深刻化する山火事と闘うNASAのテクノロジー:機械学習で発生予測と消火を支援

東京, 7月10日 /AJMEDIA/

 カリフォルニアのような乾燥地帯では、気温が上がり乾燥が激しくなる季節には山火事が増えると言われてきた。しかし、気候変動によって状況は変わりつつある。米農務省によると、「かつては山火事のシーズンは4カ月だったが、今は6~8カ月は続く」。さらに悪いことに、「山火事は米国の多くの地域で通年発生」しており、ついには「fire year」(火災年)という言葉まで生まれた。

 この深刻な事態に対応するために立ち上がったのが米航空宇宙局(NASA)だ。NASAは豊富な地球観測データを火災の予測と消火活動に活用することで、山火事対策に追われる全国の関係者を支援している。NASAが保有する観測データの多くは、地球観測衛星「ランドサット」が撮影した地球の地形画像だ。こうした画像は地表の温度を測定できるだけでなく、火災の拡大や延焼を引き起こす自然界の物質、たとえば密集した樹木などの植生も特定できる。

 筆者はシリコンバレーにあるNASAエイムズ研究センターを訪れ、研究科学者のChristopher Potter氏に話を聞いた。「われわれは40年分の衛星画像データのアーカイブを保有している」と、Potter氏は言う。「この大量のデータを使って、予測モデルを構築している」

 山火事の頻度と深刻度が増すなか、人工知能(AI)やドローンといった新しいテクノロジーを使って、消火活動の安全性を確保し、鎮火に必要な情報を提供する動きが出てきている。例えばカリフォルニア州兵空軍は、ドローンを使って火災の延焼状況を追跡し、災害のリアルタイム画像を収集することで、支援が必要な地域をピンポイントで特定している。各地の消防当局は火災の動向を数日先まで予測できるソフトウェアを導入し、消火活動に役立てている。Pano AIなど、カメラとアルゴリズムを用いて森林火災を早期に発見し、大規模な山火事に発展する前に電力会社などの顧客に警告を出す新興企業も現れた。一方、NASAは保有する大量のデータを使って予測モデルを構築する一方、ドローンの操縦士や消防当局が災害に効果的に対応するための航空管制ツールも開発した。

 NASAはランドサットのデータに加えて、カリフォルニア州森林保護防火局などが収集している、過去の火災の被害状況(犠牲者数や物的被害)に関するデータも活用している。機械学習を活用することで、山火事の予測モデルをすばやく構築し、火事がどのように拡がり、どのような被害が想定されるかを予測できるようになったという。こうした予測は、当局が火災の発生時に消防資源を効果的に配分する上でも役立っている。

 Potter氏は例として、サンフランシスコ湾岸のイーストベイヒルズの画像を見せてくれた。コンコード、フリーモント、ウォルナットクリークといった都市が赤の濃淡で表示されている。これは建物の密集度を示す。つまり、火災時に大量の有害ガスが発生する可能性が高い地域だ。

 このデータと、その地域で最後に山火事が起きた時期についての情報を組み合わせれば、火事が起きた場合の規模と危険性を予測できる。イーストベイヒルズは一例にすぎないが、NASAの予測モデルによると、この地域で火災が発生した場合、24万7000エーカー(約1000平方キロメートル)以上、60万世帯近くが火に飲み込まれると推定される。

 「(森林火災が発生した場合)どれだけの汚染を引き起こされ、どのような有害ガスがどこで発生するかはすでに分かっている」とPotter氏は言う。NASAのシステムを使えば、火災の発生を数カ月先まで予測できる。

 NASAは森林火災データをインターネット上で公開し、誰でも無料でアクセスできるようにしている。火災の危険性が高い場所を正確に示す地図を提供することで、NASAはカリフォルニア州森林保護防火局や米農務省森林局などの機関が、有事に消防資源を速やかに配備できるよう支援している。大規模火災の消火活動では、何よりも情報の精度が重要だ。

 「州の全域を予測しているわけではない」とPotter氏は言う。「対象は数マイルの範囲だ」

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