東京, 10月8日, /AJMEDIA/
黒田東彦日銀総裁の大規模金融緩和策の評価や金融政策の見通しなどについて、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストとみずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストに聞いた。両氏とも一定の効果を認めつつも、河野氏は緩和長期化による「財政規律の弛緩(しかん)」などの弊害も指摘。門間氏は緩和策の修正は「2023年中は無理」との見方を示した。
◇財政規律に緩み=BNPパリバ証券の河野龍太郎氏
―大規模緩和の効果と副作用をどう見るか。
大規模金融緩和の下支えによって雇用が増え、長い景気拡大が可能になった。2017年から19年にかけてはバブル期並みに労働需給が逼迫(ひっぱく)した。ただ、それでも2%の物価目標に到達していないという理由で、景気悪化局面でしか使わない「痛み止め」である緩和を長期化したことで、資源配分や所得分配をゆがめるなどの弊害が出た。最大の弊害は財政規律の弛緩(しかん)だ。金利を抑え込んだことで利払い費も抑制され、財政運営コストが低く見えてしまった。生産性が低い企業も増えて潜在成長率が低迷した。本来は実質賃金を高めることを目指したにもかかわらず、反対の結果をもたらしているのではないか。
―政策を見直すべきだったか。
弊害が大きいマイナス金利については、17、18年ごろに見直すチャンスはあっただろう。異次元緩和の中でも、長期金利を0%程度に抑え込む長短金利操作には大きな問題がある。内外金利差を拡大させて円安圧力を生み出し、景気刺激とインフレ醸成を狙うものだが、景気が良い間に一度も利上げしていない日本では世界景気が悪化しても金利を下げることができず、他国が利下げしたとたんに円高を招く恐れがある。
―大規模緩和を見直す時期はいつごろか。
次期総裁の下では、2%物価目標の位置付けを含めた政策の点検や見直しが必要になるだろう。金融緩和には景気を刺激する効果があるが、副作用に配慮しながら政策運営する発想が大事だ。公的債務が大きく膨らんでいるので、次期総裁は基本的には今の緩和政策を維持しながら、弊害の大きいマイナス金利と長期金利の0%誘導を修正していくべきだ。世界経済が苦境のときに利上げするのは避けるべきで、次の回復局面が来たときに行うのがいいだろう。
◇23年中の政策修正困難=みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫氏
―黒田東彦総裁の大規模金融緩和の評価は。
政府・日銀挙げてデフレから脱却するということで異次元緩和が導入され、景気も全般に回復し、最初は効果があった。一方、2%の物価目標は約10年たっても実現できず、目標が現実的ではなかった。マイナス金利政策や長期金利を0%程度に抑えるなど普通の中央銀行が行わない政策に踏み込んでいかざるを得なかった。
―日銀が政策修正する可能性は。
日銀は2%物価目標は最重要課題で、達成できていない以上は変えるわけにはいかないという考えだ。副作用も最小限に抑えられているという判断だと思う。黒田総裁の間は修正はないだろう。
―次期総裁に求められるものは。
総裁交代ですぐに政策が変わるわけではない。異次元緩和はデフレ脱却に向けた政府・日銀一体の努力の一環だ。政府が金融政策を変えるべきだと強く思えば、次の総裁はまったく違う政策を展開する可能性はあるが、今は政府と日銀の関係はうまくいっているように見える。誰が総裁になっても基本的に今の線を維持するのではないか。
―物価目標などの見直しは。
今、物価が一時的に上がっているが、強い需要や賃金上昇など国内要因のインフレはまったく起きていない。目標はどこかで見直した方がいいが、政府、国民を巻き込んだ議論が必要だ。目標に向けた手段も、長短金利操作は為替相場の変動を増幅する傾向があるため、修正することが考えられる。ただ、下振れリスクが大きいときに金利が上がる方向の修正は難しい。年末ぐらいから米国経済が景気後退に入る恐れがあり、2023年中の修正は無理だと思う。