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台湾揺さぶる中国「グレーゾーン」戦略

東京, 3月21日, /AJMEDIA/

◇離島上空に民用機
 2月5日、台湾の離島上空で国籍不明のプロペラ機が民間人に目撃された。後に軍用機ではなく民用の中国機と判明したが、当局の説明がメディア報道の後手に回り、住民に動揺が広がった。有事と判断しにくい「グレーゾーン」戦略を中国が仕掛けた可能性があり、専門家からは離島防衛の強化を求める声が上がった。(時事通信社台北支局 江藤綾香)
◇軍対応は非公開
 不明機が目撃されたのは、中国大陸に近い馬祖列島の一部である東引島。台湾海峡の北側に位置する。主要紙・聯合報は翌6日、無人機が防空識別圏に進入し低空飛行したもようだと伝えた。地元住民は同紙に、「墜落かと思った」ほどの騒音だったと話している。
 国防部は6日夜の広報対応で「民用だった」と説明するにとどめ、国籍は明らかにしなかった。すでにメディアが報道していた、中国の多目的輸送機「運12」と認めたのは発生から10日後の15日。報道官はこの日の会見で、「中国が台湾軍の反応を試すために民間機を使用した可能性を排除しない」と警戒心をあらわにした。
 台湾にとって、中国による「グレーゾーン」侵害は日常化している。台湾の防空識別圏への中国軍機の進入が代表例で、日常的に飛行を行い領有権の既成事実化を狙っている。国防部は昨年の国防報告で、これらの進入を中国のグレーゾーン戦略だと認定した。
 国防部は毎晩、中国機の進入件数と機種を公表しているが、東引島のケースは当日の発表に含まれなかった。民用機だったため対象外とも言えるが、国防部は民用機と判断したタイミングも含めて本件に関する軍の対処は「機密情報」として説明を避けた。一部メディアから現場が進入を正確に把握できなかったのではないかという指摘もあり、国防部は否定している。
 連日の中国軍機進入を受け、追い払うため緊急発進(スクランブル)を繰り返す台湾空軍の疲弊がすでに指摘されている。今回のような民用機の進入が、今後故意に繰り返されれば、そのたびに複雑な判断が求められる台湾軍の負担増は計り知れない。
◇離島防衛に課題
 東引島の一件を受け、台湾の軍事専門家が訴えるのは離島防衛の見直しだ。元国防部幹部の姚中原氏は、主要紙・自由時報へ寄稿し「軍用か民用かにかかわらず、中国機の恣意(しい)的な離島侵入は台湾の領土主権を危険にさらし、住民の安全への脅威になる」と指摘。グレーゾーン戦略への対処を含む離島防衛の新戦略が必要だと訴えた。
 姚氏は、中国の標的は台湾が実効支配する南シナ海の東沙諸島だとする日本の小笠原欣幸・東京外国語大大学院教授の分析を紹介。「実際に中国は南シナ海で離島奪取を想定した演習を行い、台湾軍の東沙諸島の防衛体制をチェックしている」と賛同した。
 現在、台湾軍が通常行う演習の多くは、本土が主戦場になることを想定している。警戒すべき離島は東沙諸島以外にも、金門、馬祖、澎湖など幾つもあるが、軍事専門家の宋玉寧氏によると「軍が徴兵制から志願制に移行したことによる人材不足が影響し、離島で防衛に当たる隊員は大幅に減少した」という。離島の効果的な防衛体制の研究が急がれている。

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