東京, 7月24日, /AJMEDIA/
公開中の映画「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」は、米ハリウッドのトップスター、ハリソン・フォード(81)の人気を決定づけたシリーズの5作目にして、15年ぶりの新作だ。
〔写真特集〕映画スター ハリソン・フォード
過去4作の演出を手掛けたスティーブン・スピルバーグが製作総指揮(ジョージ・ルーカスと共同)に回り、「ウルヴァリン:SAMURAI」や「フォードvsフェラーリ」などで知られるジェームズ・マンゴールドが監督を務めた。フォードが演じる考古学者インディアナ(インディ)・ジョーンズの“最後”の冒険が描かれる今作では、老境に入ったフォードの人間味あふれる演技が、シリーズの過去作品とはまた違った魅力を生み出している。
これまでのシリーズ作品では、十戒を刻んだ石板を収めたとされる聖櫃(せいひつ)や、キリストが最後の晩餐で使った聖杯などの秘宝をめぐって冒険が展開したが、今回は、それを手にした者は神となる力を持つというダイヤル「アンティキティラ」を軸に物語が進行する。主な舞台は1969年。大学教授の定年を迎えたインディは、旧友の娘で自分が名付け親となったヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)に半ば引きずり込まれるような形で、ダイヤルの謎を解明する冒険に駆り出される。
シリーズの売りの一つとも言える、秘宝をめぐる敵との追いつ追われつの展開は今作でも不変。要所で場面を締めるフォードの存在感はさすがだ。シリーズ第2作「魔宮の伝説」のショート・ラウンドを思わせる少年テディの登場など、随所に織り込まれたシリーズへのオマージュや、インディ顔負けの活躍を見せるヘレナのさっそうとした姿も、作品のレベルアップに貢献。特に、奔放でインディを振り回すヘレナのキャラクターは魅力的で、今後、彼女を主人公に据えたスピンオフ作品への期待も高まる。
物語の後半では、荒唐無稽にも見えるSF的展開も用意され、この部分をどう取るかで作品への評価は大きく分かれそうだ。もっとも、第1作目の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のクライマックスを例に取るまでもなく、超常現象への志向はシリーズ初期から見られたものでもある。ここは野暮は言わずに、ロマンあふれる奇想天外なストーリーを楽しむのが得策だろう。
むしろ今作では、人生の終盤に差し掛かったインディの人間的な側面にスポットを当てた演出に注目したい。胸躍る冒険を経験しながら、一個人としては深い悲しみや悩みを背負ってきたインディ。彼の人生の一端が自身の口から語られるシーンは、フォードの演技も相まって、ことに印象深い。インディの“老い”を見せるかのように、上半身裸の体をさらしたフォードの役者魂にも脱帽だ。マンゴールド監督は「X―MEN」シリーズの「LOGAN/ローガン」で、パワーの衰えたヒーロー、ウルヴァリンと年老いたプロフェッサーXの最後の日々を描いた実績があり、今作でもその手腕は十分に生かされたと言える。
さらに印象深いのはラストシーン。モノクロ映画時代のロマンチックコメディーを思わせる小粋なクロージングは、1981年のシリーズスタート以来、作品を支え続けたフォードらに向けた、マンゴールド監督やスタッフの「お疲れ様でした」との温かいねぎらいのようにも思えた。派手な描写を避け、インディのささやかな幸せを祈るような締めくくりを選んだ作り手のセンスの良さに拍手を送りたい。(時事通信社・小菅昭彦)