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貝の出荷規制につながる「貝毒」 除去する新種の微生物を発見

東京, 2月20日, /AJMEDIA/

貝を食べることでしびれや呼吸困難の症状を起こす「貝毒」の原因となるプランクトンに寄生し、これを除去する働きを持つ新種の微生物を東北大学の研究グループが発見しました。被害を減らす技術につながるのではないかと期待されています。

貝毒は有毒なプランクトンを食べた二枚貝の体内に毒素が蓄積したもので、このうち「まひ性貝毒」は食べた人に手足のしびれや頭痛、呼吸困難などの症状が出て、死亡することもあります。

東北大学大学院農学研究科の西谷豪准教授の研究グループが大阪湾の海水を詳しく分析した結果、まひ性貝毒の原因となる有毒なプランクトンに寄生して、これを除去する働きを持つ新種の微生物を発見しました。

「アメーボフリア」と呼ばれる微生物の一種で、プランクトンの表面から細胞の中に入り込むと数百個にまで増殖し、寄生したプランクトンを2~3日で消滅させるということです。

大阪湾の調査では、繁殖のピークを迎えた有毒プランクトンの70%余りにこの微生物が寄生し、1週間から2週間でほぼ消滅させましたが、多くの海の生物が餌とする「けいそう」などの植物プランクトンには寄生しないということです。

都道府県などが行う検査で基準を超える貝毒が検出され貝の出荷が規制される事例は、宮城県や岩手県などで増えているということで、研究グループは微生物を増やして海にまくことで、被害や影響を減らせるのではないかと期待しています。

西谷准教授は「実用化を目指して安全性や効果を確認し、漁業者の協力も得ながら3年後をめどに海での試験を始めたい」と話しています。
有毒プランクトンを消滅させる様子
新たに発見された微生物が、貝毒の原因となる有毒プランクトンに寄生し消滅させる様子を顕微鏡で撮影した映像では、微生物が有毒なプランクトンに取りつくと、細胞の中に侵入して増殖していきます。

最後には微生物が300個から400個にまで増えて、プランクトンをいわば乗っ取り、内側から突き破って周りに拡散していく様子が確認できます。

有毒なプランクトンを培養し、大量に増やした液体は茶色く濁り、赤潮のような状態になっています。

この液体に、発見した微生物を入れて1週間余り経過すると、無色透明になり、プランクトンが消滅したことが分かります。

西谷准教授は「微生物が寄生すると、驚異的な速さで増殖し、プランクトンを除去することができる」と指摘しています。
まひ性貝毒 水産業界では深刻な問題に
水産研究・教育機構や厚生労働省によりますと、まひ性の貝毒は北海道から沖縄までの各海域で発生していますが、近年は範囲が広がったり、期間が長くなったりする傾向にあり、水産業界では深刻な問題になっています。

瀬戸内海を例にすると、例年、まひ性の貝毒が報告されてきたのは主に西側の海域でしたが、近年は大阪湾や播磨灘といった東側の海域でも確認されるようになったということです。

さらに、貝毒が発生する期間も長くなっていて、通常は海水温が上昇する4月下旬ごろから発生し水温が冷たくなると収まるとされていますが、近年は2月ごろから貝毒の発生が報告されるようになっていて、出荷できない時期が長期化する傾向があるということです。

まひ性の貝毒をめぐっては発生を未然に防ぐ対策はないとされていて、発生が確認されれば出荷を制限する措置などが取られています。

水産研究・教育機構の浜口昌巳さんは「養殖業者にとって貝毒の被害は年々深刻になってきている。これまで対策はないとされてきたので、今回の成果は有効な対処方法になる可能性があるとして期待される」と話していました。
宮城県では東日本大震災以降に増加傾向
宮城県の各海域で国の基準値を超える貝毒が検出され出荷の自主規制が行われた件数はここ数年多い状態が続き、規制の期間も長引く傾向があります。

宮城県のまとめによりますと、貝毒の検出に伴う出荷の自主規制が行われた件数は以前は年間に10件前後でしたが、東日本大震災が発生した平成23年ごろからは増加傾向にあります。

平成30年は26件と、記録が残る平成4年以降で初めて20件を超え、おととしはさらに増えて37件となりました。

去年も29件にのぼっています。

また以前は、水温が低くなると、原因のプランクトンの発生が落ち着くとされていましたが、最近は冬になっても貝毒が検出されることがあり、ホタテガイなどでは出荷規制の期間が200日以上に及ぶ事例が相次いでいます。

こうした背景について、宮城県は東日本大震災の津波で貝毒の原因となるプランクトンが海底から浮き上がり活性化した可能性が考えられると指摘しています。

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