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「イカゲーム」の快挙、SFへの進出…昨今の韓国コンテンツの流れから見えてくる2022年の注目作は?

東京, 1月24日, /AJMEDIA/

「イカゲーム」がNetflix史上最大のヒット作として世界的な社会現象を巻き起こした2021年。前年の「愛の不時着」&「梨泰院クラス」を悠々と超えるその過熱ぶりは、韓流コンテンツの実力が一過性のものではないことを知らしめた。『パラサイト 半地下の家族』(19)以降、世界中から熱い視線を集めるまでに至った韓国の映画とドラマ。昨今の潮流を振り返りつつ、今年の注目作を紹介していきたい。

■映画界の人材のドラマへの進出、ヒットを連発するウェブトゥーン原作
2021年の韓国コンテンツで最も注目を集めたのが、配信開始1か月で1億4200万世帯が視聴した「イカゲーム」だ。ハロウィンの頃には多くのセレブたちが作品のコスプレを披露。アメリカの学校では「イカゲーム」のコスプレ禁止令まで敷かれたほどで、韓国に限定せず、世界の作品のなかでも主役と言うべきセンセーショナルを巻き起こした。

多額の借金を抱えたプレイヤーたちによる大金を懸けたデスゲームが題材の本作は、話題性はもちろん中身も高く評価され、ゴールデングローブ賞ではドラマ作品賞、主演男優賞(ドラマ部門)、助演男優賞の3部門でノミネート。そしてオ・ヨンスが助演男優賞を韓国人俳優として初めて受賞した。

このヒット&高評価の要因の一つが、映画界で活躍している才能が顔をそろえたことだろう。メガホンを握ったのは『トガニ 幼き瞳の告発』(11)で、ろうあ者福祉施設の闇に切り込んだ一方、『怪しい彼女』(14)ではエンタメ色の強い作品を作り上げたファン・ドンヒョク監督。「イカゲーム」でも韓国における格差社会を背景にしたデスゲームという、社会のグロテスクな面を残酷かつスリリングに描いてみせた。

さらに俳優陣では、借金まみれのダメ親父の主人公を演じ、新境地を開拓したイ・ジョンジェをはじめ、主人公がゲームに参加するきっかけをつくる謎のメンコ男にコン・ユ、さらにはイ・ビョンホンと現在の韓国映画界を牽引するビッグネームが名を連ね、作品にクオリティをもたらした。

海を越えて日本の三池崇史が「Connect(英題)」を手掛けることが決まっていたりと、「イカゲーム」に限らず韓国のドラマ業界では、映画界の人材を起用する動きが多く見られる。Netflixオリジナルドラマ「地獄が呼んでいる」もまた、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)などで知られるヨン・サンホが監督、さらに『バーニング 劇場版』(18)のユ・アインが主演を務め、こちらも配信されるや否や初登場世界1位を獲得する大ヒットとなった。

この「地獄が呼んでいる」のもう一つの大きなポイントが、“ウェブトゥーン”と呼ばれるWEB漫画を原作としていること。原作者はヨン・サンホ監督自身だ。韓国では2010年代からケーブルテレビ局が台頭したことにより、コンテンツの激戦化が始まり、「梨泰院クラス」など、それまでのドラマと一線を画すウェブトゥーンを原作としたユニークなドラマが急増&ヒットを飛ばしている。2021年も「ナビレラ-それでも蝶は舞う-」や「わかっていても」といった多くのウェブトーゥン原作ドラマが生みだされた。

ウェブトゥーン原作ものは、奇抜かつ地上波では放送できないような過激な内容の作品も多い。実際「地獄が呼んでいる」も、不可解な存在に地獄行きを宣告された人々が、正体不明のゴリラのような怪物によって残酷に殺され、混乱に陥るというダークかつファンタジックなストーリーが展開する。

一見、安っぽくなってしまいそうな突飛な世界観だが、十分な資金を費やし、さらに容赦のない過激なシーンを盛り込むことで、原作の魅力を映像面から丁寧かつハイクオリティに実写化。これはNetflix作品だけでなく、ケーブル局制作のコンテンツにも言えることで、それゆえに世界で勝負できる作品が次々と生まれている。

一方、近年停滞気味なのが地上波のドラマ。その原因の一つが、放送法で中間広告を入れられないことやケーブル局の台頭により、広告収入がグッと落ち込んでしまったこと。そんな状況を解消するため、昨年7月には中間広告が解禁される動きも。これにより制作の現場や作品にどのような影響が出るのか?今後の動きに注目したい。

■ハイクオリティな映像が支える本格SF作品の隆盛

映画界にも当てはまる映像クオリティの高さ。その質を担っているのが、韓国のVFX制作会社Dexter Studios(デクスター・スタジオ)だ。このスタジオは、キム・ヨンファ監督が、ゴリラがプロ野球に殴り込むスポーツコメディ『ミスターGO!』(12)を作る際に立ち上げた会社。『パラサイト 半地下の家族』や「神と共に」シリーズなど近年のヒット作を陰から支えており、2021年に日本公開された作品では、北朝鮮と中国の境にある火山噴火パニックムービー『白頭山大噴火』の、大迫力のディザスター描写も観客の度肝を抜いた。

なかでもデクスター・スタジオが手掛けた作品で、2021年に最も大きな注目を集めたのが『スペース・スウィーパーズ』だ。宇宙ゴミの回収を生業とするはぐれもの宇宙船クルーの活躍を描いた“韓国初の宇宙を舞台にしたSF”だ。

本作でデクスター・スタジオは、2000カットにもおよぶVFXシーンのうちの約70%を担当。それまでは、クリーチャー系で手腕を見せつけてきたが、宇宙や宇宙船、ロボットといった新たな領域でもその実力を発揮。宇宙船同士のチェイスシーンのように美しくも迫力満点のハリウッド顔負けの映像を生みだしてみせた。

また、“SF”も2021年の韓流コンテンツのキーワード。このジャンルはこれまで韓国では不人気で、映画だけでなく小説などの領域でもあまり作品が作られてこなかった。しかし『スペース・スウィーパーズ』だけでなく、2021年は『SEOBOK/ソボク』といった大作も作られており、大きな潮目を迎えている。

『SEOBOK/ソボク』は、余命宣告を受けた元エージェントが、国家の極秘プロジェクトによって誕生したクローン人間を様々な陰謀から守っていくという1作。数々のヒット作に名を連ねてきたコン・ユと青春スターとして本国で絶大な人気を誇るパク・ボゴムがキャスティングされていることでも、韓国の映像業界が、SFジャンルに本気で踏み込もうとしていることがわかるはずだ。

■昨今のキラーコンテンツ、K-ゾンビ作品も…2022年の注目作は?

ここからは2022年に注目したい作品をピックアップ。まずドラマでは、昨年末からNetflixで配信されている「静かなる海」を紹介したい。ペ・ドゥナ、コン・ユらスター俳優が名を連ねた本作は、月に存在する閉鎖された宇宙基地から、あるサンプルの回収という危険なミッションに挑む隊員たちを襲うスリリングな事件を描いた本格的なSFスリラー。

舞台である宇宙と月を表現するため、LEDパネルを用いた“バーチャルプロダクション”と呼ばれる最新のVFX技術が用いられており、その映像美にも高い評価が集まっている。SFジャンルにさらに踏み込んでいった挑戦的な1作なので、韓国作品を追っている人はぜひチェックしておきたい。

またNetflixで1月28日(金)から配信開始となる「今、私たちの学校は…」は、ウェブトゥーン原作、映画監督の起用とヒットドラマの法則に当てはまる1作だ。ゾンビであふれかえった高校を舞台に、構内に閉じ込められた生徒たちが、生き残りを懸けた戦いに挑むホラー。『完璧な他人』(18)や『王の涙 イ・サンの決断』(14)といった作品を手掛けてきたイ・ジェギュがメガホンを握っている。

さらに『新感染 ファイナル・エクスプレス』やドラマ「キングダム」など世界的に注目されている韓国ゾンビものである点、「梨泰院クラス」などの数々のヒットドラマを生みだしてきたJTBCが制作プロダクションとして名を連ねている点でも、話題になることは間違いないだろう。

映画からは『声もなく』(1月21日公開)に注目したい。「地獄が呼んでいる」の主演としてグッと知名度を上げたユ・アイン。彼がいっさいセリフのない難役を演じ、韓国の賞レースの権威である青龍賞と百想芸術大賞を総なめにした本作は、誘拐犯となってしまった口のきけない青年と両親から身代金を払ってもらえない誘拐された少女、社会に見捨てれた2人の邂逅を綴る人間ドラマだ。

メガホンを握るのは今作が長編デビューにもかかわらず、数々の賞レースで新人賞に輝いている女性監督のホン・ウィジョン。韓国といえば近年、『はちどり』(18)のキム・ボラ、『82年生まれ、キム・ジヨン』(20)のキム・ドヨンら、女性監督が次々と名作を生みだし、日本でも映画好きを中心に話題を集めている。そういう意味でも本作は注目して損はない作品だ。

また今年公開されるかはわからないが、デクスター・スタジオ、SFという観点から注目なのが『ザ・ムーン(仮題)』だ。キム・ヨンファ監督が「神と共に」シリーズで惚れ込んだD.O.(EXO)と名優ソル・ギョングが共演し、宇宙に1人残された男と彼を救おうと奮闘する男の物語が展開する。撮影はすでに昨年10月に終了しているとのことで、続報が楽しみな作品だ。

毎年、クオリティの高い作品とビッグなニュースを提供してくれる韓国の映像業界。今年もどんな作品に出会えるのか?楽しみでならない!

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