原爆の惨劇描き、風化に一石 野田秀樹さん、ロンドンで新作公演

東京, 11月3日, /AJMEDIA/

劇作家の野田秀樹さん(68)が主宰するNODA・MAPの新作舞台「正三角関係」(英題Love in Action)がロンドンで上演された(10月31日~11月2日)。ドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」に着想を得て、1945年8月の長崎を舞台に、人を殺すことの罪の大きさを問う作品。前半はコミカルに法廷劇が展開されるが、次第に重苦しさを増し、最後は人類史に残る惨劇となった原子爆弾投下の瞬間にたどり着く。

 「直接的に描かないと届かないんじゃないか」―。作・演出を手掛けた野田さんは、生まれ故郷に落とされた原爆を他の作品でも題材にしてきたが、今回は、これまでの比喩的表現から踏み込み、「原爆」とじかに向き合った。

 終戦から79年がたち、戦争の記憶の風化が一段と進む中、「原爆投下の事実が歴史のページの一行になっていないか」。日本でも、「戦争の終結」や「自国の被害者を減らす」ためなら「致し方ない」と肯定する考えが優勢になりかねない現状を危惧。「起きたことは、あり得ない大量殺りくだ」と強調する。

 10月には、核廃絶を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞。野田さんは「ありがたいこと」と歓迎するが、そのニュースも瞬く間に、あふれる情報に埋もれていく現実を嘆く。「唯一の被爆国」との言葉も時候のあいさつのように聞こえるとし、「もう一度かみしめてほしい」と訴える。

 日本公演に続きロンドンでも、松本潤さん、長澤まさみさん、永山瑛太さんらが熱演。10月31日の初日終演後、満席の劇場(約1500人)は万雷の拍手とスタンディングオベーションに包まれた。広島平和記念資料館を訪れたことがあるというコルチェスター在住の女性(44)は「原爆投下のシーンが印象的。また違った形で被害の莫大(ばくだい)さを感じ、胸が痛んだ」と語った。

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