日本民間初の月面着陸挑戦 あす着陸へ ビジネスつながるか注目

東京, 6月5日, /AJMEDIA/

日本の民間として初の月面着陸に挑戦する東京のベンチャー企業の月着陸船は、6日、月への降下を始め、明け方に着陸する計画です。民間による月面探査競争が世界的に激しくなる中、着陸に成功し、月への物資輸送サービスなど宇宙ビジネスの展開につなげられるか注目されます。

東京のベンチャー企業「ispace」が開発した月着陸船は、ことし1月、アメリカ・フロリダ州の発射場からロケットで打ち上げられたあと、月へ向けて飛行してきました。

先月28日には、月の上空100キロ付近を回る軌道に入り、着陸に向けた準備が進められていて、通信状態などに問題がなければ、6日午前3時13分ごろから月への降下を開始します。

着陸船はガスを噴射して減速しながら1時間ほどかけて徐々に月面に近づき、午前4時17分に月の北半球の「氷の海」と呼ばれるクレーターのない平たんな場所に着陸する計画です。

「ispace」はおととし月面着陸に挑戦しましたが、着陸船が高度を誤って認識し着陸に失敗していて、再挑戦となる今回成功すれば、日本の民間として初の月面着陸となる見通しです。

月面着陸をめぐっては、去年、アメリカの宇宙開発企業が民間としては初めて無人での月面着陸に成功し、ことし3月には別のアメリカ企業が成功するなど開発競争が激しくなっています。

月への物資輸送サービスの実現を目指す「ispace」は、着陸船に、自社で開発した月面探査車や、日本の企業が開発した水から水素と酸素を作り出す実験装置などを積み込み、月面で運用する計画で、今回の着陸を成功させることで、宇宙ビジネスの展開につなげられるか注目されます。

月着陸船と6つの搭載品
「ispace」の月着陸船は、高さおよそ2.3メートル、幅およそ2.6メートルで、重さは燃料を入れない状態で340キロほどあります。

機体は「八角柱」に近い形をしていて、機体の底にはガス噴射装置が取り付けられ、宇宙空間での姿勢制御や、月面着陸時の減速などに使用されます。

また、着陸時には機体から脚のようにのびる4本の支柱を月面について衝撃を緩和します。

着陸船は月面に物を運ぶ役割も担っていて、機体には6つの搭載品が積み込まれています。

その1つが「ispace」が開発した月面を走行する探査車です。

車体は全長50センチ余り、高さと幅がおよそ30センチで、重さは5キロほどに軽量化しています。

月面では最大14日間の走行が想定され、車体に搭載されたカメラで月面の撮影を行うほか、スコップで月の砂を採取する計画です。

また、人類が月面で活動することを見据えた実験装置も搭載されています。

ビルの空調整備事業などを展開している「高砂熱学工業」が開発した「月面用水電解装置」で、縦30センチ、横45センチ、高さ20センチほどの大きさがあります。

水を電気分解して水素と酸素を発生させる装置で、今回は地球から運んだ水を使って月面でも装置が作動するか実証実験が行われます。

将来的には、月に存在するとされる水を電気分解して水素と酸素を発生させることを目指していて、実現すればロケットの燃料や空気として利用でき、月での長期滞在が可能になると期待されています。

着陸船にはこのほか、台湾の大学が開発した放射線による電子機器への影響を観測する装置、東京のベンチャー企業の藻類を培養する装置、アニメに登場する石碑を模した特殊合金プレート、それにスウェーデンのアーティストの作品などが搭載されています。

着陸計画と着陸後の探査
「ispace」の月着陸船は、月の上空、高度100キロ付近を回る軌道から降下を始め、およそ1時間後に月面に着陸する計画です。

降下を始める際、着陸船は時速およそ5800キロと、東京・大阪間を5分ほどで移動できる速さで月の周りを回っているため、進行方向とは逆方向にメインエンジンを噴射して減速しながら徐々に高度を下げていきます。

具体的にはまず、午前3時13分ごろからおよそ1分間噴射して降下を開始し、その後、およそ45分間、慣性飛行を続けて高度を20キロまで下げます。

ここから再びメインエンジンをおよそ10分間噴射して高度3キロまで降下し、さらに、着陸船の底が月面を向くように姿勢を変えながら高度1キロ付近まで近づきます。

そして、エンジンを噴射しながら降下を続け、午前4時17分に月の北半球の「氷の海」と呼ばれるクレーターのない平たんな場所に着陸する計画です。

着陸後は、着陸船や搭載機器の状態の確認が進められ、その後、搭載機器を使った実験や月面探査が始まります。

「ispace」によりますと、早ければ着陸の翌日にも、水を電気分解して水素と酸素を発生させる装置の実験が始まり、さらに、着陸の2日後にも、自社で開発した探査車が月面を走行するということです。

月は2週間ごとに昼と夜を繰り返すため、探査の期間は着陸予定地付近が月の夜に入るまでのおよそ2週間で、探査車はカメラで月面の撮影を行うほか、スコップで月の砂を採取する計画です。

ベンチャー企業「ispace」とは
「ispace」は、東京に本社を置くベンチャー企業で、2010年9月に設立されました。

当初は民間による月面探査レースに挑戦したチーム「HAKUTO」を運営し、月面探査車などの技術開発を進めていましたが、レースは勝利チームがないまま2018年に期限を迎えて終了しました。

その一方で、「ispace」は2017年12月、探査車を搭載できる月着陸船を開発することを発表します。

アメリカのアポロ計画で実績のある研究機関と契約を結び、すでに確立された技術を活用したコストとスピードを重視した開発を進め、おととし4月、最初の月面着陸に挑戦しました。

しかし、おととしの挑戦では、着陸船が月面にある崖の上を通過したあと高度の認識にずれが生じ、5キロほどの高さから落下して着陸に失敗しました。

その後、「ispace」は制御システムや着陸地点の見直しなどの対策を講じたうえで、今回、再び月面着陸に挑むことになりました。

こうした経緯を踏まえ、今回の着陸船には「再起」を意味する「レジリエンス」という名前がつけられています。

「ispace」が月面着陸への挑戦を続けるのは、2040年代に月面に人が住む世界を構想し、新たな事業の展開を目指しているためです。

具体的には、月着陸船を使って月に荷物を送り届ける宅配便としてのサービスや、月面で取得したデータの提供などを想定しています。

今後はNASA=アメリカ航空宇宙局から獲得した資金や、日本の経済産業省から支援を受けた120億円の資金などを使って新型の月着陸船を開発し、打ち上げていく計画で、本格的な商業化を目指していくことにしています。

月を舞台に開発競争 激しさ増す
月を舞台にした各国や企業の開発競争は近年、激しさを増しています。

その主な理由は、月に「水」が存在することを示す研究論文が発表されているためです。

月に水があれば、飲み水として利用できるほか、水素と酸素に電気分解してロケットなどの燃料として活用できることなどから、人類の新たな活動拠点として月面を開発しようとする動きが相次いでいます。

このうち、アメリカは、日本も参加する国際月探査プロジェクト「アルテミス計画」で、アポロ計画以来となる宇宙飛行士による月面探査を目指すとしています。

中国は月の探査計画を宇宙開発の重要な柱の1つと位置づけていて、2030年までに中国人宇宙飛行士による有人での月面着陸を目指すなどとしています。

また、インドはおととし、日本は去年、それぞれ月面着陸に成功し、無人探査機で月着陸に成功した国としては、旧ソビエト、アメリカ、中国に次いで、世界で4か国目と5か国目になりました。

さらに近年は、国だけでなく民間企業による月面着陸への挑戦も相次いでいます。

このうち、去年2月、アメリカの宇宙開発企業「インテュイティブ・マシンズ」が民間として初めて、無人の月着陸船での着陸に成功したほか、ことし3月にはアメリカの別の民間企業「ファイアフライ」も着陸に成功しています。

NASA=アメリカ航空宇宙局は、こうした民間企業が開発する月着陸船に実験装置を搭載する契約を結ぶなどして民間の活動を資金面でサポートし探査を進めていく方針です。

こうした民間主導の宇宙開発はコストを抑えたり、開発期間を短くしたりする効果があるとされ、アメリカを中心に近年、日本などでも加速しています。

東京のベンチャー企業「ispace」は経済産業省からの支援を受けて新型の月着陸船の開発を進め、再来年にも打ち上げる計画です。

宇宙開発が民間が主導する新たなフェーズへと入りつつある中、月面を舞台にした宇宙ビジネスの今後の展開が注目されています。

月面着陸の難しさ 「重力」と「大気」の2つの要因
月面着陸の技術的なハードルは高く、これまでに成功した国は、旧ソビエト、アメリカ、中国、インド、それに日本の5か国のみです。

去年、日本初の月面着陸に成功したJAXA=宇宙航空研究開発機構の探査機「SLIM」の開発責任者を務めた坂井真一郎教授は、月面着陸の難しさについて、「重力」と「大気」の2つの要因を挙げています。

まずは重力です。

月の重力は地球のおよそ6分の1ですが、着陸船が月面に向かってひとたび降下を始めると重力に引き込まれるため、途中で飛行を止めて上昇することは難しく、後戻りできない「一発勝負」となります。

そして2つめは、月に大気がないことです。

例えば、大気のある地球に宇宙船を帰還させる場合、パラシュートを開き、空気抵抗で速度を落としながら着陸させることができます。

一方で月にはほとんど大気がないため、エンジンを進行方向に向けて噴射することでブレーキをかけながら安全に着陸する技術が求められます。

こうした着陸の難しさについて、坂井教授は、「羽がなくなった飛行機をエンジンの制御のみで着陸させるような状況に近いといえる。急ブレーキをかけすぎてもうまく地面に着陸できず、少しでも調整に失敗するとたちまち墜落する難しさがある」などと説明しました。

また、「ispace」がおととしの最初の挑戦で月面着陸に失敗していることを踏まえて、「月の凹凸が着陸船のセンサーにどのように影響するのかなど、地上で試験を重ねていても分からない、着陸に挑戦したからこそ分かるデータがある。前回の挑戦で得られた宝の山のようなデータから気付きがあると思うので、それをどう反映し、取り組めているかが勝負の鍵となる」と話していました。

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