東京, 1月10日, /AJMEDIA/
2021年シーズン、アルファタウリからF1デビューを果たした角田裕毅。デビュー戦のバーレーンGPでは順調なペースで次々にライバルのマシンを抜き、初戦から9位フィニッシュを達成。その後は一転して順応に苦しむ展開が続いたが、厳しい時期を乗り越えるうえで恩師の存在が大きかったと語っている。
開幕戦でいきなり結果を残した角田。だが第2戦エミリア・ロマーニャGPでは公式セッション中にクラッシュを起こし、マシンに大きなダメージを負う。それ以降は結果が伴わず、フラストレーションを溜める状況が散見された。
第4戦スペインGPの予選ではQ1敗退が決まった直後、チーム無線で「このマシンは信用できない!」と口にした。アゼルバイジャンGPの決勝ではチームからプッシュの指示に「やっているよ!黙っていて!」と感情的になる場面も。第7戦フランスGPでは、予選Q1の立ち上がりでいきなりクラッシュ。マシンを壊して早々に最後尾スタートが確定するなど、悪い流れが続いた。
角田本人は「チームとうまくいっていなかった」と前半戦の状況について証言している。『DAZN』の『THE BIRTH OF AN F1 DRIVER』で語った。
「クラッシュして自分のメンタル面で、セッションに向かっていく姿勢、考え方が違う方向にいってしまって。毎回頭の中で“クラッシュしてはいけない”という意識が大きくなってしまった」
「調整もなかなかできないし、クルマを100パーセントコントロールできる感触も得られずにいた」
そんな中でもアルファタウリのフランツ・トスト代表は、ルーキーの日本人ドライバーを信じ続けたと述べている。
「ドライバーは大きなアクシデントを繰り返すと自信を失っていくものだ。それは当然のことだよ。ただ、そこでチームがドライバーにプレッシャーを与えるようなことがあってはいけない」
「いちばん大事なことは、トラック上で少しでも多くの周回を重ね、マシンに慣れること。一つの結果だけで、すぐさま何かを判断すべきではないということだ」
角田をそばで見守り続けた一人である、アルファタウリの本村由希スポンサー担当マネージャーは「フランツはすごく人を見ているんです。それこそ(士気が)落ちたりしたら、フランツがちゃんとフォローしている。彼はルーキーを育てるプロなので。全部お見通しだと思いますよ」と発言。チーム代表の手腕に信頼を寄せた。
角田本人もトスト代表について「いつもそばにいて見てくれて。先生というか、フランツさんもいろんなドライバーを経験していますし。僕みたいな歳のドライバーをいっぱい見てきているので、その経験をシェアしてくれる」と語っている。
シーズン中盤の2021年8月、角田はそれまでの拠点だったイギリスから、アルファタウリのお膝元であるイタリア・ファエンツァへと移住した。この決断は、トスト代表の提案が大きな要因だったと明かされている。
トスト代表は「若いドライバーはやはり多くのことを学ぶ必要がある。現代のフォーミュラカーは常に絶え間なく進化しているものだからね。エンジニアと過ごす時間が長いほど効率の良い成長ができるし、そこで得たテクニカルな知識をレースにフィードバックできる」と口にした。
「ユウキの未来は自身の手に懸かっている。このまま努力を続ければ、輝かしい未来が待っているはずだ」
角田の担当エンジニア、マッティア・スピニ氏も「シーズン序盤は本当に苦労した」と日本人ドライバーとの共闘について振り返っている。
「言葉や技術など多くの面で、チームとユウキの意思疎通がうまくいってなかったんです。レースを共に戦っていくうちに互いを理解するようになり、良い関係へと変わっていった」
序盤戦こそ一度は低迷した角田。ポイント奪取を逃すレースが続いたものの、シーズン途中から予選でもQ3に進む頻度が上がり、決勝でも良いレースペースで周回するなど、明確に順応性を示す。それと同時に、チーム無線で攻撃的な言葉を用いるシーンもほとんどなくなっていた。
アルファタウリは前身のトロ・ロッソ時代からセバスチャン・ベッテル、マックス・フェルスタッペン、ピエール・ガスリーと優れた若手ドライバーを育て上げてきたレッドブルグループのレーシングチーム。それだけにトスト代表率いるアルファタウリでF1キャリアをスタートさせたことは、角田にとって最良の環境だったと言えるのかもしれない。
21歳の若手ドライバーが見せた確かな成長の陰には、チームスタッフとの信頼関係構築があった模様だ。一方で同チームは将来性がないと判断されるとシーズン途中でも契約解除される厳しい側面もあるため、2シーズン目の角田にはさらなる躍進が期待される。