、また、カクテル照明に必要なオレンジ色の光を出すことができなかったので見送った。そして今回、パナソニックの協力により、ようやく竣工できた」(阪神電気鉄道 スポーツエンターテイメント事業本部甲子園事業部の赤楚勝司氏)
阪神甲子園球場では2021年12月に“廃棄物発生の抑制とリサイクルの推進”、”CO2排出量の削減”、“再生エネルギー等の活用”を3つの柱にした環境保全プロジェクト「KOSHIEN ”eco” Challenge」を宣言している。
これは2024年に誕生100年を迎える甲子園球場が、次の100年に向けて愛される球場であり続けるための活動の一環。今回のナイター照明のLED化もこのプロジェクトの中の一つだ。阪神甲子園球場によると、照明塔のHID照明をLED照明に切り替えることでCO2を約60%削減できるとしている。
LED照明の特性を生かした瞬時点灯・消灯で演出
さらに、LED照明は従来のHID照明と異なり、瞬時の点灯と消灯ができる。この特性を生かすため、阪神甲子園球場では、舞台演出などにも用いられるDMX制御のシステムを導入。球場内の照明756台を1台1台個別に制御することができ、照明と音響、各ビジョンの図柄の描写などをまとめて管理することで、ホームランやラッキー7、勝利後の六甲おろしの音楽に合わせて、さまざまな照明演出ができるようになった。
「球場全体の一体感を醸成していた大きな声で、キングマーチを歌う姿やジェット風船を一緒に飛ばす演出は、現在できない。そこで皆様が一緒になって楽しんでいただくために、2022年からメインビジョンの映像と照明を同調させる演出を用意した。阪神甲子園球場だからこそできる、新しいオールインワンの演出を繰り広げて行きたいと思っている」(赤楚氏)
実際に球場に降りて、新たに設置したLED照明の明かりを体感するとともに、ホームランや六甲おろしなどの新しい演出も見せてもらった。音楽に合わせて照明が素早く点滅を繰り返したり、タイガースマークや虎模様などのさまざまな絵柄を表示。球場が一体化する新しいスタイルの盛り上がり方が楽しめた。
このときは報道陣向けの公開だったため、演出のみを見たが、球場全体に観客が入っている状況を考えると、より激しく盛り上がれそうだと感じた。また、橙色の光が混じっていることで、光に温かみが感じられたのも阪神甲子園球場ならではだ。
パナソニックエレクトリックワークス社で、阪神甲子園球場のLED照明導入を担当した石崎浩暁氏は「提案の鍵となるのは歴史と伝統の継承と、ファンサービスの向上だった」と語る。