ロシア ナワリヌイ氏が死亡 プーチン政権批判の反体制派指導者

東京, 02月17 /AJMEDIA/

ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、北極圏にある刑務所に収監されていた反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が死亡したと刑務所を管轄する当局が発表しました。
ロシアのプーチン政権への批判を続けてきたナワリヌイ氏は2020年、政権側の関与が疑われる毒殺未遂事件の被害を受け、その翌年、過去の経済事件を理由に逮捕され、刑務所に収監されました。

収監中も支援者を通じてSNSで政権批判を続け、ウクライナ侵攻が始まってからは人々に反戦デモを呼びかけていました。

また、ロシア大統領選挙の日程が正式に決まった去年12月にはみずからを支援する団体を通じてプーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかけていました。

ナワリヌイ氏の支援団体は去年12月、ナワリヌイ氏は、ロシア北部のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移されていたとSNSで明らかにしていましたが刑務所を管轄する当局は16日「ナワリヌイ氏は散歩のあと気分が悪くなり医師が蘇生措置を行ったものの死亡が確認された」と発表しました。

47歳でした。

ナワリヌイ氏を支援する団体は、前日の15日、ナワリヌイ氏が裁判のために刑務所からビデオを通じて姿を見せ、健康そうに見えたとしてその映像をSNSで公開していました。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は16日、記者団に対し「われわれが知るかぎりでは、規則に従って確認や解明などが行われている。医師が明らかにするはずだ」と述べたほか、ナワリヌイ氏の死亡についてはプーチン大統領も報告を受けたと明らかにしました。

ナワリヌイ氏を巡っては、人権団体や欧米諸国が即時の釈放を求めていただけにプーチン政権に対する欧米側の批判が一層強まるものとみられます。
アレクセイ・ナワリヌイ氏とは
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、ロシアでプーチン政権を批判してきた急先ぽうとして、世界的にも知られた反体制派の指導者です。

プーチン大統領が反対勢力に対する抑圧を強める中で、最大の政敵ともみられてきました。

ナワリヌイ氏は、1976年、モスクワ州生まれで、2000年代初めからプーチン政権の高官や国営企業の汚職を主にインターネット上で告発する活動を続け、若者を中心に人気のブロガーとして支持を広げていきました。

政権側の汚職や選挙の不正に対して、ナワリヌイ氏は反政権デモを呼びかけ、ロシア全土に広がりを見せました。

一方、ナワリヌイ氏自身は政権から敵視され、繰り返し拘束された上、罰金刑や実刑を科されました。

そうしたなか、2020年、ナワリヌイ氏はロシア国内を旅客機で移動中に突然、意識を失い、ドイツの病院に搬送されます。

原因の究明にあたったドイツ政府は、旧ソビエトで開発された神経剤『ノビチョク』と同じ種類の物質によって攻撃されたと発表しました。

政権側の関与が疑われる毒殺未遂事件として、世界に衝撃を与え、プーチン政権に対する国際的な批判が高まりました。

そして、ナワリヌイ氏は、2021年の1月、療養先のドイツから帰国した直後、過去の経済事件を理由に逮捕され、刑務所に収監されました。

また、ナワリヌイ氏が率いる団体もその年の6月、ロシアの裁判所から「過激派組織」に認定され、解散に追い込まれました。

さらに、2022年3月、ロシアの裁判所は、新たに詐欺などの罪で禁錮9年の判決を言い渡し、刑期が大幅に延長されることになりました。

しかし、ナワリヌイ氏は、刑務所からも支援者を通じてSNSで政権批判を続け、弾圧に屈しない姿勢を崩しませんでした。

プーチン政権が始めたウクライナへの軍事侵攻に対しても繰り返し非難し、市民に反対の声を上げるよう呼びかけました。

欧米各国や人権団体はプーチン政権に即時釈放を求め、国際社会ではこうしたナワリヌイ氏の姿勢を評価する声も高まります。

ナワリヌイ氏は、EU=ヨーロッパ連合の議会が人権擁護に貢献した人に贈る「サハロフ賞」に選出されたほか、たびたびノーベル平和賞の有力な候補にも上がりました。

また、2023年、活動を取り上げた映画『ナワリヌイ』がアメリカのアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。

2人の子どもとともに授賞式に出席した妻のユリアさんは「夫は真実を述べ、民主主義を守るためだけに刑務所にいます。夫と私たちの国が自由になる日を夢みています」と訴えていました。

一方、支援団体はナワリヌイ氏の体調が収監中に悪化しているとたびたび訴え、去年4月には「急性の胃の痛みを訴え、刑務所に救急車が呼ばれた」と明らかにした上で「ゆっくりと、しかし着実に毒殺されようとしている可能性が排除できない」と危機感を訴えていました。

ナワリヌイ氏に対し、ロシアの裁判所は去年8月、過激派団体を創設した罪などで新たに禁錮19年の判決を言い渡し、刑期がさらに大幅に延長されることになりました。

そうした状況の中でもナワリヌイ氏は、ことし3月のロシア大統領選挙をめぐって、支援団体を通じてプーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかけ、政権への批判姿勢を貫いています。

去年12月、支援団体はナワリヌイ氏との連絡が途絶え、所在が不明になったと明かし、その後、ロシア北部の北極圏にある刑務所に移送されていたことがわかりました。

ナワリヌイ氏は先月、SNSを通じて移送後の姿を見せていました。

国内の反応は
ナワリヌイ氏の妻「プーチンはすべての出来事への責任を」
ナワリヌイ氏の妻、ユリアさんは16日、出席していたミュンヘン安全保障会議で急きょ演説し「この恐ろしいニュースを信じていいのかわからない。常にうそをつくプーチンやプーチン政権を信じることができないからだ」と述べました。

その上で「もし事実なら、プーチンやその仲間たちは、彼らがわたしたちの国やわたしの家族、そして夫にしたことへの報いを受けると思い知らせたい。その日はすぐにくるだろう」と強調しました。

さらに「わたしは、いまのロシアのこの邪悪で恐ろしい政権に勝利するため、国際社会や世界の皆さんに結束を呼びかけたい。ウラジーミル・プーチンはここ数年間、ロシアに対して行ってきたすべての恐ろしい出来事への責任を負わねばならない」と述べ、国際社会に対し、プーチン大統領の責任を追及するよう訴えました。

ナワリヌイ氏の母「どんな追悼のことばも聞きたくない」
ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」によりますと、ナワリヌイ氏の母のリュドミラ氏は、フェイスブックに「どんな追悼のことばも聞きたくない。息子とは刑務所で12日に面会した。生きていて、健康そうで、人生を楽しんでいるようだった」とつづったということです。

ナデジディン元下院議員「真実でないことを願う」
ロシア当局がナワリヌイ氏が死亡したと発表したことについて、ウクライナへの軍事侵攻を批判し来月行われるロシアの大統領選挙に立候補を表明していたナデジディン元下院議員は「その情報が真実でないことを願っている。私が知るかぎり、彼はロシアで最も才能があり、勇気のある人物のひとりだ」とSNSに投稿しました。

ナデジディン氏は、大統領選挙でプーチン大統領に対抗する候補として注目され、ナワリヌイ氏のグループからも支持する声があがっていましたが、今月8日、中央選挙管理委員会は立候補は認められないとする判断を下し、ナデジディン氏は最高裁判所に訴えています。

ロシア独立系新聞編集長「刑罰に『殺害』が加えられた」
2021年にノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は「恐ろしい知らせだ。懲罰房では、動けず、食事の栄養が少なく、空気が薄く、常に寒い。3年にわたり苦痛と拷問を受けたのだ。ナワリヌイ氏への刑罰に『殺害』が加えられた」と非難し、適切な救命措置がとられたか検証するよう求めました。

ロシア人権団体幹部「政権側が故意に殺害したのだ」
また、2022年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体「メモリアル」の幹部、オレグ・オルロフ氏は、独立系メディアに対し「ロシア全体にとっての悲劇だ。ただただがく然としている」と述べた上で、「死の状況がどうだったとしても、政権側が故意に殺害したのだ。関与した者は刑事責任を負うべきだ」とプーチン政権を非難しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「殺害されたのは明らか」
ロシア当局がナワリヌイ氏が死亡したと発表したことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、訪問先のドイツで「プーチン大統領によって殺害されたのは明らかだ。プーチン大統領は誰が死のうと気にしない。彼にとって重要なことは、自分の地位を守ることだ」と述べました。

ウクライナ大統領府長官「プーチンは究極の悪だ」
ウクライナのイエルマク大統領府長官はSNSにメッセージを投稿し「プーチンは究極の『悪』だ。いかなる競争も怖がっている。プーチンにとって、ロシア国民の命はなんの意味もない」と指摘しました。

その上で「『プーチンと交渉を』と呼びかけている人々に分かってほしい。彼を信じてはならない。彼が理解できるのは『力』だけだ」として、ロシアに対し徹底抗戦する構えを改めて示しました。

フランス大統領「ロシアでは自由な精神は死刑を宣告される」
フランスのマクロン大統領は16日、旧ツイッターの「X」に、「現在のロシアでは、自由な精神は収容所へと送られ、死刑を宣告される。怒りと憤りを禁じ得ない。アレクセイ・ナワリヌイ氏の記憶、彼の献身と勇気に敬意を表したい。私の思いは、彼の家族、愛する人々、そして、ロシア国民とともにある」と投稿しました。

イギリス首相「ロシアの人々にとって大きな悲劇だ」
イギリスのスナク首相は旧ツイッターの「X」に「これはひどいニュースだ。アレクセイ・ナワリヌイ氏はロシアの民主主義の最も熱心な擁護者として、生涯を通じて信じられないほどの勇気を示した。彼の妻、そしてロシアの人々にとって大きな悲劇だ」と投稿しました。

ドイツ首相「もはや民主主義国家ではない」
ロシア当局がナワリヌイ氏が死亡したと発表したことについて、ドイツのショルツ首相は16日、記者会見で「ロシアがいかに変わったかを示す恐ろしいシグナルだ。ロシアはもはや民主主義国家ではない」と述べました。

スウェーデン首相「恐ろしいニュースだ」
ロシアのウクライナ侵攻を受けて軍事的中立を転換し、NATO=北大西洋条約機構への加盟を目指しているスウェーデンのクリステション首相は旧ツイッターの「X」への投稿で「恐ろしいニュースだ。アレクセイ・ナワリヌイ氏がもう生きていないことについてはロシア当局、そしてプーチン大統領個人に責任がある」と非難しました。

アメリカ国務長官「責任はロシアにある」
アメリカのブリンケン国務長官は16日訪問先のドイツで「プーチン氏が確立したシステムの弱さと腐敗を明確に示している。責任はロシアにある」と述べました。

フランス外相「哀悼の意を表明する」
フランスのセジュルネ外相は16日、旧ツイッターの「X」に「アレクセイ・ナワリヌイ氏は、抑圧体制への抵抗に命を捧げた。流刑地での彼の死は、プーチン体制の現実を想起させるものだ。フランスは、彼の家族と友人、そして、ロシア国民に哀悼の意を表明する」と投稿しました。

EU ミシェル大統領「責任はロシア政府にある」
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領は16日、SNSに「アレクセイ・ナワリヌイ氏は自由と民主主義の価値のために戦い、究極の犠牲を払った。この悲劇的な死に対する責任はロシア政府にある」と投稿しました。

そして「戦士は死んでも、自由のための戦いは決して終わらない」としています。

NATO事務総長「深い悲しみとともに動揺している」
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、16日、ナワリヌイ氏が死亡したという報道について「深い悲しみとともに動揺している」と述べた上で「事実をはっきりさせる必要があり、ロシアは彼が死亡した状況についてすべての重大な疑問に答える必要がある」として、真相の究明を求めました。

ベラルーシ 反政権派の指導者「故意に殺害されたこと 疑いない」
ロシアの同盟国ベラルーシで民主化運動を率いてきた反政権派の指導者、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏は「独裁者にとって人命がいかなる価値もないことが改めて明らかになった」と自身のSNSに投稿しました。

そのうえで「プーチン政権はベラルーシのルカシェンコ政権のように、権力を維持しようと手段を選ばず反対者を排除する。プーチン政権によってナワリヌイ氏が故意に殺害されたことに疑いはない」と非難しました。

その上で、ベラルーシでも、自身の夫を含め収監が続く政治犯たちが危険にさらされていると訴えました。

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