東京, 1月29日, /AJMEDIA/
岸田文雄首相が、「佐渡島(さど)の金山」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に推薦する方針を表明した。政府内で見送り論が強まる中で首相が決断した背景には、推薦を求める安倍晋三元首相ら自民党保守派の離反を懸念、政権基盤の安定を優先したことがある。
「本年申請し、早期に議論を開始することが登録実現への近道との結論に至った」。首相は28日、記者団に判断の理由をこう説明した。
政府内では当初、外務省を中心に慎重論が強かった。「朝鮮半島出身者による強制労働の現場」などと韓国が撤回を要求し、米政府からも「日韓の新たな火種になる」との懸念が伝えられていた。
日本政府が昨年、「世界の記憶」(世界記憶遺産)をめぐり、関係国の同意がなければ登録できない制度導入を主導したこともネックになった。このときは2015年の中国の「南京事件」資料登録を踏まえた動きだったが、日本政府が今回推薦に踏み切れば、国際社会に日本の「二重基準」を批判される可能性もあった。
こうした事情から、政府関係者は「首相は悩んでいた」と明かす。それでも推薦に踏み切った最大の理由は、政権基盤の安定を図るためだ。
自民党有志議員でつくる「保守団結の会」は18日に早期推薦を求め決議し、政府への圧力を強めた。安倍氏も20日、安倍派総会で「(韓国と)論戦を避ける形で登録を申請しないのは間違っている」と訴えた。関係者によると、首相は複数回にわたって安倍氏と電話で意見交換したという。
首相周辺は「安倍氏なら保守派を抑えられるが、保守層に基盤のない首相が見送りを言うと収まりが付かなくなる」と語る。党内保守派の反発が強まれば、夏の参院選や今後の政権運営に影響が出かねず、首相は2月1日の推薦期限ぎりぎりのタイミングで決断した。
安倍氏は方針決定を受け、コメントで「首相の判断を支持する。冷静に正しい判断をされたと思う」と評価した。
もっとも、登録には世界遺産委員会を構成する21カ国の3分の2以上の賛成が必要で、韓国による関係国への反対の働き掛けも強まるとみられる。外務省幹部は「韓国が納得しない限り、通すのは難しい」と指摘。政府が目指す2023年の登録は見通せていない。