東京, 9月17日, /AJMEDIA/
「中国の不動産問題のフェーズが変わった」
中国経済に詳しいエコノミストの言葉です。今、中国の不動産不況が世界の金融市場にも悪影響を及ぼし始めています。相次ぐ不動産大手の経営悪化。それは地方の財政問題にも飛び火し、中国政府が恐れていたマネー流出も起きています。(中国総局記者 下村直人)
不動産最大手もついに…
冒頭の「フェーズが変わった」との言葉のきっかけになったのは中国の不動産最大手「碧桂園」が8月初旬に一部の債券の利払いを先送りしたことでした。
「碧桂園」はこれまであまり名の通った会社ではありませんでした。
経営危機に陥っている不動産大手「恒大グループ」はサッカーチームの運営やEV=電気自動車の製造など、“派手に”多角化を進めてきたこともあり、知名度がありました。
これに対して「碧桂園」は国内の地方都市の開発などを中心に成長してきた会社なだけに、これまで国際ニュースの話題になることがあまりなかったのです。
しかし、今や「碧桂園」は世界でニュースの中心に躍り出ています。
英語名「Country Garden」は欧米メディアでも頻繁にとりあげられ、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は「Country Gardenが新たな懸念をもたらしている」などと伝えています。
2023年8月30日に発表した中間決算では489億人民元、日本円で9800億円の最終赤字に陥り、会社は「今後も業績が悪化し続ければ、デフォルト=債務不履行に陥る可能性がある」と投資家に脅しともとれるようなメッセージを送りました。
株価下落を引き起こし…
中国不動産最大手のデフォルト危機とあって中国の株式市場では、株価の下落傾向が続きました。
上海株式市場では、株価指数が8月25日に一時、ことしの最安値をつけました。
7月31日の高値と比べると、8%余りの下落です。
中国政府が恐れるマネー流出も
さらに中国政府が恐れていることが起きています。
資金の流出です。
中国政府は公表していませんが、アメリカ・ワシントンに本部があるIIF=国際金融協会がまとめた資金の流れによると、ゼロコロナ政策の解除以降、中国の株式市場へは資金の流入傾向が続いていましたが、8月は、一転して巨額の資金が流出しました。
その額は、149億ドル、日本円で2兆1000万円余りにのぼったのです。
人民元安も進む
資金の流出は、株式市場からだけではありません。
外国為替市場で、中国の通貨・人民元も売られています。
2023年9月8日には、1ドル=7.35台まで値下がりし、15年9か月ぶりの安値を更新しました。
加速する元安に危機感
元売りを抑えるため、中国人民銀行は取り引きの目安となる「基準値」を、元高方向に設定するなど、通貨の防衛姿勢を強めています。
また、市場介入には慎重な姿勢を示しているものの、9月7日に発表した8月末時点の外貨準備高は、前の月(7月末)から442億ドル、日本円で6兆4500億円あまり減少。
市場関係者のひとりは、「予想以上の規模の減少であり、通貨を防衛するために介入した可能性もあるのではないか。人民元安は資金流出を加速させるおそれがあり、当局は、相当危機感を強めているはずだ」と話していました。
地方財政をゆるがす
経営難が明らかになった「碧桂園」。
やっかいなのは地方財政と結びついている点です。
中国では土地は国有で、地方政府が土地の使用権を不動産開発会社に売って、その収入をインフラ開発の財源にあててきました。
地方都市での開発に力を入れてきた「碧桂園」の経営難は、不動産業界に依存してきた地方政府の財政悪化につながりかねず、経済に大きな打撃を与えるおそれがあるのです。
「住宅を建築するだけでなく、住宅所有者に包括的なライフスタイルのソリューションを提供する」
「ブランド価値は不動産部門を超えて拡大した」
これは2018年、碧桂園がアメリカのフォーチュン誌が発表する世界の企業の売り上げに基づくランキング「フォーチュン・グローバル500」の353位になったときのプレスリリースの文言です。
住宅建設だけにとどまらない事業拡大に会社が自信を深めている様子が手に取るように伝わります。
不動産投資熱とバブルの崩壊。
経済悪化や金融危機の発端の多くが不動産由来であることは日本のバブル崩壊と不良債権処理、アメリカのサブプライムローンの焦げ付きから起きたリーマンショックを見ても明らかです。
経営難に陥った碧桂園は、年内に日本円で3000億円を超える返済が必要になるとされ、デフォルト懸念が依然、くすぶります。
中国経済がどのような道をたどっていくのか、歴史を繰り返さないのかどうか、世界の金融市場が神経を使う展開が続きそうです。
注目予定
来週は、アメリカ・FRB=連邦準備制度理事会の金融政策を決定する会合が開かれます。
利上げ見送りが市場のおおかたの予想ですが、日本時間21日未明にパウエル議長が今後の政策について、何を語るのかが焦点です。
また、22日は日銀の金融政策決定会合が開かれます。
市場で、金融緩和策の修正が視野に入ってきたという見方も出ていて、こちらも植田総裁の会見内容が注目されています。