さかなクンが“魚の気持ち”解説 サンマ不漁の原因は?

東京, 3月22日, /AJMEDIA/

IPCC=気候変動に関する政府間パネルの報告書では「大気や海洋などの広い範囲で急速な変化が起こっている」とした上で、漁業など食料生産にも悪影響が及んでいるとされ、日本では、食卓になじみの深いサンマの不漁の原因のひとつに地球温暖化の影響が指摘されています。

海水温の上昇による魚への影響について東京海洋大学名誉博士のさかなクンが“魚の気持ち”を解説しました。

Q.日本でサンマの水揚げが減ってる理由は?
A. 私たちがずっと親しんできました、サンマちゃん。
まず姿はとってもほっそりしたお魚で、まさにお魚らしい流線型、これは常に旅する回遊魚ってことなんですね。

私たち人間は恒温動物で体が常にぽかぽか温かい状態を保っていますが、お魚は変温動物で、適水温はおよそ10度くらいから15度くらいと言われています。

日本近海では冬から春は、ちょうどこのぐらいの水温が比較的南の方なんですね。

だんだん温かくなると、三陸沖、あるいは北海道沿岸も水温が上がってきて、「あ、ちょうどいい水温だ!食べ物も豊富な三陸沖だ!北海道沖だ!もっと北上するよー」と、適水温に合わせて旅をしていくわけです。
三陸沖や北海道沖は食べ物がとっても豊富なんですね。

いっぱい食べると、“すっギョく”サンマちゃんの体もふっくらと肥えて、脂が乗ってくるんですね。

ところが、ここ近年の各地の水温の上昇によって、「沿岸の水温が上がってきてしまった!もうちょっと沖に行こう」と、だんだん奥のほうに移動してるのじゃないかとも考えられています。

適水温があるお魚ですので、「今まで泳いでいたこの辺の水温が熱い!こりゃ大変だ!熱いよー!」と思うと、さらにさらに沖へと回遊ルートが変わってしまうということがあると思うんですね。
Q.海水温上昇の魚への影響は?
A.ここ100年で海域によっては2度から3度上がってるっていうところも報告されてます。

お魚にとって水温が1度上がってしまうというのは、私たちにとっては平熱が1度上がってしまうのと同じではないかと思うんですね。

その水温が0点何度でも、あるいはもう1度2度って大きく変わってしまいますと、「うわ!これは熱くて耐えられない!」と熱が出たのと同じような感覚だと思うんですね。

ですので、サンマちゃんのような非常にパワフルな回遊魚っていうのは、状況によって泳ぐルートを変えることもできますので、今までの回遊ルートを変えてしまうことにもつながってしまうんですね。
Q.最近日本で水揚げされるサンマはやせていて小さい?
A.もちろんサンマちゃんは、私たちと同じでもりもり食べれば、その分、健康に大きく成長できます。

「食べ物が豊富な沿岸が熱くなってきてしまったから、沖に行こう!」となると、実は沖に行けば行くほど食べ物が少ないと言われてます。

特に沖の外洋あたりというのは、“海の砂漠”とも言われるんですね。

すなわち食べ物が少ないです。

私たちの陸地に近い沿岸は非常に食べ物が豊富で、なぜかといえばたくさんの川から栄養が海に運ばれるんですね。

栄養と光によって、植物プランクトンそして動物プランクトンが豊富です。

サンマちゃんにとっては、沿岸っていうのは非常に暮らしやすい、食べ物も豊富で成長しやすい。

ところがだんだん回遊ルートを変えてしまうことによって、沖に来たはいいけれども食べ物が少ない!食べ物が少ないと、大きくふっくらしたサンマちゃんには育ちにくくなっちゃうわけなんですね。
Q.沖に漁に出れば水揚げは増えるのでは?
A. 漁師さんが「うわー困った、沖まで行かないとサンマとれないよ」となると、沖に行くにはその分、燃料代も光熱費も時間もかかっちゃうわけで、いいことが全然ないんです。

しかもサンマちゃんが小型でやせていると、私たちの食卓に届いても、「あれー?いつものサンマちゃんよりもやせている!小さい」となっちゃうんですね。

これはなかなか難しい問題で、当事者のサンマちゃんが一番困っちゃってるかもしれないですね。

「食べ物が少ないよ。もっと沿岸を泳ぎたいのに」ときっと思っているのかなと思いますね。
Q. 一度、沖に行ってしまうと日本の沿岸には戻らない?
A.そんなことはないと思います。

例えば今までの水温に戻れば、サンマちゃんもきっと、今までどおりの沿岸を回遊するという暮らしになると思うんですね。

しかし各地の水温上昇が著しくなっておりますので、これをどう元に戻るようにするかは、地球規模の課題で、“すギョく”難しい問題ではありますよね。

サンマちゃんだけじゃなく、多くのお魚がやはり水温の変動で、回遊ルートを変えてしまったり、漁場が変わってしまったり、南方にいたお魚がどんどん北上して、とれるはずのなかったお魚が各地で水揚げされることも多くなってきています。
Q.釧路でサンマの代わりにブリ。こうした現象は各地で?
A.各海域でサケちゃんをとるための定置網にサケちゃんが全然入らなくて、漁師さんが「サケではなくブリやマンボウ、シーラ!今までいなかったような暖かいところの魚ばっかりじゃないか」とか、そういったことも多くなっているそうなんです。

私の暮らす房総半島、千葉県の館山あたりですと、アジちゃんやイワシちゃんをとる定置網漁で、なぜかここ近年、沖縄県の県魚である“グルクン”と呼ばれるタカサゴちゃんの仲間が入ることが多くなってきました。

沖縄県の皆様にとっての大切な県魚、グルクンちゃんがここまでやって来ている。

黒潮の温かい流れに乗って少量やってくることはあったんですけれども、ここ近年は結構まとまって入ることも多くなってきました。
Q.秋の味覚サンマですが、とれる時期も変化?
A.房総半島も通常、冬から早春にかけて通常水温が下がって15度台ぐらいに下がってくるはずが冬になっても20度台。

「あれ、まだこんなに温かいの?」ってびっくりするぐらい水温が下がるのがゆっくりなんですね。

サンマちゃんも「ゆっくり北上しよう」と、水温の変化で回遊する魚ですので、それが今までどおりじゃないと、だんだん季節も変わってきてしまう。

秋ではなく、「冬の刀の魚」っていうイメージになっちゃうかもしれませんね。

サンマちゃんのような、季節を教えてくれるお魚だけじゃなく、お野菜も果物も、もしかするとだんだん旬が変わってきてしまうかもしれませんね。

本来であれば日本は自然の移ろい、季節の移ろいが“すギョく”はっきりしていたわけなんですけれども、その季節の移ろいがだんだんわかりにくくなってしまったり、ずれてしまうことによって、暮らしも変化してしまうかもしれないですね。
Q.サンマの不漁はこれからも続く?
A.実は今、私たち日本ではどんどんお魚離れ、だんだん魚食の低迷が深刻化しているんですけれども、逆に諸外国ではどんどんお魚人気が高まっているんですね。

サンマちゃんは従来、日本とロシアがたくさんとる魚だったんですね。

それが1980年以降はだんだんサンマちゃんをとる国が増えてきまして、特に公海域というかなり沖合の海域でも、たくさんとられるようになってしまって、それがサンマちゃんの資源量の減少にもつながっているのではないかとも考えられています。

サンマちゃんにとって、本来の自然界の敵は空からの鳥、あるいは水中の大型の魚、イルカちゃんとかクジラちゃんとかそういった大型哺乳類などいっぱいいるわけですね。

私たち人間も大きな敵で、諸外国もたくさん水揚げするようになったことは、敵がめちゃくちゃ増えてしまったと思うんですね。

その分、自分たちの種を絶やさないためには、とにかく早く卵を産まなきゃ、ちっちゃいうちでも命をつないでいかなきゃいけないというのはあるかもしれないですね。

サンマちゃんの気持ちになってみると、今までは規則正しく南北に回遊して、食べ物が豊富な沿岸を好んで暮らしてきたわけなんですけれども、水温の影響や、エサであったり、私たち人間がたくさんとってしまうことなど複合的に大きな影響を受けていると思います。
Q.私たちがするべきこと、できることは?
A.その季節においしいものが頂けるっていうのは、考えてみると本当にありがたいことですので、このありがたさに気付くと、もっとその先を知りたくなって「いま減少してしまってるのはなぜだろう」と思いをはせることは大事だと思うんですね。

お魚は自然の変化に、“すギョく”忠実に、生き方を変えていく生き物でもありますので、サンマちゃんからの「今、私たちが減っているのはなぜかをしっかり考えてごらん」という、メッセージかもしれません。

お魚が伝えてくれることから、環境のことをしっかり考えていくことは、私たちに必要なことではないかと思います。

日本を取り巻く大自然にはたくさんのお魚がいて、およそ4000種と言われてるんですね。

季節によって、アジちゃん、イワシちゃん、ブリちゃん、カツオちゃんと、たくさんの魚種がいますので、その時期の、その海域、場所ならではのお魚をしっかり見つめて、幅広く頂くことも、“すギョく”大切なんじゃないかなと思いますね。

まさに、サンマちゃんをはじめ、お魚、これはもうその時出会えた感動、「一魚一会(いちぎょいちえ)」だと思うんですよね。

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