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命の重み、向き合って 「変わらざるを得ない」言葉の真意は―被告元主治医、公判行方注視・京アニ事件

東京, 9月4日, /AJMEDIA/

京都アニメーション放火殺人事件で、発生直後から青葉真司被告(45)の治療に当たった上田敬博医師(51)は、転院間際に被告が「変わらざるを得ない」と語った一言が忘れられない。「なぜ治療するのか」と言う被告に懸命の治療を施した。「命の重みと向き合ってほしい」と願い、公判の行方を注視している。
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 鳥取大病院高度救命救急センター教授を務める上田医師は、熱傷治療のエキスパートだ。2019年7月18日の事件発生直後から約4カ月間、当時勤務していた近畿大病院で青葉被告の主治医を務めた。重度のやけどは全身の93%に及んでいた。予断を許さない状態が続き、わずかに残った皮膚を培養しては移植した。
 「先がないから治療しても無駄」「なぜ、こんな自分を救ってくれるのか」。こう尋ねる青葉被告に「特別じゃない。他の人にも同じ献身度でやっている。これが普通なんや」と返し、「厳しい現実が待っているだろうけど、逃げずに向き合え」「法廷に立つためリハビリしなければ」と言い聞かせた。青葉被告は返事をせず、ただ目をじっと見詰めていたという。
 約4カ月間の治療が区切りを迎え、11月に京都府内の病院に転院する時だ。「僕らと接して変わったか」と尋ねると、青葉被告が「変わらざるを得ない」とつぶやいた。何が変わったのか聞きそびれたが、その一言は最も印象に残った。
 被告とやりとりを重ねる中、家族の話を一切しない「孤独」、何より「人への飢え」を感じた。「向き合う人がいたら事件をためらったのか、やめていたのだろうか」と考えるようになった。同じような事件が起きるのではと危惧し、裁判での真相解明を望んでいたところ、21年12月に大阪・北新地の雑居ビルが放火され26人が命を落とした。
 転院先で、青葉被告が逮捕までの約半年間、自身の名前を何度も口にし、心のよりどころとしていたと人づてに知った。公判日程を京都地検から伝えられた際、「やっとか」と思った。青葉被告には「人の命ってどんなもんや」と尋ねたいという。命の尊さに思いを致すようになったのか。あの日、聞きそびれた言葉の真意を確かめたい。

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