京アニ放火殺人事件 きょう青葉真司被告に判決 責任能力が争点

東京, 01月25 /AJMEDIA/

5年前、「京都アニメーション」のスタジオが放火され、社員36人が死亡、32人が重軽傷を負った事件で、殺人や放火などの罪に問われている青葉真司被告に25日、判決が言い渡されます。

検察が死刑を求刑したのに対し、弁護側は精神障害により責任能力はなかったと無罪を主張していて、裁判所がどう判断するかが焦点です。
青葉真司被告(45)は、2019年7月、京都市伏見区にある「京都アニメーション」の第1スタジオに火をつけ、社員36人を殺害し、32人に重軽傷を負わせたなどとして殺人や放火などの罪に問われています。

殺人事件としては記録が残る平成以降、最も多くの犠牲者を出したこの事件の裁判員裁判は、去年9月から22回にわたって審理が行われ、被告に事件当時、物事の善悪を判断する責任能力があったかどうかが最大の争点となりました。

検察は「京アニに作品を盗用されたという妄想が動機の形成に影響したが、限定的だ」などとして、被告には完全な責任能力があったと主張し死刑を求刑しています。

一方、弁護側は「被告は妄想の中で生き、妄想の中で今回の事件を起こしていた」などとして、重い精神障害により責任能力はなかったと無罪を主張しています。

判決は、京都地方裁判所で25日午前10時半から言い渡される予定で、裁判所が責任能力や刑の重さについてどう判断するかが焦点です。

《裁判の争点は》
青葉被告は起訴された内容を認め、事実関係に大きな争いはありません。

最大の争点は事件当時、被告に責任能力があったかどうかで、検察と被告の弁護士の主張が対立しました。

検察の主張
検察は、被告は妄想性パーソナリティー障害か妄想性障害があるものの、影響は限定的だったとしました。

そのうえで「症状として妄想があったが、妄想に支配された犯行ではなく、不満をためて攻撃するなどの被告のパーソナリティーによるもので、責任能力が著しく減退していたとは到底言えない」と主張しています。

また、事件の前の状況として「被告は放火殺人は重大犯罪とわかっており、思いとどまることが期待できる状態だった。下見や道具の準備までの判断も含め、首尾一貫して妄想の影響はない」と主張しました。

そして、被告の精神鑑定を行った医師2人がいずれも「犯行が犯罪にあたると理解できていた」という見解で一致しているとしたうえで、「被告には犯行当時、よいことと悪いことを区別する能力があり、刑事責任を追及されることも考慮に入れて行動できていた」と指摘し、完全な責任能力があったと主張しました。

そのうえで、「京アニに筋違いの恨みを持った復しゅうで、日本刑事裁判史上、突出して多い被害者の人数と言える。遺族や被害者の苦しみや悲しみはあまりに深く処罰感情もしゅん烈だ」として死刑を求刑しました。

弁護側の主張
一方、被告の弁護士は「被告は重度の妄想性障害だった」として、責任能力はないと主張しました。

その理由について「検察の依頼で行われた精神鑑定については、被告の精神世界や現実を大きく支配している『闇の組織のナンバー2』の妄想が抜け落ちている」としています。

そのうえで、「被告が事件の4か月前にスマートフォンを解約したというのはとても重大。『ナンバー2』からスマートフォンを操られたと考えたためで、インターネットが現実世界との大きな接点だったが、それを解約するというのは妄想が影響していたという何よりの証拠だ」と主張しました。

そして、「被告は10年以上、訂正不能の妄想の世界で翻弄され、苦しみ続けてきた。自分がやろうとしていることがやってはいけないことと認識し思いとどまる力がなかった」と主張し、▽心神喪失で責任能力はなかったとして無罪か、▽心神耗弱の状態で責任能力が十分ではなかったとして刑を軽くするよう求めました。

《判決を前に 遺族は》
武本康弘監督の母親「息子のために見届けたい」
亡くなった京都アニメーションの人気監督だった武本康弘さん(当時47)の母親の千惠子さん(75)は判決を前に、「裁判では『小説を盗まれた』という主張が根底にあることが分かり、本当に『悪かった』という気持ちがあるのか疑問です。厳しい判決になった場合、『盗まれた』という被害者意識がある中で、本人が納得するかどうかが気になります。どういう判決であってもこれで終わりにしてほしいという思いです」と話していました。

千惠子さんは夫とともに、判決当日、この裁判を初めて傍聴することにしていて、「これまでの裁判には一度も行けなかったので、最後ぐらいは息子のためにも見届けたいです」と話していました。

石田奈央美さんの母親「重い判決でも娘は帰ってこない」
京都アニメーションで色彩設計を担当していたアニメーターの石田奈央美さん(当時49)を亡くした母親は、判決を前に「以前は被告について特別何か思うことはありませんでしたが、裁判が始まってからは、被告が事件を起こした理由について自身の生い立ちや京アニのせいにするような発言を繰り返し、次第に腹立たしく思うようになりました。どんなに重い判決でも娘は帰ってこないですし、むなしいだけです」と話しています。

奈央美さんの父親は法廷で被告に直接怒りをぶつけたいと話していたということですが、裁判が始まる直前に病気で亡くなっていて、母親は、「判決内容は自宅でニュースを確認します。どんな判決が出るかわかりませんが、仏壇の前で2人に報告します」と話していました。

男性アニメーターの父親「裁判が抑止力になること望む」
亡くなった男性アニメーターの父親は、裁判を2回傍聴しましたが、青葉被告からは償いの気持ちが感じられなかったといいます。

法廷では父親の意見陳述書が読み上げられ、「私たちのように、息子や娘を、夫や妻を、子どもたちはお父さんお母さんを奪われ、悲しくてつらい遺族が出るような、残虐な犯罪が二度と起きないよう、この裁判が抑止力になることを望みます」と訴えました。

父親は多くの人が集まるとみられる判決は傍聴しないことにしていて、判決を前に、「私たち遺族の悔しさ、悲しさ、寂しさは癒えることはありません。亡くなった36人は被告がどんな償いをしても受け取ることはできませんが、裁判の中でそれなりの謝罪のことばはほしかったです。どのような判決になっても失われた命はかえってこず、息子の笑顔や日常が取り戻せるわけではありませんが、判決をきっかけに悲惨な事件が起きないよう社会には改めてこの事件を振り返ってもらいたいです」と話していました。

《青葉被告 問われている5つの罪》
初公判の青葉被告
今回の裁判で青葉被告は、殺人や放火など5つの罪に問われています。

1.建造物侵入
まず、2019年7月18日の午前10時半ごろ、京都市伏見区にある京都アニメーション第1スタジオに正面出入り口から侵入したとする建造物侵入の罪です。

2.現住建造物等放火
このあと、1階中央のフロアでバケツに入れたガソリンを従業員の体やその周辺に浴びせかけ、ガスライターで火をつけ、従業員70人がいるスタジオを全焼させたとして放火の罪に問われています。

3.殺人と 4.殺人未遂
そして、36人を殺害し、32人に重軽傷を負わせたなどとする殺人と殺人未遂の罪です。

5.銃刀法違反
このほか、この日、正当な理由なく包丁6本を持ち歩いていたとして銃刀法違反の罪にも問われています。

《裁判で明らかになった新事実や当時の状況》
裁判では証拠調べや被告人質問のなかで新たな事実や事件当時の詳しい状況が明らかになりました。

1.大宮でテロも計画
検察の冒頭陳述では、青葉被告が事件の1か月前に、埼玉県の大宮駅前に行き、無差別殺人を起こそうとしたものの断念したといういきさつが明らかにされました。

これについて被告は、被告人質問で「小説のアイデアをパクったことがそういう結末を生んだと京アニに伝えようと思った。大宮駅前まで行くと人の密集が低かったため大きな事件にはならないと判断した」と話しました。

2.過去の事件を参考に
また、事件をどのように計画したのかについては、「かつて消費者金融でガソリンがまかれて人が亡くなった事件やマージャン店の放火事件を参考にした。自分も最後の段階ではそれぐらいやると決めていた」と被告人質問で明かしました。

また、現場に6本の包丁を持っていった理由について、東京・秋葉原で通行人がはねられたりナイフで刺されたりして7人が死亡した無差別殺傷事件に触れ、「ガソリンをまいたあと、止めに入られることを想定した」としました。

3.当時の状況を社員が証言
証人尋問では被告が火をつける瞬間を建物の中で目撃したという2人の社員が当時の状況を証言しました。

このうち、1人の社員は「被告は、燃料のようなにおいがする液体を勢いよく頭や体にかけてきた。その上で、大きな声で『死ね』と言いながら火をつけていた。火は天井まで上がり、自分はトイレに逃げ込んだ」と話しました。

また、別の社員は「被告は、短い単語を投げつけるように叫んでいた。室内が真っ白になるくらいまぶしく光り、鈍い大きな音とともにガソリンのにおいと熱風が押し寄せてきた」と当時の様子を証言しました。

《青葉被告 法廷での主張は》
裁判で青葉被告は「やりすぎだった」と述べ、遺族や被害者に対し謝罪のことばを述べる場面もありましたが、一貫して「京アニに小説のアイデアを盗まれた」と主張しました。
初公判では裁判長から起訴された内容に間違いがないか尋ねられると、「間違いありません。当時はこうするしかないと思っていた。こんなにたくさんの人が亡くなるとは思わずやりすぎだった」と述べました。

被告人質問は
被告人質問では、京都アニメーションに応募した小説が落選したことをどう受け止めたのかについて述べました。

被告は、「がっかりして裏切られたような気持ちだった。落選させたのは、『ナンバー2』と呼ばれる人物で、自分に発言力を持たせたくなかったので圧力をかけたのだと考えた。その見返りに、京都アニメーションにかなりのお金が流れたと思う」などと話しました。

また、小説のアイデアが盗まれたとするいきさつについては、アイデアの一部は京都アニメーションに応募した作品には載せていなかったものの、ネット上に流出して盗まれたなどと述べました。

京都アニメーションの社長は、裁判で「ひとさまのアイデアを盗んだりできる会社ではない。被告の思い込みで事件が起き、断腸の思いだ」などと話し、盗作を否定しました。

これについて被告は「自分の考えたアイデアに関して京都アニメーションの監督がブログで触れているので、自分の作品を読んでいないということはない」などと改めて主張しました。

スタジオで事務的な作業をしていた人まで巻き込む必要があったのかと問われると、「アニメ制作は1人で完結するものではないので、何人かで盗作のシーンを作ったと思う」としたうえで、「盗作を知らなかった人も知っている人に聞いてこの会社は危ないと自分から退職届を出せば、犠牲者になることを回避できたと思う」などと話しました。

12月6日に行われた最後の被告人質問では、被告が「やりすぎた」と述べた意味を検察官から尋ねられると、「しょく罪の気持ちを含むというか、多大に申し訳ないという気持ちはある」と答え、初めて遺族や被害者に対して謝罪のことばを述べました。

そのうえで遺族や被害者が極刑を望むとした意見陳述への受け止めを聞かれると、「それで償うべきだと捉えている部分はある」と話しました。

一方で、京アニに小説のアイデアを盗まれたとする主張について、「京アニのほうがやってきたという思いがある。それは正直に申し上げる。精神鑑定をした鑑定人からは妄想だったという話が出ていたが自分の中では事実としてとらえている」と改めて述べました。

また、弁護側の質問のなかで、拘置所の職員に今の生活を支えられているとしたうえで、「早く大阪拘置所に来てこんな環境に置かれていたらおそらく事件を起こさなかったのではないかと思う」と話しました。

《裁判の経過》
裁判は去年9月から始まり、あわせて22回の審理が行われ、12月7日に結審しました。

2023年9月5日 初公判
初公判で、被告は起訴された内容を認め、「当時はこうするしかないと思って事件を起こしましたが、こんなにたくさんの人が亡くなるとは思っておらずやりすぎだった」と述べました。

9月6日~7日 証拠調べ
2回目の裁判では、被告が取り押さえられた際に「小説をパクられた」などと叫んでいた音声データが再生されました。

さらに、京都アニメーションの作品と被告が書いたとする小説との比較も行われ、アニメで描かれた3つのシーンについて、被告が自分の小説にも同じような描写があると供述していたことが明らかにされました。

9月7日~25日 被告人質問
3回目の裁判からは被告人質問が行われ、小説を応募した理由について、職場で過去の犯罪歴を知られたと考えて仕事を続けられなくなったとしたうえで、小説に全力を込め暮らしていこうと思ったと説明しました。

しかし、7年以上かけて書き上げたとする応募作品の落選のショックは大きく、その後小説のネタ帳を燃やしたとし、「つっかえ棒みたいなものがなくなってしまい、よからぬ事件を起こす方向に向かった」などと話しました。

また、犯行直前には実行するかためらったとしたうえで、「自分のような悪党でも良心の呵責(かしゃく)はあり、悪いことだとは思っていた」などと話しました。

9月27日~10月11日 証人尋問など
10回目からの裁判では、証人尋問が行われ、被告が火をつける瞬間を目撃したという社員が状況を証言しました。

また、京都アニメーションの八田英明社長が証言し、「小説のアイデアを盗まれた」という被告の主張に対して、「ひとさまのアイデアを盗んだりできる会社ではない」と述べました。

10月23日~10月30日 責任能力の審理
13回目からの裁判では被告の責任能力について集中的に審理が行われ、被告の精神鑑定を行った2人の医師が出廷し、それぞれ異なる見解を示しました。

被告が起訴される前に検察の依頼で鑑定した医師は、「妄想で京アニに小説を盗作されたと考えたあと犯行にいたるまでに直接抗議するなどの現実的な行動は起こしておらず妄想は被告の言動に著しい影響を及ぼしていない」と述べました。

一方、起訴されたあと、弁護側の請求で鑑定した医師は、「被告は犯行以前も問題が生じると職場を退職するなど、相手と関係を絶つという解決方法をとってきた。京アニに対しては『盗作され続ける』と妄想し、関係を絶つために犯行に及んだ」と述べ、妄想が犯行に影響したとしました。

11月6日 中間論告・中間弁論
16回目の裁判では責任能力について検察の中間論告と弁護側の中間弁論が行われ、その後、裁判員と裁判官は非公開で中間評議を行いました。

11月27日~12月6日 情状の審理
17回目の裁判からは刑の重さを決める情状に関する審理が行われ、遺族や被害者が直接、心情を述べました。

遺族の1人は「娘を返してください。せめてそばで、一緒に死ねたらよかった。甘えん坊なあの子に寄り添っていたかった」などと悲痛な思いを訴えました。

また別の遺族は亡くなった娘と対面した際、ほおずりをして子守歌を歌ったことを紹介していました。

そのうえで実際に法廷でその子守歌を歌い、被告には死刑を望むと強く訴えました。

21回目の裁判では、最後の被告人質問が行われ、遺族の1人から遺族や被害者に対してどう思うか直接問われると、被告は「申し訳ないと思います」と答え、この裁判ではじめて謝罪のことばを述べました。

12月7日 最終論告・最終弁論・結審
そして、22回目の裁判で検察が死刑を求刑したのに対し、弁護側が改めて無罪を主張し、すべての審理が終わりました。

「被害者参加制度」で遺族が質問も
今回の裁判では、殺害された36人のうち19人と、けがをした32人全員について、名前など個人が特定される情報を伏せて審理が進められました。

法廷で匿名で審理される人は、名前は読み上げられず、被害者の一覧表の番号で示されていました。

そして、遺族や被害者などは「被害者参加制度」を利用して傍聴席や検察側の席に座り、青葉被告に直接質問したりみずからの心情を述べたりしました。

裁判員裁判の評議は
今回の裁判では、裁判員6人と補充裁判員6人が選任され、去年9月5日の初公判から12月7日の結審まで22回の審理に参加しました。

裁判員裁判の評議は、非公開で行われ、3人の裁判官とともに6人の裁判員が被告が有罪か無罪か、有罪の場合はどのくらいの刑にするか、検討を重ねます。

4か月余りと長期にわたった今回の裁判は、争点を整理するため評議が2回設けられ、去年11月の中間評議では、青葉被告の責任能力について結論を出し、その結果は判決で初めて明らかにされます。

結審したあとの最終評議では、刑の重さなどについて話し合われたとみられます。

評議は裁判官3人と裁判員6人がそれぞれ同じ1票を持ち、意見が分かれた場合は原則として多数決で決められます。

しかし、意見が分かれた際に被告にとって不利な重い刑にする場合は、たとえ裁判員が5人以上賛成して過半数を占めても結論とはならず、必ず裁判官1人以上が賛成することが必要となります。

復帰できていない社員も
京都アニメーションには、事件当時、176人の社員がいましたが、このうち「第1スタジオ」で働いていた70人が事件に巻き込まれました。

会社によりますと、採用活動は、事件の影響で一時中断していましたが再開し、現在の社員数は今月の時点で事件前とほぼ同じ、およそ170人となっています。

事件でけがを負った社員の中には、治療を経て復帰した人もいますが、現在も療養を続け、復帰ができていない人もいるということです。

「第1スタジオ」の跡地は
一方、現場となった「京都アニメーション」の「第1スタジオ」の跡地は、建物が解体されたあと、さら地のままとなっています。

会社は、跡地について、将来的に慰霊碑の設置が想定されることや会社の事業用地としての利用も考えられるとして一般には公開しない見込みです。

また、遺族や会社などは、事件や犠牲者の存在、それに多くの支援への感謝を記憶にとどめる象徴として、スタジオ跡地とは別に、会社の本社がある京都府宇治市内で碑の設置を検討しています。

遺族や社員などが参加する検討会では、去年12月、候補地を宇治市内の駅近くの公園とすることを決め、今後、碑のデザインを固めたうえで、事件から5年となることし7月までの完成を目指すということです。

Follow us on social

Facebook Twitter Youtube

Related Posts