東京, 9月23日 /AJMEDIA/
常に新たな笑いを追求するテレビプロデューサー・佐久間宣行さん。
『トークサバイバー』『ゴッドタン』など、数多くのお笑い芸人たちと話題のコンテンツを生み出してきました。20年来のつきあいだというお笑い芸人も「人のいい部分を引き出すのがうまい感じがしますね」と語る、“出演者の魅力を引き出す演出”のルーツは、佐久間さんが生まれた福島にありました。エンターテインメント界をけん引する佐久間宣行さんの制作の原点に迫ります。
佐久間さんの仕事のポリシーを見聞きしていくなかで「自分の仕事で芸人さんたちの人生をスベらせたくない」ってすごく印象に残っていて。その心っていうのは?
(佐久間さん)
本当のおもしろさが伝わっていない芸人さんとかをたくさん見てるんですよ。この20年のうちに。その人たちが1人でもいいから売れてくれたほうが僕の人生は楽しいなって思います。彼らが活躍する姿を見たいっていうのがいちばんで。僕がディレクターとしてやっていられるうちは、できるだけそういう人たちを「おもしろいですよ」って世の中にどんどん出すというのをやりたいなと。だから一期一会でスベらせたくないなって思うんですよね。
(吾妻)
でも何がヒットのきっかけになるかっていうのは分からないわけでしょう。
(佐久間さん)
正直分からないです。考えて考えて、この人のおもしろさは、この部分を切り取ったらたとえば配信だと見てもらえるんじゃないかとか、地上波だとここまでだったら彼のおもしろさは新しく見えるんじゃないかとかって考えるけど、最終的には現場で起きることなんで。
(吾妻)
「佐久間さんは自分も気付かなかった良さを引き出してくれる天才だ」っておっしゃる出演者も多いというのはなんででしょうね。
(佐久間さん)
僕自身が福島県いわき市でエンタメに憧れて東京を見ていて、自分の足りないところばかりを見ていた人間だったんです。もともとはネガティブでクリエーターになれると思っていなかったし。なんか今風のことばで言うと“陰キャ”だったかもしれない。そういう人間にしか見つけられない、人の隠された魅力っていうのはたぶんあるんだと思うんですよね。
(佐久間さん)
集中するっていうことと、自分の弱い部分と向き合うってことの大事さが剣道で分かったんで、いまだに剣道には感謝しているんですけど…。なにせ得意じゃなかったんで、情けなかったですね。
(吾妻)
情けなかった?
(佐久間さん)
僕、人のことをたたけなかったんです。気持ちいいとは思えなかった。剣道って、気持ちよく1本取れないと結構痛いんです。「うわあ、ごめん」って思っちゃって次にいけないみたいな性格だったのを、やってから気付いたんですよね。大会には4年生ぐらいから出たんですけど、それで「はっ…ダメだ」って気付いたんですよ。こんなに一生懸命やって好きなのに、全然勝てないって気付いて、それがもしかしたらいちばん最初のすごい挫折かもしれないですね。
(吾妻)
挫折になるんですか?
(佐久間さん)
こんなに時間かけて頑張ってきたはずなのに得意じゃないんだっていうのに気付いたのはやっぱりショックでした。
そのときに、人と勝ち負けがつくもので争うことがあんまり得意じゃないって思ったんですよ。自分が勝つってことは誰かが負けることだから。それが得意じゃない。もしかしたら社会的にもう負けたって言われた人とか、なかなか復帰ができない人に、なぜか僕は興味があるというか。その人のおもしろいところを引き出したくなるんですよね。それの原点も、たぶん勝ち負けが得意じゃないって剣道場で気付いたことかなと思いますね。果たして勝ち負けって、もうついてますかねって思う。
だから、少なくとも僕だけはその人をおもしろがったりしようとか、あとは売れてなくて「もうこのキャリア終わりかな」と思ってる人を、俺は「そんなことないと思うな」っていうことにモチベーションを感じるようになった。それは、もともと自分は勝ち負けが得意じゃなかったからだと思いますね。勝ち負けじゃない世界って何だろうなって思ったときに、おもしろいものでみんながゲラゲラ笑ってるもののほうがすごく幸せだなと思って。それでエンタメの世界にどんどん入っていったんです。
人を幸せにするエンタメの世界。中学・高校時代は休日に何時間も書店に入り浸るなど、エンタメによりひかれていったと振り返ります。
(佐久間さん)
思春期の時は書店に入るたびに宝石箱の中に飛び込んでいる感じがしました。だから、どれを読んでもおもしろい。知らないものがこんなにある。うわーっと思いながらうろうろ歩いて、知らない漫画家さんの本を開けるんですけど、それで「うわ、おもしろい」「おもしろ」って声出して笑っちゃったりしていました。
(吾妻)
読んでいて「えっ、思ってたのと違う」ということはなかったんですか。
(佐久間さん)
感じたことないですね。どんなものでもおもしろいって思えていたのかな。それか、自分の失敗を認めないかのどっちかですけど(笑)。でも、本当にぜんぶおもしろかったという記憶がありますね。